第9話 遅番
―――翌翌日。
昨日は休みだったので、今日はまたバイトだ。
空乃とはホルコンの関係上、中々一緒のシフトに入れていないので、休日はすれ違いが多くなっていた。なので、今日が空乃の休み。それでも家では普通に顔を合わしてはいるけどね。
僕は最近朝食も食べないで平気になってきたので、空乃には気を遣わず自分だけ食べてくれと言ってある。それでも空乃は身体に良くないから、とブーブー言って中々納得してもらえなかったけど。
考えてみれば夜も夢と食べてから帰っていたから、ここ数日はあまりまともに会話らしい会話はしていないかもしれない。でも空乃も帰りが遅くなっていたし、音筆やメッシ達と食べてから帰ってきているんだろう。
心配ではあるけれど、お節介しすぎるのも良くないしな。
子どもじゃないんだし、ましてや兄妹なんてこんなもんだろう。
それでも朝だけは見送ってくれるのが空乃の優しい所。
玄関で行く準備をしていると、部屋から空乃が出てきた。
「あ、もう行く時間ですか?」
「うん、行ってくるよ。折角の休みなんだからもう少し寝ていたら?」
「大丈夫です。今日は早く帰ってきます?」
「あー、今日は夢の奴がいないから、終わったらすぐ帰ってくるよ」
「夢ちゃんがいないから……?」
「うん」
「……それはいつも夢ちゃんとお食事してたから遅かったって事ですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「分かりました。気を付けて行ってきてくださいね」
ニコリと微笑む。
「うん……行ってきます」
店に着くと丁度鍵でドアを開けている音筆がいた。
「よっ、久し振り!」
と後ろから声をかける。
音筆と会うのは久し振りだった。
ビクッとして
「なんだアンタか……びっくりさせないでよ」
「ちゃんと鍵開けられるようになった?」
冷やかすように言う。
「ハァっ!?当たり前でしょ?」
ここのセキュリティは結構厳重で、まず扉の鍵を二つ開けて店に入り、その後十秒以内にすぐ右側のカウンターの横にあるセキュリティ部分にカードをかざして解除しなければ、約五分程で警備会社が駆けつけてきてしまうのだ。
何故知っているのかって、一度音筆が失敗しているからだ。その時はすぐに駆けつけてきた警備会社にひたすら謝ったっけ。
それから少し音筆はトラウマになっているようだった。
「今日は失敗しないですごいじゃん」
「馬鹿にしないでくれない!?」
「いや、素直に褒めてるんだけど?」
実際は馬鹿にしてるけど。
「あっそ!」
フンっと相変わらずツンツンしている。
二人で店内、休憩室までの通り道の照明を付け、スタッフルームに入った。
「どう仕事は?」
「普通よ。アンタは?」
「普通だな」
そこでメッシがあくびをしながら「おはよー……」と入ってきた。
「ねみぃなぁー」
と続ける。
そこで僕は気が付いた。
「あれっ、今日のメンバーってこの三人?」
「そうよ」
「みたいだなぁー」
と二人。
「じゃあさ、ホルコンて誰がやるんだ?」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
んー?
と三人して首を傾げた。
そこでメッシが言い出した。
「これはじゃんけんか……?」
「じゃんけんって……」
「それしかないわね」
「じゃあいくぞ~」
と音頭を取るメッシ。
「「「最初はグ~」」」
「「「じゃ~んけん!」」」
―――ポンッ
出された手を見ると四つ。
上を見上げると……
「「「店長!?」」」
「おはよ~、これって何のじゃんけん?」
まずい……
ホルコンの擦り付け合いとは言えない。
「そ、掃除当番のですよ!」
とっさの言い訳にしてはナイスだ音筆!
二人して顔を見合わせる。
「え、ホルコンを誰がやるかじゃなかったっけ?」
とメッシ。
((バーカかおめえぇぇはあぁ!!?))
二人してそう思った。
「ハハハハッ!確かに今日はまだ皆研修生だもんね」
そう言って店長が笑いながら続けた。
「それじゃあ僕が今日のホルコンを決めてあげるよ」
と、カバンから何やらガサガサ取り出した。
ゴホンとわざとらしい咳ばらいをして
「水崎君、名札貸して?」
「えっ、はい」
動揺しながら名札を渡す。
それを黙って見ている音筆とメッシ。
「よし!みんな注目!今日から水崎君がランクDになりました~、はい拍手~!」
「えええ!」
いきなり過ぎる!
二人共呆然としながら拍手してくれている。
「はい、オープンからよく頑張りました!これからも宜しく頼むね!」
そう言いながら僕に名札を手渡した。
「二人もランクアップ目指して頑張ってね!」
と店長。
「あー、でも皆に勘違いしないでほしいのは、ランクアップしていないからって自分は仕事が出来ないんだとか思わないでね。普通は三か月で研修生が外れれば上出来な訳で、一か月以内ってのはたまにいる特例だから」
「ねっ?」
と音筆とメッシの方を見る。
「という訳で、今日のホルコンは水崎君で決まり~!はい、じゃあ皆解散!掃除掃除~」と促す。
普段あまり店には顔を出さない店長が、珍しく朝から来たと思えばこういう事か。つか、ついに上がってしまったか……。いや、嫌みではなく。これからは僕もホルコンしなければならないという事だ。自分の指示に責任を持たなければ……。
「それでさ、水崎君。後で話があるから、朝礼終わったら事務室来てくれる?」
「はい」
恐らくシフトの事だろう。
――朝礼が終わり、カウンターと店内を見回る僕。
店の今の状態を把握し、二人に指示を出すためだ。
指示を出す側ではなかったので今まで気が付かなかったが、割と真面目に店内の状態がまずい。何がまずいって、まず各本棚は穴開きが目立つ。穴開きとはそのままの通りで、本と本との間に何も置かれていなくて穴が開いているように見える状態の事だ。
例えばお客様がコミックの二巻から十巻までごっそり買っていっていたのなら、その間の巻数を補充しなければ、そのコミックはもう買われる事はないだろう。間が抜けてしまっているんだから。
次に気になったのは面陳だ。
面陳とは分かり易く説明すると、例えばこういうお店に行った時に、まったく買うつもりがなかったけど表紙の絵が気になって、パッと手に取った事はないだろうか。つまり、自分の家の本棚には本を縦にして、背表紙が手前にくるように並べてあるだろ?その方が沢山棚に入るし。
でもお店だとそれだけじゃ駄目だ。あえて横に、表紙が手前にくるように並べれば、興味がなかったお客様も、絵柄が気になって手に取り、あわよくばそのまま買ってくれるかもしれない。売れる可能性が生まれるのだ。面陳にするものは売れ筋であったり、マイナーだけれど隠れた名作であったりと、それこそ作業する店員のセンスが問われる。ただ置いたって駄目って事。
本においてはその面陳が適当すぎるし、DVDやゲームソフトに関しては、面陳が穴開きになっているという駄目っぷりだった。
極めつけは、カウンター内の未加工の物。
買い取った物で溢れかえっている。
カウンターに入って見てみると、中には最新作のゲームまであった。こういうのは他の物の加工が出来ないのであれば、優先して加工して即出しすればすぐに売れるというのに……。今の所、駄目な部分にしか目が向かない。
この数々の気付いた点、誰が悪いとか言いたくないし、その場にいた訳じゃないから実際は忙しすぎて出来なかっただけなのかもしれないけど、ごめん。この状態だけを見ると、遅番さん達の引継ぎが悪すぎると思ってしまう……。
夢と空乃はこの悲惨な状況の中、いつもあんなにスムーズに回していたんだな。普通に尊敬する。というよりも気付けなかった自分が申し訳なくて仕方がない。
さてと、そろそろ指示を出さないと……。
カウンターの外から二人が指示を出されるのを待っている。その後ろで店長も、僕がどんな指示を出すのか聞こうとしている。
僕は少し考えた後――
「ええっと、じゃあまずメッシ」
「おう!」
「メッシはカウンターに入って加工をしつつレジの対応をお願いできるかな?」
「オッケー」
「加工する物は、量がありすぎるからまず先にお店に在庫が少なそうなコミックか、よく売れている物を優先。その後で巻数が一気に続いている物や、比較的汚れが少なくすぐに加工が終わりそうな物から頼む。その前にこの最新作のゲームソフトだけ、ちょちょっと加工してほしい。他のソフト系は僕が戻ったら一気に加工するから」
「りょーかい!」
「次に音筆」
「はいっ」
店長が見ているからか少し緊張しているみたいだな。
「音筆はまずすぐに見栄えが悪すぎるソフト系の面陳の穴を簡単にでいいから埋めてくれる?面にする物はそこまで深く考えなくていいから。後で僕が加工したものを出しながら変えていくし。このままだと在庫が少なそうに見えて、お客様の目にも止まらないと思うから」
「う、うん」
「それが終わったら次は、コミック、文庫、新書、単行の順で穴開けを補充してほしい。んで、それをやりつつメッシが加工したものにも気を留めてくれ。メッシには優先して出した方が良さそうなものから加工をお願いしてるから、穴開けの補充をしつつも、加工された物を出す事を最優先。雑誌の補充は一番最後で良いから」
「わ、分かった」
「あ、それともし買取が来てしまった場合には、加工を止めたくないんだけど、ひとまずメッシは買取とレジをやってほしい。店内の穴開きの方がヤバいから。まずそうだったら放送で音筆を呼ぶ事。僕が戻ったらヘルプに入るから」
「ひとまずはこれで。今日は色々やる事が多いし、初めてのフロコンで迷惑かけちゃうかもしれないけど、今日も一日、宜しくお願いします」
「「宜しくお願いします」」
それを見届けた店長は、微笑みながら事務室へ戻っていった。
はぁー、緊張した。
なんとか上手くできたかな?
「それじゃあ僕は一旦、店長の所に行ってくるから、二人共お願いな?」
「あいよー」
「分かったわ」
―――事務室に行くと
「いいね水崎君!正直かなり驚いたよ!」
ニコニコしながら店長が言う。
「あ、ありがとうございます」
なんだかこっぱずかしい。
「仕事できるようになったなーとは思っていたけど、まさかそこまで視野を広げて見ることができるようになってたとはね。僕に仕事出来るとこ、あんまり見せないようにしてたでしょ?」
「いやいや!そんなことは……!」
ないとも言えないけど。
「これなら安心してお願いしたい事があるんだけどさ」
「何でしょう?」
もう知ってるけど。
「しばらく遅番に入ってもらえないかな?」
これこれこういう訳で―――と、夢から聞いていた通りの内容を聞く。
「そういう事なら……」
「えっ、受けてくれるの?時間とか遅くなるけど大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
正直遅番の子達とは引継ぎの時に軽く挨拶する程度で、名前すらもしらないからだいぶ不安ではあるけども。
「いや!ほんと助かるよ!遅番の子達に早番との能力の差を見せつけてやってくれ!」
店長としてその発言はどうなんだろうか……。
「店長、そのために僕のランク上げましたね?」
「い~や?」
笑ってはぐらかす。
確信犯だろ絶対。
でも実際今日の状況を見たら少し遅番の子達の様子も気になるしな。
少し遅番に入るくらいならいいか。
「じゃあ明日から丁度新しいシフトだし、今出すから待ってて」
「はい」
――「じゃあこれでしばらく宜しくね!これから僕会議があるから、じゃね!」
っと逃げるように出て行ってしまった。
ほんとこのためだけに来たんだなあの人。
と、渡されたシフトを何気なく見てみると
「うおおぉぉーい!」
思わず声を上げた。
――明日からのシフトが全部遅番になっていた。
夢に見せてもらってた仮シフトと全然違うんですけど!
店長の言動をゆっくり思い出す。
――「しばらく遅番に入ってもらえないかな」――
しばらく……。
そう言ってた。
あの人、シフト変えたな。
その後店内に戻り、なんとか捌ききった僕達。
遅番の子達と引継ぎをする。
「僕、後から行くから先上がってて」
メッシ達にそう告げ、遅番の子達に軽く挨拶をしに行く。
なんか今のタイミングで全員に挨拶するのも妙だし、とホルコンしていた子の元へ行く。
「あ、お疲れさまです。今ちょっと大丈夫ですか?」
「はぁ……はい、何でしょうか」
怪訝そうな顔をする一人の少女。
ため息をつかれ、警戒されている気がする。
歳は……分かんないや。
僕より若干下か上か位だろうか。
黒髪にポニーテールがよく似合う、可愛らしい子だ。
「ええっと、僕ずっと朝晩だったんだけどさ。明日から事情があってしばらく遅番になったから、明日から宜しくお願いします」
「はぁ……」
またため息!?
「……どうして私に?」
なんでこんなに機嫌悪そうなの?
ちょっと怖いんだけど。
「いや、ホルコンしてそうだったから、かな?」
「そうですか。宜しくお願いします」
今度はこちらも見ずにそう言った。
「うん……じゃあ、お疲れ様です」
「……さまです」
――最悪なファーストコンタクトだった。
とぼとぼと休憩室に戻る僕。
こう見えて僕ってガラスハートなんだけど。
こんな事なら断れば良かったと、早くも後悔し始めている僕だった。
休憩室に戻って早々
「アンタ来月ずっと遅番になってるけどどういう事!?」
音筆に詰め寄られる。
「えっ?なんでなんで?」
それに便乗するメッシ。
「……僕が聞きたいよ」
二人に事の顛末を話す訳にはいかず、よく分からないけど店長にしばらく遅番になってほしいと言われた事だけを伝えた。
「その分私が出る日数も増えてるんですけど!」
と音筆。そっちが本音か。
その反面
「まじかよぉー、水崎しばらくいないのかよぉー」
と悲しそうにしてくれるメッシ。
あぁ、メッシ……悲しがってくれるのか。と思っていたら「仕事が大変になるー!」と続けた。お前もかメッシ。
こいつら案外薄情だな。
気持ちが少し冷めていた。
「じゃあ明日から頑張れよ!」
わりぃ、俺今日この後用事あるから!と帰ってしまった。
ますます冷めていた。
「……」
それを見ていた音筆。
「アンタさ、この後ちょっと時間ある?」
「ん……?まぁ」
「じゃあ少し付き合って」
「何?ナンパ?」
「ばっかじゃないの!?先行ってるから!」
と先に出て行ってしまった。
ふむ……。
まぁまぁ心に傷を負っているんだが仕方ない。
付いていくとしよう。
とぼとぼと歩き出し店を出る。
チラッとカウンターを見てみると、さっきの子が一人せっせか買取をしていた。一瞬目が合ったが、またすぐに逸らされてしまった。周りの子はカウンター内で相談でもしているのか何やら話し込んでいる様だった。
店を出ると音筆が
「おっそい!ほら行くわよ!」
とスタスタ前を歩き始め、付いていくと同じ敷地内にあるカフェだった。
そういえば話した事なかったが、僕たちが働いている店は、ショッピングモール?とは少し違うけど、色々なお店が辺りにくっついているような構造になっている。いつも行っているファミレスや、今来ているこのカフェも、その一角である。
「私、アイスコーヒーにするけどアンタは?」
「じゃあ僕もそれで」
適当なコーヒーを頼み、席に着く。
「あぁ~、今日も疲れたっ」
と腕を伸ばし、コーヒーを一口飲む音筆。
「そうだな」
と僕も一口。
にがっ!
思わずむせそうになった。
それを見ていて音筆は察したのだろう。
そう、僕は苦いのが苦手だ。
どちらかというと甘党である。
なのでコーヒーなんか飲んだことなかった。
「アンタ苦いの苦手でしょ?甘くすれば?」
と、珍しく嫌みのない笑顔で言ってきた。
「ばれたか……そうさせてもらうわ」
と席を立ち、スティックシュガーを持ってくる。
それを音筆の前で豪快に入れ、ストローでかき混ぜる。
音筆は目をパチクリしながらその様子を見ていた。
なんなんだ見せもんじゃねーぞ、まったく。
そう思いながら再度一口飲む。
――ジャリッ
「にげぇー……」
「アハハハハハッ!」
その一部始終を見ていた音筆が豪快に笑いだす。
それにビクッとして「なんだよ急に」と苦みが取れていない口で返事する。なんかもう口の中がジャリッジャリするわ。なんで?
アハハと涙を流しながらまだ笑っている音筆。
そんなに笑う事なのだろうか。
「おい?」
「ごめんごめんっ!あまりにも……可笑しくて……」
過呼吸になりそうな程だった。
はぁー、はぁー、と少し落ち着いた様子の音筆が続ける。
「だってアイスコーヒーなのに砂糖入れてるから、溶ける訳ないのに……」
「あっ、そうか!」
僕も気が付いた。
「入れるなら普通ガムシロでしょ」
「確かに……どうりで苦いし口の中ジャリジャリすると思ったわ」
「フフッ、あー面白かった!」
「馬鹿ですみませんね」
「んーん、今のは好きだわ私」
「そりゃどーも」
もうこのまま飲む事にした僕だった。
強がってコーヒーを飲もうとしているそこの君たちも気をつけろよ!
「でさ、話変わってアンタの今日のホルコンだけどさ」
「ああ、初めてだったから色々悪かったな」
「そうじゃなくて、的確な指示でかなり良かったと思うよ」
「へっ?」
「すごくやりやすかった」
「あぁ……そう?それはどうも」
褒められる事には慣れていないもので。
「それでなんだけどさ、アンタから見て私ってどう?」
「どうって?」
「だから、私に足りないとこというか直すべき点というか、とにかくそういうのよ!」
「うーん、そうだなぁ……」
真剣な眼差しでこっちを見つめている。
「よく動けているとは思うけどしいて言えば……」
「うんうん」
「丁寧過ぎる、かな?」
「例えば今日音筆に加工を任せなかったのは、率直に言うと加工が遅いからなんだよね。でもそれがただ悪いってんじゃなくて、良い風に言えば丁寧すぎるからかな。几帳面な性格なのか、全部隅々まで綺麗に加工しようとしてるでしょ?」
「うっ……それは確かに」
「勿論売り物にするんだから当然それは良い事なんだけどさ。十円で売る商品を高額で売る商品と同じ位にまで綺麗にする必要があるかって事。かといって汚いままでいいって言っている訳じゃなくて、それを維持しながら手早く出来れば最高だよ?でもさ、効率的じゃないよね。かけている時間に利益が見合ってない」
「その点メッシは、良い意味で適当だから、ほどほどの品質にしながらも加工が早いんだよ。今度メッシの加工したものをちゃんと見てみるといいよ。不快感を感じない程度に加工されてるから。」
「なるほど……」
「加工の面では少し厳しい言い方をしちゃったけど、その分穴埋めや補充、品出しには向いてると思うよ。気が利くから誰に言われるでもなく、たまに気が付いて直したりしてるでしょ?朝の面陳直しも深く考えなくていいって言ったのに、僕が直すまでもなかったもん。それに早かったし。」
「……」
やべ、言い過ぎたかな?
どこかのコピペかよって位ベラベラ喋ってしまった。
「とまぁ、そういう自分はどうなんだって位偉そうに語ってしまったけど、なんというかほら、人には向き不向きがある訳で、あまり気にしすぎない方が良いといいますか……その、ごめん」
「なんで謝るのよ」
「いやほら僕だって注意されるべき点はいくらでもあるくせに偉そうに」
「いや凄いわ水崎は」
「えっ?」
「私、感心しちゃった。よく見てくれてるんだね、私たちの事」
「いやいやそんな僕なんか」
だから褒めないでほしい。
「んーん、そこは謙遜しなくていいと思う。ここまで考えて見てくれてるのは水崎しかいないでしょうね」
「いやいやいや」
だからやめてくださいって。
「それにさ、私こんな性格だから皆に聞いてみても、あんまりハッキリとは言ってくれないのよね。空乃ちゃんや夢にもはぐらかされちゃったし」
「だからハッキリ教えてくれてありがとっ!なんかスッキリしたわ!」
「喜んでくれたのなら良かったよ」
「そんですぐにアンタに追いつくからね!」
「はは、待ってるわ」
――こいつも真面目だなぁ。
「でさ、アンタの遅番の事だけど」
「うん」
「遅番がだらけてるから喝を入れてこいって事でしょ?」
――ブフッ
「ちょっとー!」
「なんでそう思う?」
「だって見るからにだらけてるじゃない。今日の朝なんて、鍵開けてお店入った瞬間からほんと最悪だって思ったわ」
あっ、そんなに早くから気づいてたんですね。
僕よりホルコンに向いてるのではないのでしょうか。
べらべらと語っていた冒頭の自分が恥ずかしいぃ。
「ほんとやる気あんの?って感じでイラつく。多分今日アンタのホルコンじゃなかったら、絶対捌けなかったと思う」
「それは僕の事を過大評価しすぎだけど、辛かったのはほんとだよな」
「だから思いっきりとっちめてきてよね!」
「僕なんかが入ったところで……とも思うけど、善処するよ」
「頼りにしてるわ!私もアンタが戻ってくるまでにはランクアップしてみせるから!」そう言ってにひひと笑った。
「僕も音筆のホルコンを楽しみにしとくよ」
「うんっ!あっ、それと今度どこかで飲みに行かない?」
「お前自分が弱いのまだ分かってないの!?」
――こんな感じで明日からは不安要素満載の遅番が始まる。と思っていたのだったが、空乃に今日は早く帰ると言っていた事を完全に忘れていた僕だった。
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