第20話 女子会?④

オセロの説明は言うまでもない、白と黒のアレだ。コンビニで売っている様な、それこそ修学旅行にでも誰かしらが持ってきそうなコンパクトなサイズ。薄っぺらいタイプのやつだ。


「今度こそ私が勝つ!」

何やら燃えている音筆。


「お前、僕に罰ゲームやらせたいだけだろ」


「そりゃそうよ」


「いいぞー!やれやれー!」

スティック状の細長いチョコ菓子を頬張りながら言う夢。


「二人共頑張れぇ~」

飲み物とお菓子を追加し、空乃も応援。

結構酔っているご様子。


「これなら飲みながらゆっくり出来るわね」

音筆のグラスにも新たな酒が注がれた。


「じゃあ僕白な」

盤面中央、白と黒の石を二つずつ斜めに揃えて置いた。


「いいわよ、じゃあ私からでもいい?」


「ああ、いいよ」


音筆が黒。僕が白。


「あ、その前に一ついいか」

夢と空乃の方を見る。


「どったの?」

キョトンとする二人。


「外野は絶対に助言禁止な」

これだけは言っておかないと、さすがにアドバイスされてしまうのは辛い。


「おけおけ~」


「了解ですっ」

空乃さん、なんか喋り方が。


「始めるわよ」


「おう」

これで心置きなく集中できる。



こうしてオセロが始まった――のだが、特に途中説明するような事もなかったので、いきなり終盤。盤面は今の所、黒の方が多い。だがしかし、四つ角はまだ両者置けていない状況での音筆の番。


両者角には置かれまいと必死に攻防していたが、どうやらそれもここまでだ。四つ角以外ではもうその周囲しか置く所はない。


「もうそこに置くしかないんだから諦めろよ」


「うるさいわね!今考えてるんだから、ちょっと待ちなさいよ!」


「別にいいけどさ」


暫く考え込み、ようやく観念したのか口を開いた。

「ここの角はアンタにあげる」

そう言って一つ目の角の手前に置いた。


「そりゃどーも」

有り難く一つ目の角を頂く。

まぁ、残りも全部僕のになるんだけど。


こんなやり取りを更に二回ほど交わし、最後の角っこ。


「ぐぐぐ……」

まだ諦めきれない様子の音筆。


「もう観念したらどうだ?」


「まだこれからこれから!頑張れ琴ちゃん!」

いやもう無理だから。

呼び名まで変わっている空乃。



音筆はもう無理だと悟ったのだろう。

「……降参します」


「え、なんて?」

聞こえてはいるが、あえて聞き直す。


「参りましたぁ!」


「ほっほっほ、良きかな良きかな」

上機嫌な僕。


「くそムカつく~!」


「これこれ、女子おなごがくそなんて口にするんじゃない」


「何なのよそのキャラは~」


「バカ殿だねー」

口を挟む夢。


「誰がバカ殿か!」


この一連の流れを見て笑っている空乃。


「とにかく、第三回戦!敗者は琴ちん~」


「罰ゲームは~こちら!チャイナドレスでぇす!」


「チャイナ服!?」

驚く音筆。


「イェーイ!!」

反対に喜ぶ僕。


「イェイ」

「イェイ」


「イェーイ!」

右手、左手、最後に両手でハイタッチ、夢と息ピッタリでタッチをした。


「アンタらねぇ~」


「はいはーい、じゃあ琴ちゃんは連れていきますね~」


「ちょっと空乃!自分で歩けるから!」


「いってらっしゃーい」

夢と二人、空乃に連れられていく音筆を笑顔で手を振り見送った。



「いつから空乃は罰ゲーム担当になったんだ?」

疑問を夢に問いかけた。


「生き生きしてるからいいんじゃないかな」


「それもそうだな。空乃が楽しめてるんなら僕はそれでいいし」


「目依斗は相変わらずのシスコンだねぇ~」


「だからシスコンじゃないっての」


「じゃあ何コンなの?」


「夢コン?」


「何さそれ!」


「それだけ僕は夢の事が大好きだという事だな」


「はいはい、本当調子良いんだから」

夢にはもう慣れられてしまっていた。


「でもそのメイド服とツインテ、めちゃ可愛いよ」


「これの事は放っておいてよ!」


「もうツインテにはしないとか言ってたのに、僕の為にわざわざありがとう」


「これは空乃ちんに勝手にやられただけだからね!それに目依斗の為じゃないし!」


「はいはい、そういう夢も好きだぞ☆」


「目依斗……酔ってるね?」


「そうかも、な☆」


「気のせいか語尾に星が見えるような気さえするよ」


「なぁ、夢」


「なに?」


「結婚してくれ!」


「ぶっ!ゲホゲホ……!」

急に咳込む夢。


「どうした、大丈夫か!?」


「どうしたじゃないよ!大丈夫かじゃないよ!」


「ふぅ、良かった。僕の大事な夢に何かあったら大変だからな。気を付けてくれよ」


「うん、ごめん……じゃないよ!今だけで夢、三回もじゃないよって言っちゃったよ!」


「ああ、うん……そうだな」


「何でちょっと引いてんのさ!」


「いや、何言ってんのかなって思って」


「目依斗のせいだからね!?」


「まぁまぁ、とにかく一旦落ち着いて、僕とプッキーゲームでもしようぜ」


「サラッと変なこと言わないで!」


「だってこれなら万が一唇が当たったとしても、そういうゲームなんだからそういう事もあるだろうと割り切って、夢と合法的に口付けを交わす事が出来るだろ?」


「夢にとっては非合法なんだけど!そんなファーストキス、夢は絶対嫌だ!」


「おいおい、我儘を言うんじゃあない。これが今の僕にとって最善で最速な手段なんだから」


「最速にする必要はないよね!?」


「最短な手段なんだから」


「最短になってるよ!もう小ボケを畳みかけてこないでよ!」


「ふむ」

全然ボケてなんかいないんだけれども。



「まったく目依斗は……」

どうやら怒らせてしまったらしい。

不可抗力ってやつだな。

だけどファーストキスはまだだという情報を得た。



――そこで廊下から声が聞こえてくる。

「ちょっ、やだ!押さないでって!」


「はいはーい!琴ちゃんが入りますよー!」


「わぁっ……!」


空乃に押し出される形で音筆が入ってきた。

黙って音筆を見つめる。


「何よ!変ならそう言いなさいよね!」


赤いチャイナドレスが良く似合っていた。ピッチリとしているので身体のラインがくっきりと分かる。出るとこは出てウエストは引き締まっている。サイズがあまり合っていないのか、裾も短く、丁度太もも横の切れ目が入っている部分も絶妙だ。極めつけは、ツインテールではなく後ろで髪をお団子の様にまとめ、前は触覚ヘアって言うんだっけかな、それがまたよく似合っていて可愛い。眼鏡は外したらしい。


黙って見とれてしまった。

その僕の姿を横から見つめていた夢に気付く事もなく。



「ちょっと!なんとか言いなさいよ!」


「無視すんなー!」



「あぁ……悪ぃ」


別に無視していた訳ではない。

人間、本当に驚くと声が出ないってのは本当らしい。



「私だって恥ずかしいんだからね!」


「そうだよな」


「……?妙にしおらしいじゃない。どうかした?飲み過ぎたとか?」

心配そうにこちらに近付いてくる音筆。


「そんなんじゃないから!大丈夫!」

慌てて後ろに飛びのいた。


「そう?ならいいけど」



「どうですどうです!?可愛いでしょ!?」

空乃が自信ありげに部屋に入ってくる。


「でもこれ、ちょっときついのよね……裾も短いし」


「だってそれ、本当は夢のサイズだしねぇ」

ここで夢が二人に近付く。


「そうなの?」

音筆が聞き返す。


「うん、本当は夢がそっちで、琴ちんはメイド服の予定だったんだー」


「そうだったんですね、私が間違えちゃったから……」

シュンとする空乃。


「いやいや!空乃ちんは悪くないから!夢が選んでって言ったんだし!」


「そうそう!私も普段絶対に着る事ない服だから楽しいし、髪形も可愛いし!」


「うん!夢もツインテ気に入っちゃったよ~」


二人で頑張って空乃を持ち上げていた。


「そうですか~」

えへへ~と機嫌が戻ったご様子だ。



「そ・れ・と!」

音筆がズンズン僕の方に歩いてくる。


「なんで私の時だけ写真撮っていいか聞いてこないのよ!?」両手を腰に当ててご立腹だ。


「いや、そういう訳じゃ」


「撮るの?撮らないの?」


「じゃあ、撮ってもいいかな」



「しょ~がないわねぇ~」

なんだか嬉しそうな気がする。

そんな訳ないのに。


「そうだ!どうせなら一緒に撮らない?」


「えっ」


「夢、悪いけど撮ってくれない?」


「もちのろんだよ~。じゃ、スマホ借りるよ~」


「あ、ああ」


「じゃあ二人共、もっとくっついて~」


「ほら、早くしなさいよ!」


「おい……!」


右肩の後ろから左腕を回され、首を掴まれるように音筆に引き寄せられる。


「はい、ピース!」


「ピース!」


そのまま写真を撮られた。


「どれどれ見せて~」

小走りで夢に近付く。


「あはは、アンタの顔~」


「勝手に撮って勝手に笑ってんじゃねえよ」


「私のRineにも送っといてよね!」


「へぇへぇ」

スマホを操作して音筆に送信する。


「送った?」


「送ったよ」


「ありがと!」

ニコッと笑う。


「あっ!私達も一緒に撮ろうよ~」

そう言って今度は女性陣三人で写真を撮り始めた。



それは是非とも後で空乃に送ってもらうとして、ちょっと飲み過ぎたかな……。



これでゲームも終わったし、今の内にそろそろ僕は引き下がるとするか。

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