第14話 お疲れ会②

「ぶうぇ」

夢を押し倒していた体勢から横に倒れた。


「ちょっとアンタ、夢はまだ未成年なんだからね!?」


「分かってるよ、成り行きでこうなっただけだから!」


「成り行きでどうなったらそうなんのよ!」


「それはだな――」


パソコンを黙って見つめている空乃。

それに気付いて音筆も視線を移す。


「嫌ァ!見ないで!」

慌ててパソコンの電源を長押しし、強制終了させる。


二人共顔が赤い。

大丈夫!そこまでエグいのじゃないから!

どんなものだったのかは、皆のご想像にお任せするけども。


でも折角ブツは隠して完璧だったのに台無しになった。


「ア、アンタ夢に何てもの見せてんのよ!」

再度クッションを顔面に投げ付けられる。


「ま、待て!誤解だ!夢、説明を頼む!」

澄ました顔で右手を夢の方に向ける。


「夢は嫌だって言ったのに、目依斗が無理矢理……」

服を肩からずらし、セクシーさを出す夢。


「ちょ、お前ぇ!」


「ア・ン・タ・ねぇー」

「目・依・斗・さん〜」


「二人共落ち着け!嘘に決まってるだろ!?」


「おっ、ここが水崎の部屋かー」

「想像通り普通の部屋ですなー」

丁度よくメッシ達が入ってきた。


「助けてメッシ!」

メッシを盾にし後ろに回る。


「おいおい、なんだよ」


「大方、水崎氏秘蔵のコレクションが見つかったってとこでしょうな」


「さすが石津さん、鋭いな」


まぁと続け、夢と言葉が重なった。

「エロゲじゃよくあるシチュだからね~」

「エロゲじゃよくあるシチュだからね~」


「二人してハモってんじゃねーよ!さっきも聞いたし」


「そうなん?どれ、見せて」

とメッシ。


「もう頼むから掘り返さないでくれ!」


「まぁまぁ、琴ちんも空乃ちんも夢に免じて許してあげてよ」


「元はと言えばお前のせいだろうが!」


「ふ~ん、じゃああの事言っちゃおうかなぁ」


「ごめんなさい」

僕はすぐさま直角に綺麗なお辞儀をした。

何の事だかは分からないが、これが無難な対応だろう。


「あの事って何よ?」

まるで怪しい物でも見るかのような視線で音筆がこちらを見てくる。


「僕も分かんないよ。もういいから皆戻ろうぜ」

皆を部屋から追いやろうとする。


「怪しいですね」


「空乃まで!?」


「とにかく」

ガシっと僕の腕を両腕で掴み腕を組む音筆。

柔らかい感触に包まれる。


「おい」


「アンタは夢への接触禁止ね!」


「そんな……」


そのままリビングへと連行され、その後を追うように皆が出てき――てない!


「ちょっと待て音筆!皆が僕の部屋から出てきてないから」


「なによ、私のお酒が飲めないっていうの?」


「どこの上司だお前は!」


そのままリビングのソファに座らされる。


「はい、お酒」


「ああ……ありがとう。それで音筆さん?」


「何でさん付けなのよ」


「いやだって、この腕はいつまで組んでるんでしょうか」

両腕から、右腕で僕の左腕を組んでいるスタイルにチェンジしてソファに座り続けていた。


「アンタ離すとまた夢に近付こうとするでしょ」


「それはそうだな」


「じゃあダメよ」

より強く腕を締め付けられる。


「なんでだよ」

でもこれはこれで至福。

ありがとうございます。


「変態だからよ」


「だから紳士だっての」


「押し倒してたのに紳士ねぇ」

酒を飲みながら呆れている様だ。


「だからあれは事故だって」


「どうだか」


「お前なぁ、僕にそんな勇気あると思う?」


一瞬固まり

「……ある?」


「ちょっと悩んだ結果がそれかよ」


「だって、アンタの夢好きさって尋常じゃないから」


「お、よく分かってるな」


「だから心配なのよね」


「何が?」


「アンタが犯罪者にならないか……」


「そっちかよ!」


「それは半分冗談として……」


「……半分は本気なのか」


――ガチャ


そこでメッシが入ってきた。


立ち止まり、腕を組んでいる僕たちの様子を見ている。


5秒程見つめ合う三人。


そしてメッシが動き出し、無言で酒やらお菓子やらを集めていく。一通り集めると、それを持って立ち去ろうとする。


「おおい!メッシ!?」

なんで無言なんだよ。


「懐かしいゲーム見つけたから、ちょっとみんなでやってるわ!……まぁ、その、邪魔して悪かったな!」そう言って去っていってしまった。


「待てって!」


追いかけようとする僕の腕を、また強く引っ張る音筆。ソファにドスンと尻もちをつく。


「誤解されてんぞ!?」


「誤解なんてされてないから」


「えっ、だって」


「だから前に言ったでしょ?」


「何を?」


「小笠原さんにアンタと付き合ってるって」


あぁ、そう言えばそんな事もあった気がする。


「だからそれは嘘だってバレてるよ」


「バレてないから」


「いやバレバレだろ。だってあれ以来何も聞かれてないぜ?それにもしそうなら他の皆にも話が伝わってるだろ」


「私が誰にも言わないでって言ったからね」


「それにしてもあのメッシが黙ってるか?」


だって超口軽そうじゃんメッシ。


「それは私が絶対に誰にも言わないならって条件で教えたからよ」


「それでも信じてるとは思えないんだけどなぁ……。そもそも何でそういう話になったんだ?」


「……」

黙ってしまった。


「言いたくないんなら無理にとは言わないけど」


「あっ、おい」


手元にあったお酒をグッと飲み干し、テーブルに置いて話し始めた。

「そうね、巻き込んじゃった自覚はあるし、アンタには話しておこうかしら」



―――話はあの時、僕が休憩室に入る前に遡り、主観は音筆へと移る。


休憩室には音筆(私)とメッシ(小笠原さん)がいた。


「ねぇねぇ、音筆ちゃん」


「なんですか?」


「彼氏っているの?」


普通いきなりこんな事聞く?


「どうしてですか?」


「いやさ、今度友達と合コンやるんだけど、良かったら参加してくれないかなって思って」


「どうして私なんですか?」


「可愛いから?」

疑問形じゃないの。

どうせ軽そうとか思ってるんでしょうね。


「空乃ちゃんの方がいいんじゃないですか?」

あの子の事が好きなんだろうし。


「いやぁ……昨日あんな事があった手前、誘いにくくてさ。水崎にもこってりしぼられたし」


だから私って訳!?

失礼だし普通にムカつくわね!


「……代理って事ですか」


「そんなんじゃないよ!元々誘うつもりだったし!」


嘘くさ。


「お生憎様なんですけど私、彼氏いるので」

本当はできたこともないけど。


「えっ!マジで!?」


「はい、なのでご遠慮しときます」


「うわー、マジかよ…彼氏に内緒とかで参加できない?」


うわ、最っ低ー……。

絶対浮気とかしそう。


「私の彼氏、すぐヤキモチ妬くので難しいですね」

でも自分で言ってて少し虚しいわ……。


「そこをなんとか!」


しつこいわねー。


「無理なものは無理です」


「彼氏ってどんな奴?カッコいい?どこが好きなの?」

もう、そんなに一気に聞かないでよ!

それにどんな奴って言われても……。


「優しい」


「それで?」


「面白い」


「それでそれで?」


「頼りになる」


「あとは?」


もうほんとしつっこい!


「私が困ってる時に助けてくれたり!心配してくれたり!私の事をよく想ってくれてるところ!」


「ビックリした……!大好きなんだ?」


「そうね、大好きよ!」

いもしないのに誰の事言ってんのかしら私……ついムキになっちゃったけど、これで諦めてくれるでしょ。


「なら二人の写真とかあるよね?」


「それはあるに決まってますよ」

もうヤケだわ。


「じゃあ見せて?」


「へっ?」


「それ見せてくれたらキッパリ諦めるからさ」


まさかそうくるとは思わなかったわ……。


「それはちょっと……」


「なんで?」


「恥ずかしいし……」


それを聞いて怪しまれたのか、こう言われてしまった。


「あのさ、違かったら謝るけど、本当はいないとか?」


「な、なんでそうなるんですか!」


「いやさ、彼氏いるからって嘘ついて断ってくる女の子結構多いから」


あー……

言われてみると確かに沢山いそうよね。


「だから、そういう子には彼と写ってる写メとか見せてもらってるんだよね」


「だって付き合ってたら無い訳ないじゃん?」

そう言って笑っている小笠原さん。


もっともだわ……。


「まぁ見せたくないし断りたいって言うんなら、それはそれで諦めるけど」


なんだ良かっ――


「でも!俺はこれから音筆ちゃんの事を彼氏がいるって嘘ついた悲しい子だと思うけどね。好きな所も色々言ってたし」と、ニヤニヤしている。


「それか、参加してくれるなら信じるし見せなくてもいいよ」


完全に嵌められたわ。だから最初に聞いてきたって訳ね、ほんと慣れてるわこの人。


「んで、どーすんの?」


「……」


どうしよう、実際嘘なんだからそんなのある訳ない。

でも見せないで、そう思われるのは悔しすぎる。

かと言って参加なんか絶対したくないし……。


どうしようどうしよう、どうしたらいいの!?

誰か助けてよ!



ふと頭をよぎる。

こんな時いつも――



「音筆ちゃん?」


「分かったわ……二人でいる所を見せればいいのよね?」


「おっ、ほんとなんだ?」

既に完全に嘘だと思ってるじゃない。

ほんとムカつく。


「ただし!絶対にこの事は、ここで働いている人には言わないって約束して」


「分かった」


「本人にもね」


「本人?とにかくここの人達には言わなきゃいいんだろ?」


「そうですね。もし破ったと分かったら、店長や皆に無理矢理合コンに誘われて困っていますって言いふらしますからね?」


「それは困る!分かった、絶対に約束を破らないと誓うよ」


「分かりました。それなら……」


「うん……」


「二人でいる所なら、小笠原さんは何度も見てますよ」


「えっ?どういう事?」


「……私が付き合ってるのは水崎です」


「はぁ!?マジで!?」


「はい、マジです」


自分でも正直、なんでアイツの名前を出したのか分からない。


「……思い返してみれば、確かに二人でいる事多かったような」


そうだろうか?

自分で言い出しておきながら何だけど、そう言われて私も思い返してみる。


けれど分からない。


「誰にも言わないって約束、守ってくださいよ?」


「本人にもってそういう事かよ……。分かった」

勝手に納得してくれたようで助かった。

だけどアイツには悪い事しちゃったな。


数分間無言が続く。


――そこでアイツが入ってきた。

タイミングが良いんだか悪いんだか。

空気が悪いのは察してるみたいね。


「お、お疲れー」


「お……おう」


私は黙ってアイツを見つめる事しかできなかった。


「……じゃあ、俺は休憩終わりだから行くわ」


そう言うと小笠原さんは立ち上がり、アイツに何か言って出て行った。


この事、アイツには話しておかなきゃね。

素直に謝れるかな……。


―――

――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る