第4話 一種のグループ

時刻はAM8:50分。

僕と空乃は、今日から通いつめる事となる店の前に来ていた。


「なんだか緊張するな」


「そうですね……」


覚悟を決め、店の中に入る。


「……おはようございまーす」


やや小さな声で、昨日の面接官の人に声をかける。


「おっ、おはよう!」

と気さくに返事を返してくれた。


「もう皆待ってるからさ!」

と僕達を誘導する。


また僕達が最後かよ。皆来るの早くね?

次からは、もっと早く来ようと考えている内に目的の部屋に着いた。


昨日面接をした部屋とは別の部屋だった。

面接官の人がドアを開け、それに続く様に僕と空乃も入っていく。


部屋を見渡すと、女性と男性が向かい合う様な形で二人ずつ、パイプ椅子に座っていた。テーブルには、お茶が用意してある。


女性の内の一人は、やはり音筆だった。

やっぱり受かってたか。

またこっちを睨む様に見てるし。何なんだアイツは?


男子サイドと女子サイドで別れて座っているので、僕は仕方なく空いていた席、音筆の目の前に座る。空乃は、音筆の隣の女性の隣に座った。


よりにもよってコイツの目の前とは……


痛い痛い。視線が痛い。

音筆の目から、アンタも受かった訳!?という言葉が伝わってくる様だ。先に座って待っていた男性諸君達は、音筆の事が恐かったからこの席を空けておいたに違いない。


くそぅ……もっと早く来ていれば。

次からは、本気で早く来ようと決心した僕だった。


「そんなに堅くならないで、もっと気楽にしていいよ」

笑いながら面接官の方が続ける。


「自分は、この店の店長をやらせてもらう日下部(くさかべ)と言います。皆さん、これからよろしく頼むね!」


と真っ白い歯を見せながらスマイルで言った。


ずっと思ってたけど、この人……。

爽やかさんだ!!


この面接官の人が店長であったという事実よりも、彼の爽やかっぷりに驚く。


髪は黒の短髪で、ワイシャツにズボンという、サラリーマンの営業の方が向いているんじゃないかという様な容姿だった。


「じゃあ――とりあえず自己紹介でもしていこうか。僕は、楽しい職場を作っていきたいからね!皆で仲良く頑張っていこう!」


そう言って、僕達の周りをクルクルと歩き出す。


「じゃあ、誰からやってもらおうかな……ハイッ!!今、目が合った白石さん!君からいこうか!」


学校の先生かよ!!!

いるよね、こういう先生。


空乃も突然の事に戸惑っている様子だ。



「大丈夫だよ」と空乃を促す店長。

それに応じて自己紹介を始める。


「……えっと、白石空乃と申します。歳は20歳になります。趣味は料理を作る事です」


うんうん、いい感じじゃないか。

やっぱり口調が丁寧だよなー、空乃は。


「そこの席に座っているのがお兄ちゃんです」


うんうん……

ちょ、えぇえぇええ!!?


いきなり、とんでもない爆弾投げ込んできたよこの子!!?


隠す必要はないって言ったけどもさ!!?あえて堂々と言う必要もないとも言ったよね!!?


ストレートに自己紹介で発表しちゃうとは……!

天然って恐ろしいな!

皆が一斉に僕の方を見る。

やめて!そんな目で僕の事を見ないで!!


「そんな訳で、兄妹共々よろしくお願いします!」

と会釈して座った。


何この空気?僕のせいじゃないからね?空気を壊してしまったのは、エアーブレイカー空乃さんだからね?


「そういえば君達は、兄妹なんだったね」

と僕の肩にポンと手を置く店長。


「え……まぁそうですね」

やっぱり店長は知っていたのか。


「じゃあ話の流れから次は水崎君どうぞ!」


「はぁ……」と立ち上がる。



兄妹のくせに苗字が違うのは、どうしてなのかを追究してこないあたり、この店長は良い人なのかもしれないな。


でも、周りの皆は気になっている様子だから、面倒な事にならない内に軽く説明しておいた方が良さそうだ。


「水崎目依斗と言います。歳は20歳です。今言われた通り、そこに座っている空……白石とは兄妹になります。苗字が違うのは、まぁ……家庭の事情によりって奴です。趣味は、漫画読んだり、ゲームしたりとかです。宜しくお願いします」


と軽く会釈して席に座った。


「はい、よろしくー!」と拍手する店長。

「兄妹って事で、皆仲良くする様に!」


ナイスフォローだよ店長!

おかげで周りの人達が、なんとか納得してくれている様な気がするよ!音筆の視線は、相変わらずだけどね!


「女の子、男の子ときたから次は……郡山さん、いこうか!」




郡山さんとは、音筆と空乃の間に座っている女性の事だ。


黒くて腰辺りまである長いストレートな髪の毛。顔立ちは、大人っぽく、可愛いと言うよりは綺麗と言った方が正しいだろう。静かそうな印象を受ける。


見た感じ、歳は24といった所だろうか。黒いシャツに灰色のパーカー、それにジーンズをはいている。


どちらかと言うと、僕でも着そうな男っぽい服装だ。

それに貧乳だという事が分かった。

あまり膨らみがない。


……まぁ、見ちゃうよね。でも、これは不可抗力だからね?


決して、美人な人だから胸元に目がいってしまったとかでは、ないからね?


分かってくれるだろう?

何となく見てしまう気持ちが。


それにほら、僕ってば貧乳も好きだから。それはそれで、そそられるっていうか、いつでもウェルカムっていうか。


だから貧乳で悩んでいるそこの貴女も、いつでも僕の所へ来て下さい!こうして僕のアピールも終わった所で、郡山さんの自己紹介が始まった。



「郡山(こおりやま)夢(ゆめ)です!歳は18歳、高校は卒業しました!趣味は、ギャルゲとエロゲとネトゲーです!あっ、でも普通のゲームもやりますし、漫画とかも大好きです!どうぞよろしく!!」


と、礼もせずにドカッと席に座った。


……なんか、僕の想像と色々違い過ぎたわ。

どこからツッコミを入れたらいいんだろうか。

意表を突かれ過ぎて、驚きの言葉も出ない。


ちーっとも、静かなんかじゃないし、綺麗で大人っぽいけど年下だし、エロゲが好きだとか言ってるし。


……僕、バイトする店間違えたかも。

次第に、そう思い始めてしまっていた。

皆も、その勢いに呑まれて唖然としている。


だが、店長だけは

「元気があっていいねー?これから、店も活気ある店にしていってくれよー?」と、変わらぬテンションで話を続けていた。


「あ、この店エロゲも扱うから安心してね!」


店長まで何言ってんだ!?


「うひょー!マジですか!?」

目を輝かせながら店長の話を聞いている郡山。

音筆なんか、恥ずかしそうに俯いちまってるし…


空乃は……エロゲの意味が分かってないっぽいからキョトンとしてるな。


ん?つーか、さっき18歳って言ってたよな?

未成年じゃねーか!!

未成年なのにエロゲって!

いや、未成年でも18歳なら買えるのか……。


「さて、女の子、男の子、女の子ときたから次は……音筆さんで!」


「なんでやねん!!」

ついツッコミを入れてしまった。


「おー、いいツッコミだねー水崎君」


「あ……すみません」


「いいよいいよ。どんどんツッコんできてくれたまえ!今日から君はツッコミ係に任命だ!」


「はぁ……」

勝手にツッコミ係に任命されてしまった。


「じゃあ、自己紹介を……」と立ち上がる郡山。


「お前は、今やっただろ!!」


「じゃ……じゃあ私が」と立ち上がる空乃。


「お前もかよ!!」


「よし!では、僕達が……」

すかさず立ち上がる男子二人組。


「お前らはまだやってないからやればいいだろ!!でも二人同時に立ち上がる意味が僕には分からないぞ!!?」



「おぉー」と音筆以外の皆が拍手する。


ったく、急に皆であざとくボケを入れてきやがって……。


「さすがツッコミ係。僕の目に狂いはなかったって訳だ。う~ん……中々に良いチームワークが見れた。でも、次は音筆さんからね」


これだけツッコませておきながら結局は、音筆の自己紹介から始まった。



「……音筆琴乃です。歳は21歳です。趣味は、特にありません。宜しくお願いします」


と軽く頭を下げて席についた。


こいつ周りのテンションに付いていけてないな。


「なるほどねー。まだ若いんだから、やりたい事はこれから見つけられるさ」と頭を縦に振り、納得する店長。


「そっかそっか」と郡山も頷き

「夢のオススメのエロゲ貸してあげよっか?」

と音筆の顔を覗き込む。


「なっ……!!いるわけないでしょ!!?」

と顔を赤くして、あたふたと断る音筆。


顔は可愛いのになー。


「何見てる訳!?変態!!キモっ!!」


絶対いつか泣かす!


周りの皆も笑っていた。

郡山のおかげで、音筆も場に馴染めたみたいだ。


こいつも少し変わってるけど、良い奴みたいだな。


「そこの兄ちゃんにも貸してあげよっか~?」


フッ……紳士な僕がそんな物をやる訳が……。

「是非お願いします!」


即答だった。


その後も音筆に罵倒され続けたので「冗談だよ!」と必死でごまかしておいた。


さすがの僕でも、女の子からエロゲを借りるなんて事は、難易度が高過ぎる。好きな属性がばれかねないからな。


――そんな事を思いつつ、自己紹介は終了した。



え?男子の自己紹介がまだ終わってないって?

うん、地味だったから省かせてもらいました。


だから、ここで軽~く説明させてもらおうと思う。


男子その一

名前は石津(いしづ)陽介(ようすけ)

歳は25歳。

趣味はゲーム全般。勿論エロゲもやるらしい。

容姿は、太っていて眼鏡をかけていて、顔がテカテカしている。



男子その二

名前は小笠原(おがさわら)辰爾(たつみ)

歳は23歳。

趣味はサッカー。高校時代はキャプテンをしていたそうだ。

容姿は、悔しいがかなりのイケメン。茶色の短髪に色黒の肌。話してみると、店長にも負けず劣らずの爽やかさんだった。


基本、色白で見た目も普通な僕には、勝てる所なんて何処にも見当たらない。


そして、この六人に共通している事が一つ。

フリーターだという事。


――とまぁ、こんな感じのメンツでやる事となった訳ですよ。


今日は仲を深める事が目的だったとの事で、皆でしばらく歓談し、明日から行う研修の予定を聞いて、初日の顔合わせは無事に終了したのだった。


空乃をきっかけに、このメンバーと知り合ってしまった事こそが、平凡だった僕の日常を、非日常な生活に変えていってしまう事に、この時の僕は勿論知る訳がなかった。



――そして今日もまた、昨日と同じ時間に店に集まっていた。


だが今日の僕は、いつもの僕とは一味違う!

何故ならば、睡眠をたっぷりと取る事が出来たからだ。


昨日あれから自宅に帰ってみると、やっと空乃の荷物が届いていたのだ。


当然、受け取れる人は誰もいなかったから伝票が入っていたんだけど、すぐさま電話して持って来てもらったという訳だ。


いやー、ハッハッハ。

やっと久々に一人の時間を満喫する事が出来たよ。


……と、僕の話はこれ位にして。

今日から研修がスタートした。


まずは、一通りのレジ操作からやってみようという店長の指示により、お客役と店員役の二手に別れる為に、二人組を作る事となった。


決める方法は、ありきたりなグッチョッパ。


その結果、音筆石津ペア、白石郡山ペア、小笠原水崎ペアとなった。



このイケメンとペアになるとはね。


「小笠原さん、宜しくお願いします」

かしこまった言い方だが、僕より年上なのだ。


「小笠原さんなんて、かしこまんなくていいよ!」


「じゃあ、なんて呼べば?」


「メッシって呼んでくれ」


「メッシ……ですか?」


何故にメッシなんだ?


「俺の名前って辰爾だろ?辰爾の爾って漢字にカタカナのメが四つある様に見えるから……メが四つでメッシって訳」


「な……なるほど」

意外にも上手い付け方じゃないか。


「小さい頃からそう呼ばれてるんだ。だから俺の事はメッシでいいよ。年もそんなに違わないんだからさ!俺は、水崎でいいかな?」


「あっ、大丈夫っす」


「よし!」


「じゃあ早速やりまメッシ」


「おい!交ざってる交ざってる!!」


この人……やっぱり良い人っぽい。


二人で交代し合い、分からない所は店長に聞いたりしながら、簡単な部分のレジ操作を終えた。



レジ操作といっても、ただお客が持ってきた物をピッピッとバーコードスキャンすればいいんでしょ?ww簡単じゃね?www



とか思っている人がいるんじゃないかと思うので、簡単に説明しておくと、そうではないのだ。



この店は、所謂中古ショップなので、バーコードは使えない。値札に貼ってあるコードを、自分の目で読み取って、レジにコードと値段を手打ちしていかなければいけないという仕様になっている。


そのコードも、本の種類によって違ってたり、ゲームの値段によって違ってたりで、面倒な訳よ。ついさっき、店長から全コードを覚えて来る事という宿題まで出されたしね。


今日は、僕達に徹底的にレジ操作を覚えてもらうつもりらしい。


「じゃあ、今度はペアを変えてやってみようか」と店長。


せっかくメッシと仲良くなってきた所だったんだが。

またグッチョッパをやる事に。


そして決まったのが、郡山石津ペア、白石小笠原ペア、音筆水崎ペアだった。



……とうとうコイツとペアになっちまったか。なる様な気はしてたけど、仲良くやれるのか?僕達?


「アンタの方がまだいいわ」

意外にも悪くない反応を見せる音筆。


「どういう意味だよ?」


「あぁ、アイツに比べたらって意味だから。勘違いしないでよね」と腕を組みながら石津さんの方を横目で見る。


どこのツンデレだよ。

別にデレてはいないけど。


勘違いしないでよね、なんてゲームやアニメ以外で初めて聞いたわ。


「石津さんがどうかしたのか?」


「アイツやたらと触ってこようとするんだよね!手とか肩とか!」


「……あ、そうなんだ」

そういう事しそうな人には……見えなくもないな。


「それに……」

何故か、頬を赤らめてモジモジする音筆。


「それに?」


「え……えっちなゲームの話ばっかり……してくるんだよね……」


「お……おぉ……」


こ……これなんてエロゲ!?

悔しいけど、少しキュンとしちまった。


騙されるな目依斗!

ツインテールだからって騙されたらアカン!!


コイツは茶髪だ!

僕の中でツインテールは黒髪と決まってるんやぁあぁああ!!



「ちょっと聞いてんの?」


「あぁ、聞いてるよ!その点は安心してくれ!僕は紳士だからな!触る時は、ちゃんと本人の了解を得てから、きちんと触るから!きちんと!」


そんな機会、今までで一度も訪れた事はなかったけどね。両手を腰に当て、自慢気に言う僕だった。


「私の足、勝手に触ってニヤニヤしてたくせに」


「おい!この物騒な現代社会で嘘の情報を流すのはやめろ!あっという間に広がっちまうだろうが!!」


「はぁ!?触んないでって言ってんのに勝手に触ってきたのは本当でしょ!?」


「お前の足が触りたくて、無理矢理襲った様な言い方をするのもやめるんだ!!僕が助けてやった所を言ってくれないと、ただの変態みたくなっちゃってんじゃねーか!!」


「だって、ただの変態でしょ?」


「紳士だって何回言わせるつもりだよ!!」


ったく……。

笑ってんじゃねーよ。


「いいから早く始めるぞ!僕が店員やるから、音筆はお客さんな」


「ていうか何で呼び捨てな訳?私の方が年上なんですけど!」



完璧忘れてた。

そういえばコイツ僕より一つ年上なんだっけ。


「じゃあ、音筆さんって呼べばいいの?」


「別に、好きに呼べば?」


なんだコイツ?どっちなんだよ。


「分かったから、早く品物持って来てくれ」


「水崎に言われなくても分かってるし!」


そう言って店の奥に品物を取りに行った。

初めて名前で呼ばれたな。


――まぁ、とりあえずレジのスタンバイでもしておくか。


「いらっしゃいませー」


「これ……お願いしま……すっ!!」


―――ドンッ!!!


品物が一杯に入ったカゴをレジへ置く音筆。


「どんだけ持ってきてんだよ!!」


「はぁ~!?私がお客様なんだから、どれだけ買おうと勝手でしょ!?」


くそっ、性格悪ぃーな。


だがな!この位の量なら、さっきメッシと練習したばっかりなんだよ!僕をなめるなよ!!?


あっという間にレジ操作を終え、品物を袋に入れて音筆に渡す僕。


勝った!!

勝ち誇った様に「ありがとうございましたー」と言ったその時。


音筆が袋から品物を一つ取出し

「やっぱ、これ返品したいんですけど」

と一言。


返……品……だと……!?


「あっれ~?返品出来ない訳~?教えてあげよっか?私、お客様だけど」



くぁー!なんたる上から目線!!


僕とした事が迂闊だった。メッシとは、簡単な部分のレジ操作しか、やる時間がなかったからな……。


「ちょっと店員さん、早くしてもらえますかね~?私、急いでるんで」とおちょくる様に言ってくる。



本当腹立つなーコイツ!!

屈辱的だが教えてもらうしかなさそうだ。


「……分かった。僕の負けだよ音筆。返品のやり方を教えてくれ」


「んも~、しょうがないなぁ~。教えてあげるかぁ~」と嬉しそうに僕の隣に来た。



このボタンを押して、出てきたレシートを――


と分かりやすく説明していく音筆。


僕は、それを見てメモに書き込んでいく。

「――ってな訳!分かった?」


「うん、よく分かったよ。ありがとな」


意外にも真面目に教えてくれたので、素直に礼を言った。


「別にっ……!私も、さっき店長に教えてもらったばっかだし!」


素直に、どういたしましてって言えばいいのに。



「じゃあ今度は交代な。適当に何か持ってくるから待ってて」


「あ、うん」


ふむ、何を持っていくかな。僕も同じ様に沢山持っていくってのも芸がないし…何とか音筆が分からない事をして、一矢報いたい所なんだけど…と悩んでいる内に一つ思いついた。


あれなら音筆も分からんだろう。

ニヤニヤしながら音筆の元に戻り、レジに品物を置いた。


「これでお願いし……」


「それじゃあ!またペアを変えてみようか!」


店長の声が僕の声を遮った。

ペア変えんの早くね!?

つーか、また変えんの!?

せっかく良い事思いついたのに…



「店長、まさかとは思いますけど結局全員がペアになるまでやるつもりなんじゃ…?」


「え?そりゃ、そうだよ」



グッチョッパの意味ねぇー!!!


だったら順番に一人ずつ交代すれば良かったじゃん!


何で一々、誰とペアになるんだろう?という、あのドキドキを体験しなくちゃいけないんだよ!!



結局次から僕達は話し合って、まだなっていないペア同士で組む事となった。


そうそう、最初からこうすれば良かったんだよ。

で、次の僕のペアは郡山。


「ヨロシク~」


「あ……あぁ、宜しくな」



「……」


なんか僕の顔、じーっと見てるんですけどこの子。


「ど、どうかした……?」


苦笑気味に聞いてみる。


それに対し、ニカッと笑い

「夢の事、夢って呼んでもいいよー」

と言った。


「お……おぉ」


よく分からんけど、いきなり下の名前で呼ぶ事を許可されたぞ?


「だから夢も目依斗って呼んでもいい?」


「……別に構わないけど」


でも実は僕って、下の名前で呼んだり呼ばれたりするのってあまり好きじゃないんだよね。照れくさくてさ。


やっと空乃って呼ぶのに慣れてきた所だったのに、今度はコイツを夢って呼ぶのかよ。


でも断るのも感じ悪いしなぁ。しょうがないか。


「ねぇねぇ、一緒にネトゲやんない?」


「ネトゲ?何で僕が?」


「今、友達を誘って、その友達が登録するとレアな特典アイテムが貰えるんだよ~!だから、ね?」


「ネトゲだったら石津さんとやればいいじゃん。僕よりも、あの人との方が趣味合うんじゃないか?さっきペアになってたし、誘ったんだろ?」


「……いやー、あの人はちょっとね……。色々問題有りっていうかー」


コイツもどこか触られそうになったのか?


石津さん……まだちゃんと話した事ないけど、ちょっとは自重しようぜ。このままだと、女子全員に嫌われちまうぞ?


あっ!空乃は大丈夫だったかな!?


石津さんとは、一度ちゃんと話し合っておいた方が良さそうだ。どうせ、次のペアが石津さんだと思うから丁度いいか。



「だから一緒にしよ?」

そう言って僕の右腕にしがみつく。


やっぱり貧乳だな。僕は、しかと実感する事が出来た。


「ねぇ、夢とじゃ嫌なの…?」

と上目遣いで続けてくる。


――くはっ!!

言い回しがエロ過ぎる!

さすがエロゲーオタク!!


コイツも綺麗な顔立ちしてるからな。狙って言ってるとしても、ドキッとしちまうぜ。


「誤解されそうな言い方してんじゃねーよ!!お前はエロゲのやり過ぎだ!!!」


「じゃあ、バイト終わったら家で一緒にエロゲやろうよ!」


「やる訳あるかっ!!!つーかお前女の子だろ!?恥じらいもなく人前でそういう発言すんな!!」


「目依斗の好きなツインテール娘のもあるんだけどなー?」


何故僕の好きな属性を知っている……!?


「おいおい、ちょっと待て!!!どうしてお前が、僕の好きな属性を知っているんだ!!?」


これは焦りを隠せないぞ……

だって誰にも話した事ないもん!


夢を問いただして、情報源を確かめなければ……!


「さっき妹ちゃんに聞いた」


――犯人は、あっさりと自供した。


「空乃に!?」


そういえば、さっき空乃ともペアになってたっけ。

空乃……なんて余計な事を……。


でも待てよ……!?

空乃だって知ってるはずがないんだけど……。


と考えていると夢が

「なんか目依斗の部屋で、ツインテールの女の子ばっかりが載ってる雑誌を見たって言ってたよ」


と、ニヤニヤ笑みを浮かべながら言ってきた。


「あぁあぁああぁあーー!!!!」

僕の部屋を貸した、あの時だ!!!


なんか部屋が若干綺麗になってる気がしてたんだよ!!

あの時の違和感はこの事だったんだ……

今になって繋がった。


父も僕の部屋に入って来る事なんて滅多にないし、ましてや、他の誰かが僕の部屋に入って来るなんて想像もしていなかったから、堂々と部屋に置いておいたんだった……。


きっと、視界に入ってくるそれに気分を害した空乃が、何処かに片付けたに違いない。


なるほどね、うん。そういう事か。

なるほど……ね……


ガクッと地面に膝をつく。

そんな僕を見た夢は、


「……ククッ……まぁ、エロ本を妹に見付かった位……フクッ……気にしなさんな」


と笑いを必死に堪えながら(全然堪えきれてないけど)僕の頭に手を置いて、撫でてくれたのだった。


クヨクヨしててもしょうがない……


たかだか空乃に……妹に見られた位で気にする必要はない!!


だって好きなんだもんツインテ!可愛過ぎるだろ、あんなもん!!


パッと夢の手を払いのけて立ち上がる。


「おや?立ち直ったのかい?」


その問いに自信満々でこう答えてやった。


「いや!それは無理!!」


そんなにすぐに立ち直れる訳ねーじゃん。


それを聞いた夢は

「面白いなー!目依斗は!!」

と大笑いしていた。


「僕にとっては面白い要素なんて一つもねぇよ!」


後で空乃に見苦しい言い訳をしないといけないんだからな。


「さて、ここらで一旦休憩にしようか!」

皆に聞こえる様に店長が言った。


「結局、一回もやんない内に終わっちまったじゃねーか!」


「えー、夢のせい?」


「お前がいらん事ばっかり言うから……」


「元はと言えば、目依斗がツインテール娘の雑誌を……」


「わ、分かった!僕が悪かったから、その話はもう持ち出すな!」


「じゃあ一緒にネトゲやってくれる?」


「やらん!!」


「皆さ~ん!ここにいる水崎目依斗君はツイン……」


「あぁあぁー!!なんだかネトゲに興味が湧いてきたなぁー!是非ともやってみたいなぁー!!」


「じゃあ夢が優しく教えてあげちゃおー!」

とニヤリと笑っている。



くっ……

弱み握られた。


音筆なんかにばれた日には、キモいと気持ち悪いの嵐だろうからな。


……年下に脅される羽目(はめ)になるとは思いもしなかった。



――ハァ……


ジュースでも買って来るか。

皆が休憩室に向かう中、僕は店から出て、近くの自販機へと向かった。


そんな僕の後を付いてくる奴が一人。


「……今度はジュースでも奢らせるつもりか?」


「やだなぁ、人を恐喝者みたいに呼んで」

夢だった。


「じゃあ何の用だよ……?」


「あの……ほら、さっきのは、ほんのジョークじゃない」


「答えになってないぞ。それに、お前にとってはジョークだったとしても、僕にとっては死活問題なんだよ!」


「そんなに怒んないでよ……そんなにやりたくないなら、やらなくてもいいから……」


そう言ってしょんぼりと俯いて、こう続けた。


「……ただ目依斗と一緒にやったら楽しそうだな……って思って……」



あぁー……

僕こういうのに弱いんだよなぁ。


これはわざとなのか?

それとも本音?


「……でもまぁ、一度やるって言っちまったし、僕で良ければ喜んで付き合ってやるよ」


「本当に!!?あぁー!!早くバイト終わんないかなぁー!!待ち遠しいぃー!!!」


コイツやっぱり、僕と一緒にやるのが楽しみなんじゃなくて、特典が楽しみなだけなんじゃねーの?


「あっ!!じゃあRine交換しよ、Rine!!」

そう言ってスマホを僕に向ける。


「あ……あぁ、コードな」


それに応じる様に、スマホを向かい合わせる。


郡山夢

登録完了。


「じゃあ帰ったらすぐに、パソのメルアド送ってね!すぐだかんね!!」


こうして僕の携帯に初めて、女の子のアドレスが登録されたのだった。



女の子のアドレスか……

なんかちょっとだけ嬉しい気がする。


携帯なんてネットを見る位にしか有効に活用してなかったからな。夢も、ちょっと変わった奴だけど根は良い奴っぽいし。


ちょっとだけどころか、結構嬉しい僕だった。



Rineを交換した後、夢はダッシュで先に戻って行ってしまったので、僕はジュースを買って一人で休憩室に戻って来た。


ジュースも買わずに戻って行っちまったあたり、目的は僕に反省の色を見せる事だったのだろう。


休憩室の隅でジュースを飲みながら、そんな事を考えていると「水崎君……でいいんだよね?」と石津さんが話しかけてきた。


「あ……はい」


「僕の名前は覚えてくれてるかな?」


「石津さんですよね?」


「そうそう」と僕の隣に座り込み、話を続けた。


「いやー、ここの女の子達レベル高くない?」


何を言いだすかと思えば。

やっぱり、こういう話か。


確かに皆、可愛いし綺麗だと思うけれど……

僕的には個性のレベルの方が高いと思うんだが。


「確かに皆可愛いですよね」


「だよねー」



「何何?何の話?」


僕の可愛いという言葉に反応したのか、近くに座っていたメッシも会話に加わってきた。


幸い空乃達の席とは、まぁまぁの距離があるので、向こうで楽しそうに話す三人組には聞こえていない様だ。



「いや、ここの女の子達皆可愛いよねって話しててさ」と石津さん。


それにメッシも食い付いてきた。

「だよな!俺も思ってた!」


「じゃあ、誰が一番好みのタイプ?」


何やら二人で盛り上がってらっしゃる。


「俺は白石さんかな!清楚って感じがするし、優しいし、何より……可愛いくね?水崎~、あんな可愛い子が妹だなんて羨まし過ぎるぞ」


メッシは空乃狙いかよ……


僕より断然格好良いし、良い奴だし……

空乃もメッシに言い寄られたりしたら……



僕にとっては妹としてしか見れないんだから、別に……。


「パンツ盗ってきてよ」

何気ない顔でそう言う石津さん。


「な、何言ってんすか!!?」


本物の変態が身近にいた!!


「あはは、冗談だよ冗談」


「勘弁してくださいよ~」


本物の変態かと思っちまったよ。


「半分冗談」

笑いながら続けて言った。


半分本気だったのかよ!!?


やっぱこの人、本当に変態だったよぉおぉおおい!!!


パンツの話題はそのままスルーして

「石津さんは誰なんですか?」

と聞いてみた。


多分この人は……


「僕は勿論、音筆ちゃんだよ!」


やっぱりな。

音筆の話を聞いた限りで見当はついていたけど。


「確かに白石ちゃんと郡山ちゃんも捨てがたいんだけどね~」


捨てがたいって……


「音筆ちゃんの童顔さと、あの胸には負けるでしょ」


負けるって何にだよ。

己の人生にか?


「極め付けは、あのツンデレ!エロゲに出て来るキャラクターみたいな女の子じゃん!さすがの僕も萌え萌えだね」



うん、さすがの僕もドン引きだね。


一連の話を聞いてみて、僕は分かった事がある。

石津さんて気持ち悪い。


まぁ、他人の恋愛にどうこう言う筋合いもないからな。この気持ちは、僕の胸にそっとしまっておく事にしよう。


「そういう水崎君はどうなの?」


当然の如く、僕にも同じ質問が返ってきた。


「僕は……そういうのは別にないですね」


「あれ?郡山ちゃんじゃないの?」


「えっ?どうしてですか?」


「俺もそう思ってた!」

とメッシまで言ってきた。


「だって一番仲良く話してたじゃん。さっきなんか二人で一緒に出て行ったし」


二人で問い詰める様に聞いてくる。



「いや、あれは別にそういう訳じゃ……」


「隠すな隠すな!郡山ちゃんも可愛いもんな。」


「いや、だから……」


「これで僕達は、皆別々の女の子が気になってるって訳だ!」


石津さんって人の話聞かんな。

そもそも夢は未成年なんだが。


「これからは三人で気を利かせ合って頑張っていこうじゃないか」


と勝手に話を締めくくっていた。

なんか勘違いされてるけど、面倒だからいっか。


入ったばっかで誰が好きとか、ある訳ないじゃん。


僕は、一目惚れとかって実際はないと思うんだよね。


一目見て、あの子可愛いなとかはあると思うけど、一目見て、あの子好きだなとは思わないでしょ普通。


だから、メッシと石津さんには悪いけど、二人で勝手に頑張ってくれって思う。言葉には出さないけどね。


――その後休憩が終わり、またペアを変えてレジ操作をし、今日の研修を終えたのだった。


自宅への帰り道、僕は空乃と今日の研修の話をしながら帰った。


「皆良い人達で良かったですね」


「あぁ、そうだな」


変態もいるけど。


「さっき三人で何話してたんです?」


「さっきって?」


「ほら、休憩の時ですよ」



好きな女の子の話だよ。


なんて言える訳もなく。


「あぁ……メンズトークだよ」と言っておいた。


「メンズトーク……ですか?」


「まぁ、どうって事ない話だよ。そっちこそ何話してたんだ?」


「ガールズトーク……かな?」


「なるほどね」


お互いに同じ様な話をしてたって事か。女子はその手の話好きだもんな。


どうせ、メッシが格好良いとか、メッシは格好良いとか、後の二人はキモいとか、そんな話だろ?


音筆は僕の事を変態だと思ってるし。

あの日、助けるんじゃなかったな……とまでは思わないけどさ。



――ブルブルッ


ポケットで僕の携帯のマナーモードが鳴る。


携帯を開くと通知が一件。


『パソアドカモンヾ(・ω・´)ノ』


夢からだった。


そうだ……

帰ったらネトゲやんないといけないんだった。


つーか、アイツもう家に着いたの?早過ぎじゃね!?



「誰からです?」


「あぁ、夢からだよ。帰ったら一緒にネトゲ……パソコンのゲームやらないといけないんだ」


「……随分と仲良くなったみたいですね。夢ちゃんと」


「別に仲良くはなってないよ。ただ僕にゲームを登録して欲しいだけなんだよ。特典が貰えるとかで」



「その割りにはRineも交換していて、し……下の名前で呼んでるじゃないですか」


「Rineは僕のパソコンのアドレスを教える為で、名前は下の名前で呼べって言うから」


「夢ちゃんも目依斗って呼んでましたけど……」


「それは、アイツがそう呼んでいいか?って言ってきたから」


「……そうですか」



空乃の奴、やけにつっかかってくるな。どうしたんだ?


「空乃、何か機嫌悪い?」


「……別に悪くないです」



悪いよね?


「僕、何か空乃の機嫌悪くなる様な事した?」


「だから悪くないって言ってるじゃないですか!」


……びっくりした。

空乃って、たまに唐突に声を上げるよな。


「そうか。悪かったよ」


何で心配してるのに怒鳴られないといけないんだよ。

もう知るか!


そのまま沈黙状態が続き、とうとう家に着くまで一言も話す事はなかった。



家に着き、無言のままそれぞれの部屋に入る。


今回は僕、悪くないからな?

パソコンの電源を入れ、目の前の椅子に座る。


とりあえず夢にパソコンのアドレスを送らないと……



――送信


これで良し!っと。

……って返ってくるの早っ!!


もうパソコンに招待メールが届いていた。

どんだけスタンバイしてたんだよ。


早速メールからのリンクにアクセスし、パスワードの設定やら、インストールやらをこなしていく。


めんどくせー。


登録も終えて、インストールも完了。これでゲームを始める態勢は整った。これで夢には特典アイテムが手に入ったはずだ。


って事は、結局アイツは特典が目当てだったんだろうから、僕はプレイまでする必要ないんじゃね?


――ブルブルッ


とここでまたマナーモードが鳴った。

今度は夢から着信の様だ。


「もしもし?」


「いやぁー、おかげ様で特典アイテム手に入ったよー!!!ありがとね!」


「おう、良かったな。じゃあ僕、別にやらなく……」


「ダメだよ」

遮られてしまった。


「だってお前は特典アイテムが手に入れば良かったんだろ?」


「違うよ!さっき言ったじゃん!目依斗とやったら楽しそうだって!」


「あれは僕にやらせる為の口実だろ?」


「違うってば!」


「あー、はいはい。分かった分かった。まぁ、せっかく準備も出来た事だし、少しだけ一緒にやってやるよ」


「信じてないな!?」


「いや、信じたって。で、どうすればいいの?」


「それならいいけど……。じゃあ、まずはキャラメイクして、完成したら広場の噴水の前で待ってて!夢も新しいキャラ作って行くから!じゃね!」


一方的に切られてしまった。

とりあえずやってみるか。



――ゲームを始めるっと。


マウスをクリックして進めていく。



ゲームの内容は、生活シミュレーションって感じらしい。

ほのぼのとした映像と共にタイトルが出てきた。


~ヤスラギ~


これがこのゲームのタイトル。

モンスターを狩っていく様なゲームを想像していたので、拍子抜けだった。


何これ?

はっきり言って全くそそられない。ていうか、つまんなそう……


ゲームを始める前から、かなりやる気を失ってしまった。


適当にやって早く終わらせちまおう。

そう思い、キャラメイクの画面に進む。



性別は男にして……

目は、これがいいかな?髪型は短過ぎず長過ぎずで……

眉毛が……うーん。



意外と真剣に考えてしまう。


だって、パーツが沢山あって迷っちゃうし。

始めるからには、格好良いキャラを作りたいし。


試行錯誤しながらキャラを作っていく。


――よし、出来た!


あれ?結構格好良くね?

出来具合に満足している僕だった。


最後に名前を付けてっと。

MEIITOというキャラクターが完成した。


……しまった!

Iが一つ多いじゃないか!


めいとって打ったつもりだったのに!めいいとになっちゃったよ!


でも格好良く出来たから作り直すのもな……

僕はこのまま始める事にした。


サーバーを選択してください?サーバーって何だ?ゲームはよくやるけど、この手のオンラインは正直サッパリだ。


夢に聞いてみよう。

スマホを操作しRineを送信する。


――ブルブルッ


早っ!!

何でこんなに返ってくるの早いの?女の子って怖いな。


言われた通りのサーバーを選び、ようやくログインする事が出来た。

さぁ、ここからがスタートだ。


グラフィックも綺麗だし、ちょっとだけワクワクしてきたかも。


画面が切り替わると、そこは長閑かな村だった。

この雰囲気結構良いな。眠気を誘われる様な、癒される感じのBGMも悪くないし。



まずは噴水を探して……


あれかな?村の中央に見える奴。


歩いて噴水の方に向かっていると、向こうから走って来る奴がいた。


夢かな?


そいつは、ゆっくりと歩いている僕の所まで来て、スパンッ!とハリセンの様な物でMEIITOをぶっ叩いた。


ちょ、えぇっ!?

何そのアクション!


ていうか夢だよね!?


そのキャラの名前を見てみると

☆Yume☆だった。



うん、間違いない。


――以下チャット文


MEIITO『いきなり何すんだ』


☆Yume☆『遅い!走れ(・ω・´)てか名前ww』


MEIITO『走り方分からん!』


☆Yume☆『めいいとwwww』


MEIITO『黙れwていうかお前そのキャラ』


☆Yume☆『可愛いでしょwMEIITOの好きなツインテだお(^ω^)』


MEIITO『可愛ええww』


☆Yume☆『素直だw』


MEIITO『悔しいが認める…orz』


☆Yume☆『MEIITO可愛い(●´∀`●)』


MEIITO『誉め言葉として受け取っておこうw』


☆Yume☆『Yumeの愛も受け取ってchu♪(>Σ <*)』


MEIITO『いらんわww』


☆Yume☆『照れ屋さんなんだから(≧ω≦)』


MEIITO『お前誰だw人格変わってるぞww』


☆Yume☆『これが本当の私なのさ(`・ω・)/』


MEIITO『そうかw』


☆Yume☆『惚れちゃった?(*-ω-*)』


MEIITO『惚れるかww』


☆Yume☆『Yumeは惚れたかもw』


MEIITO『はいはいw』


☆Yume☆『ピチピチの元JKだぞ(`へ´)』


MEIITO『そうだなw』


☆Yume☆『反応が薄い……MEIITOは変態だって聞いてたのに……』


MEIITO『お前それ音筆に聞いただろ!?』


☆Yume☆『イエス(・ω・)』


MEIITO『アイツ僕を社会的に抹殺するつもりかよ!?それは嘘だからな!本当は紳士だから!』


☆Yume☆『Yumeの生足触る?wwww』


MEIITO『触る!!』


☆Yume☆『紳士じゃないじゃん(οдО;)』


MEIITO『ちょっとHな紳士だ!』


☆Yume☆『でもMEIITOならいいよ……なんなら身体でも……(*/ω\*)キャッ』


MEIITO『本当に触るぞコラww』


☆Yume☆『やっぱり目依斗とやると楽しい(´ω`*)』


MEIITO『実名を出すなwそれにまだチャットしかやってないだろw』


☆Yume☆『ごめん(-人-)ネトゲといったらチャットが楽しいんじゃんww』


MEIITO『そうなの?』


☆Yume☆『そうだよww』


MEIITO『じゃあ僕とチャットがしたかったのか?』


☆Yume☆『チャットもしたかったから……かな?w』


MEIITO『もって何だよ?』


☆Yume☆『まぁいいじゃん細かい事はww』


MEIITO『変な奴』


☆Yume☆『変態な奴』


MEIITO『おいコラw』


☆Yume☆『wwww』


☆Yume☆『じゃあ、狩りにいきますかw』


MEIITO『狩りって……こんな村にモンスター出んの?』


☆Yume☆『洞窟に行く!付いてきてw』


MEIITO『分かった』


そう言って☆Yume☆は草原を走って行く。


その後を歩いて付いて行く。



☆Yume☆『走れしww』


MEIITO『だから走り方分かんねぇんだってw』


☆Yume☆『r押すw』



おっ、走れた。



☆Yume☆の後を走って追いかける。


すると横から何物かが迫ってきた。


そいつは、僕の横まで来るとザシュッと攻撃を仕掛けてきたのだった。



MEIITO『ちょw熊さんが襲ってきたww』


☆Yume☆『まだ倒せないから逃げて逃げてw』


MEIITO『逃げてるけど熊さん足速いww』


☆Yume☆『今行くから耐えてw』


MEIITO『死んだww熊さん怖いww』


☆Yume☆『バカかww』


MEIITO『なんかさっきの村に戻った』


☆Yume☆『今戻るから待ってて(´ω`;)』



――その後、無事に洞窟まで辿り着き、探索を行った。


途中で夢は、晩ご飯の時間だからと言ってログアウト。


僕も一人でやっててもつまらないので、やめる事に。



空乃……まだ機嫌悪いかな?


空乃の事が気になり、空乃の部屋に行ってみようかなと思った時、また携帯のマナーモードが鳴った。


夢かな?

そう思って画面を見てみると着信の様だった。



相手は……父。



「もしもし?」


「おう!目依斗か~?空乃ちゃんとは仲良くやってるか?」


このクソ親父。

久々に電話をよこしたと思えば。


「やってるよ。で、そっちこそいつ帰ってくんの?」


「分からん!アハハ」


「分からんって!優花さんと旅行でもしてんじゃないのかよ!?」


「まぁ、旅行というか……海外出張というか……そんな所だな!」


「そもそも帰らないなら、あの時言っておけよ!」


「何言ってんだよ目依斗君。あの時ちゃんと明日には出掛けるって言っただろ?」


「あの言い方は明日は出掛けるって感じだったぞ!明日からとは言ってなかった!」


「目依斗……よく聞け。世の中常識では考えられない事も起こるんだ。事実は小説より奇なりってな」


「その言葉を今使うな!明らかに故意的だっただろが!」


「まぁそういう訳でしばらく帰らんから!目依斗も父さん達がいないからって、あまり空乃ちゃんとイチャラブし過ぎないようにな!」


「するかっつの!それより……」


「じゃ、また連絡する!」


「おいっ……!!」



一方的に切られてしまった。



くっそ!!

どんだけフリーダムなんだあの親父は!



帰って来ないって……


だから、あの時優花さんも変な事を言ってたのか……

あの時気付いていれば……


とりあえず、この事を空乃に話しておかないと。


「空乃ー?」

空乃の部屋をノックする。


「入るぞー」

そう言ってドアを開けようとした時……


「待って!!!」


その声にビクッとしてドアを開くのをやめてしまった。



何?着替え中?

あまりに大きな声だった為、心臓の音がバクバクしている。



危なかった。仮に着替え中だったとして、もしその姿を目撃してしまっていたら、気まずさMAXに戻る所だった。


でもちょっと見たかった。

だって男の子だもん。



そんな事を考えながら、空乃から許しの返事が返ってくるのを待っていた。



それからしばらくして空乃が部屋から出てきた。


「さっきは、ごめんなさい」

申し訳なさそうにそう言う。


さっき?さっきってどのさっきの事?


帰り道の会話の事?

それとも今、大声で叫んだ事?


「いや、僕の方こそごめん」


どっちだったとしても当てはまる無難な返事をしておいた。


「私の方にも、今電話がありました」


僕はまだ電話がかかってきた事を話していないのに、何故知ってるんだ?疑問に思いながらもこう聞いた。


「あぁ、そっか。優花さんから?」


「あとお父様からも」


親父からも?

何で空乃には、わざわざ二人から電話がかかってきたんだ?


「親父からも?」


「はい」


「じゃあ、しばらく帰って来ないって聞いた?」


「はい、聞きましたよ」


「他にも何か言ってなかった?」



「……言ってなかったですよ」



何その微妙な間は。


親父の奴、何か変な事言ったんじゃないだろうな。


「何か変な事言ってた?」


「変な事は……言ってなかったです」



だから何なのさ、その間は。



「……そっか」


言いたくない事でもあるのか?


「そんな事より、これから二人っきりですから宜しくお願いしますね!」


と明るい表情で言ってくる。



そんな事?

空乃にとっては、どうでもいいって事なのか?

優花さんも親父も帰って来なくて、しばらくは僕と二人だけなんだぞ?


普通なら、もっと慌てるだろ。反応がおかし過ぎる。



……分からん。

空乃は一体、優花さんと親父とどんな会話をしていたんだろうか。


「……こちらこそ宜しく」


ここでこの話は終わり、空乃は「夢ちゃんとのゲームは終わったんですか?」と聞いてきた。


僕にとっては、その話こそどうでもいいと思うんだが。少なくとも、空乃より僕の方が慌てているのは確かだった。


「あぁ、終わったよ」


「じゃあ今度は私の番ですね」


「私の番?」


そう言って空乃は僕の腕を引いて、空乃の部屋へと連れて行った。


机の前まで引っ張ってくると、僕を座らせて

「私にも教えてください」

と白いノートパソコンを見せてきた。


え?何これ?

まさか……


「ネトゲのやり方教えてください」


真剣な眼差しでそう言って、僕の隣に座った。


呆然としている僕を見た空乃は「あれ?夢ちゃんとやっていたゲームって、ネトゲって言うんですよね?」と焦る様に尋ねてきた。



「いや、そうだけどさ」


何で空乃がネトゲなんかやりたがるの?



「ネトゲ……やりたいの?」


「はい!」

目を輝かせている。


「空乃がやるたぐいの物じゃないと思うんだけど……」


「夢ちゃんとはいいけど、私なんかとは出来ないって事ですか?」


なんでそんな怒り口調なんだよ。


「そういう事じゃなくて、空乃がやっても楽しくないと思う訳で」


「やってみないと分からないじゃないですか!」

言葉を遮る様に続ける。


「まぁ、夢ちゃんは私と違って可愛いですからね~」

と卑屈交じりな言い方だ。


「いや、可愛さで言ったら空乃の方が上だろ」


冷静に率直な意見を述べる。

夢は可愛いってよりも美人って感じだしな。


「そ……そうですか……」

と顔を赤らめている空乃。


ネトゲに可愛さは関係ないだろ。本当意味分からんな、今日の空乃は。



「つまらなくても知らないからな」


そう言って空乃のノーパソを操作し、~ヤスラギ~をインストールした。


「これで後はキャラを作れば完成だから」


やり方を教えて後は空乃に操作させ、隣から見守る事にした。一生懸命に操作している空乃を横目に、僕は聞いてみた。


「空乃さぁ?」


「はい?」


「メッシの事どう思う?」


「メッシって小笠原さんの事ですよね。どうってどういう事です?」


ノーパソの画面に目を向けたまま答える空乃。


「いや、メッシって格好良いなーとか思わなかった?」


「そうですね。確かに格好良いし優しい方だな、とは思いましたよ」



「やっぱりそうだよね」


「それがどうかしたんですか?」


「別に、ただ聞いてみただけだよ」



一瞬こちらに向き

「そうですか」

と首を傾げてから、また画面に目を向けた。



メッシは、男の僕から見ても格好良いし、良い奴だもんなー。


メッシ良かったな。

どうやら感触は悪くないようだぞ。


……ハァ



「出来ました!」

とノーパソをこちらに向ける空乃。


「んじゃあ、名前をつけて……って」


ある事に気が付く。



空乃もツインテキャラかよ!!



そうだった。まだツインテの雑誌の誤解を解いていなかったんだった。これは遠回しに僕に対して嫌がらせをしているのだろうか。


恐る恐る聞いてみた。



「な……何でツインテールを選んだの?」


「だって、可愛いじゃないですか」

とニコニコしている。


どうなんだ?この返事だけじゃあ真実が分からない。


「……確かに可愛いよな。ツインテールは……」


「ですよね~?私も琴乃ちゃんみたいにツインテールにしてみようかな~」

と髪の毛を触っている。


何故ここで音筆の名前を……

これ絶対分かってて言ってるよね。明らかに嫌がらせだよね。


最近、空乃さん意地悪くない?


確かに空乃のツインテールは見てみたい気がするけどさ。ここで下手な返事をして核心に触れ過ぎると、自滅してしまいそうだからな。


よって、ここはスルーだ。


「……まぁ、とにかく後はゲームを始めるだけだから」


「はい、ありがとうございます」

と、その場から逃げ去ろうとした時。


「目依斗さんこそ、どう思ったんですか?」


その声に反応して、その場に立ち止まる。


「どういう意味?」


「いえ……やっぱり何でもないです」


「そう」


こうして空乃の部屋を後にした。



―――翌日


今日もまた研修を終えた僕達は、六人でとあるファミレスへと来ていた。



「この後、皆でどっかご飯でも食べに行かない?」


とのメッシの誘いから始まった訳である。


この誘いに、よく言ったと言わんばかりに石津さんが

「いいねー!行こう行こう」

と後押しをし、成り行きでこうなってしまった。


僕としては、さっさと家に帰ってのんびりしたかったんだが。


ここで僕だけ帰るのも空気が読めない奴だと思われてしまいそうだったからな。席は上手い具合に石津さんが誘導し、各々が気になっているとされている女の子達の前に座る形となった。


石津さんもよくやるよなぁ。


……でも、どうして空乃とメッシだけ二人用の席なんだよ!


こっちの席は四人までしか座れないから、しょうがないっちゃしょうがないけど。気になってご飯どころじゃないっての!


メッシの奴、もう空乃の事口説く気満々じゃねぇか!


空乃だってメッシの事、格好良いって言ってたし……



……あぁああ――!!!



「ねぇ、ちょっと聞いてんの!?」

音筆の声に呼ばれて、ふと正気に戻る。



「……え、何?」


「注文決まってないの後アンタだけなんだけど!早くしてくんない?私、お腹空いてるんだから!」


「あぁ……ごめん。今決めるよ」


「お子様ランチでいいんじゃない?アンタってお子ちゃまっぽいし」


とクスクス笑いながら言ってくる音筆。


「童顔のお前にだけは言われたくないね!僕はもう立派な青年だ!」


「アンタなんか変態じゃん!」


「今はそんな事関係ないだろ!ていうか僕は変態じゃない!何回言わせるつもりだよ!!」


すると、ここで夢が割って入る様に言ってきた。


「でもお子様ランチいいんじゃない?フラグ付いてくるし」



「おい!お子様ランチのライスに刺さっている旗をフラグって呼ぶのをやめるんだ!!そこのエロゲーマー!!」



その様子を呆然と見ていた石津さんが「ま……まぁ落ち着いてよ水崎君。ゆっくり選んでいいからさ」と僕にメニューを見せてきた。



「ハァ……すみません石津さん。じゃあ……オムライスとプリンにします」



「お子ちゃまか!!」

「お子ちゃまか!!」

「お子ちゃまか!!」



三人から一斉に同じツッコミを受けてしまった。


だって美味しいじゃん。

オムライスとプリン。


「じゃあドリンク持ってくるよ。目依斗は何がいい?」と夢が席を立ち上がる。


「じゃあお茶で」


それに対して音筆も

「私が持って来るからいいよ。夢は何にする?」

と立ち上がった。


「いいの?じゃあサイダーでお願い」


何だ案外良いところもあんじゃん。


「アンタは一緒に来なさいよね」

僕の方に鋭い視線を送ってくる。


やっぱり、さっきの言葉は撤回。

僕以外には良い奴なんだな。



「……はいはい。石津さんは何にします?」

僕も渋々立ち上がった。


「僕が行くから水崎君は座ってていいよ。お茶でいいんだよね?」


そう言ってさりげなく目で合図を送ってくる石津さん。


音筆と二人になりたいって事か。

そういう事なら協力してやろう。


「あ、はい。お茶でお願いします」


「オッケー!じゃあ音筆さん行こうか」

と音筆の肩に触れる。


この人、すげぇさりげなくボディタッチするな。音筆が前に言ってたのって、こういう事か。


そう言って二人はドリンクバーに向かった。音筆は、また僕を睨み付けて行ったけどな。


確かに音筆は石津さんの事を、あまり良くは思っていないみたいだけどさ。石津さんは音筆ラブなんだもん。僕にはどうしようもないじゃん。


外見は確かに可愛いからな。ツインテだし。

それは認めるけど性格が最低過ぎる。僕に対して限定だけど。


僕には石津さんの気持ちは理解出来そうもないな。


「ねぇねぇ、めいいと」


「リアルでまで僕の事をめいいとと呼ぶな。さっきまでは普通に呼んでただろうが」


アハハと笑っている夢。


「で、なんだよ」


「石津ちんって琴ちんの事好きなの?」


コイツ変な所で鋭いな。


「何故そう思う?」


「私位のゲーマーともなると雰囲気で分かっちゃうんだよね」


「ほう」


ゲーマーは関係ないと思うけどな。

いや、なくもないのか夢の場合。


「んで、メッシちんは空乃ちんの事が好き」


コイツ……

人間観察力はんぱないな。


ここまでばれてるんだったら黙っていてもしょうがないか。


「音筆や空乃には言うなよ。色々と面倒な事になるから」


「嫌だなぁ。いくら夢でも、そんな不粋な真似はしないよ」


「そうか。それを聞いて安心したよ。お前なら言いかねないからな」


「で、目依斗は?」


「お前程のゲーマーなら、僕の事も雰囲気で分かるんじゃないのか?」


「違うでしょ!そこは、僕にはお前しか見えないよ……って言う所でしょ!?」


「お前の中の僕ってそんなキャラなのかよ!僕にはそんな気障な台詞、言う事はおろか、思い付きすらしなかったよ!」


「だって~……石津ちんが琴ちんで、メッシちんが空乃ちんだったら、残ってるのは目依斗だけじゃん~」


ブーブーとふてくされる様に話す夢。


「人を残り物みたいに言うな!そもそも、そんなのは個人の自由なんだから放っておけばいいんだよ」


「放っておける訳ないよ!こんな……こんな……!」


コイツもコイツなりに皆の事を考えてるって訳か。

夢にも案外良いところがあったんだな。


「……こんな面白そうな事!!皆フラグ立てるのに必死なんだね!!」

グッと親指を前に突き出した。


ごめん。

やっぱりこれも撤回。

ただのエロゲーマーだったわ。


「それじゃあこれからは、夢達が皆の為に一肌も二肌も脱ぎますか!」


「あぁ、もう好きににやってくれ」


「夢達って言ってるでしょ!目依斗も協力するの!」


「何で僕がそんな面倒くさそうな事をしなければならんのだ」


「いーからやるの!分かった?」


「……へいへい」


「…………その方が」


「何か言ったか?」


「何も!!」


段々と面倒な事になってきたぞこりゃ。

そういや、空乃はどうしてるかな?

空乃達の方に目を向けてみる。


うわっ。

めっちゃ楽しそうに笑ってんじゃん。


……別にどうでもいいけどさ。


「あっちは何もしなくても上手くいきそうだねー」


と夢も空乃達の方を見ている。


「……あぁ、そうだな」


「あれれ~?お兄ちゃんとしては他の男に盗られるのは嫌だなって顔してるね~」


「別にそんな顔してねぇよ!」


「むきになる所を見ると、どうやら図星かな~」


「だからそんなんじゃねぇって!!」


「目依斗ってシスコン?」


「お前なぁ!!別に空乃の事なんて全っ然!好きじゃないっての!!」


「ならいいじゃん!!」


「あぁ、いいよ!!こうなったら僕も本気でサポートしてやるよ!!」



すると、ここで音筆達が戻って来た。


「何何?何の話してたの?」と石津さん。


「いやいや、好きなエロゲのシチュを熱く語り合っていたところでして」


ジュースをストローですすりながら、そう答える夢。


「はぁ!?アンタ年下の女の子となんて話してんのよ!!キモい!死ね!!」


顔を真っ赤にして僕の事を罵倒してくる音筆。


「ちょっと待て!!そんな話は一言もしてないだろうが!!これ以上僕の事を変態に仕立てあげるのはやめろ!!」と夢を指差す。


「分かったから二人共落ち着いて!」


石津さんが宥める様に言う。

夢の奴、僕に恨みでもあるのかよ。

音筆に嫌われていく速度が目に見えて分かるぞ。


「それよりさ、店のオープンまで後少しだよね。皆仕事の方は慣れてきた?」


と、ここにきてやっとまともな話題を石津さんが振ってきた。


「そうですね。僕はぼちぼちですかね」


「私もまぁまぁね」


「夢は完璧!」


「嘘つけ!!何で僕達がまぁまぁなのにお前だけが完璧なんだよ!」


「あんなのゲームのイベントCGをコンプリートするのに比べれば、楽勝なのだよ」


「ほぅ。さすがゲーマーは言う事が違うな。僕らみたいな一般人には理解しがたい話だよ」


「いやいや、石津ちんもゲーマーだから夢の気持ちが分かると思うけど」


「確かに!郡山さんの言う通りかもしれん」

と激しく同意している石津さん。


あぁ、そうだった。

そういえば石津さんもゲーマーなんだった。


「……なんかこの店、変な人達が多いわよね」

僕の方を見て意見の同意を求めてくる音筆。


「……確かに」

それには同意する僕だった。


その後頼んでいた料理が届いたので皆で食べ始めた。

やっぱりオムライスうまいわ。


「つーか、僕の事をお子ちゃま扱いしてたわりには音筆だってオムライス頼んでんじゃん」


「だって好きなんだもんオムライス」


「理不尽すぎるな」


「ていうかアンタはプリン頼んでるじゃない!それがお子ちゃまだって言ってんの!」


「お前だってパフェ頼んでんじゃねーか。それだってプリンのグレードアップ版みたいなもんだろ」


「全然違うから!小学生と高校生位レベルが違うから!」


どんな例え方だよ。

やっぱ似た様なもんじゃねぇか。


「はいはい。まぁお子ちゃま同士仲良く食べようぜ」


「違うって言ってるのに!!」


「でもオレンジジュース飲んでるし」


「べっ……別にいいでしょ!?好きなんだから……」


音筆の好きなんだからという言葉に反応して、石津さんが隣でキュンキュンしている。


この人分かりやすいな……

これなら夢だって分かるはずだよ。

せいぜい本人にはばれないでくれよ。


そう思いながらお茶を飲んでいると。


「はい、ア~~ン」


「ブフェエェッフォ!!!」


盛大にお茶を吐いた。


夢が、食べていたアイスをスプーンに乗せて、僕の目の前に突き出してきたからである。


「目依斗大丈夫?」


「エッフォ……エフォ!!」


音筆と石津さんがポカーンと見ている。


「大丈夫じゃねぇよ!何やってんだお前は!!」


「喜ぶかと思って」


「カップルか!!そういうのは彼氏にでもやれ!」


「だって夢、彼氏いないし~」


「なら彼氏が出来たらやれ!!」


「じゃあ……」

「音筆さん!僕達も負けない様にやりましょう!」

と夢の言葉を遮って石津さんが言う。


「や……やる訳ないでしょ!そんなの!!」

それを否定して続けるように言う音筆。


「夢ちゃん、駄目よ!そんな事しちゃ!アイツは変態なんだから!!」


いい加減しつこいなコイツも。


否定するのも面倒になってきたし、もう変態でいいやって思えてきた。


「琴ちん」


そう言って音筆の両肩をガシッと掴んで続ける夢。

「男は大体皆変態さんなんだよ」


「いや、フォローしろよ!」

そこはツッコんでおかないとな。


確かに夢の言ってる事も、間違ってなくはない気がするけども。


「これだから変態は嫌なのよ!そもそも私の足に興奮してる時点でキモ過ぎるけどっ!」


「……言ってくれるじゃねぇか。じゃあ今度からお前が困っていても、僕は絶っっ対に助けてやらないからな!」


「……フンッ。誰がアンタなんかに!ていうかあの時だって、助けてなんて言った覚えないんですけど!?」



コイツ、マジで腹立つ!

もう絶対に何があったとしても助けねぇ!


コイツとだけは仲良くなれる気がしない!つーか、なろうとも思えない!



「あぁ、そーかよ!余計な事して悪かったな。もう絶対にしないから」


ここで石津さんが「大丈夫だよ。音筆さんが困っていたら僕が絶対に助けてあげるから!」と割って入ってきた。


「本当ですかぁ~?石津さんは優しいなぁ~、誰かさんと違って!!」


と、あからさまに僕の方を見て言う音筆。






完璧ムカついた。



「じゃあ目依斗は夢が困ってたら助けてね」


「あぁ、勿論だ!誰かと違って、夢みたいな素直な奴だったら喜んで助けさせてもらうね!!」


と音筆の方を見て言う僕。


何か言い返してくると思って構えたが、音筆は何も言い返してはこなかった。



――険悪な空気だけが流れていく。


そんな中、最初に口を開いたのは音筆だった。


「……私帰るわ。プリンの散歩もあるし」

と席を立ち上がる。


散歩という事は、恐らく以前見た犬の名前の事だろう。

プリンて……。


「じゃあ僕、送ってくよ」

と石津さんも立ち上がり


「それじゃあ二人共、また店でね。メッシと白石さんにも宜しく言っておいて」


と言って店を出ていってしまった。


「……なんか悪かったな。こんな風にしちまって」


「夢は大丈夫だけど……目依斗は大丈夫?」

と心配そうな顔をしている。


「何でお前が僕の心配するんだよ?悪いのは僕なんだからさ」


「でも……」


「なんだ。お前ってば意外と良い奴だったんだな」


「意外とはなんだー!意外とはー!夢はどう見ても良い奴でしょ!!」


「アハハ、そうだな」


「おっ!元気出てきたかな?それじゃあこの後、夢の家で一緒にエロゲでもやろうか!」


「あぁ、いいよ」



「なにさー、一緒にやってくれても……って、えぇえぇえーー!?いいの!?」


「声でかいよ」


「だっ……だって……いいよなんて言われると思ってなかったから!!どうしよう!その反応のリアクションは用意してなかったよ!!」


と顔を赤くして騒ぎだす夢。


「自分から誘っておいて何恥ずかしがってんだよ」


「はっ……恥ずかしがってなんかないよっ!」


「落ち着け、冗談だから」


「へっ!?」


「だから冗談だって」


「あっ!なぁ~んだ!冗談かぁ~!!いや、残念だよ!今、どんなエロゲをやろうか必死に頭の中で検索をかけていた所だったからさ~」


「アハハハハハ」


「何笑ってんのさ!夢は超真剣だったのに~!!」


……良い奴だな。


「今度音筆に会ったら、ちゃんと謝っておくわ」


「うん、そうだね!夢もその方が良いと思う!」

更に「でも」と続けてこう言った。


「結果的には良くやったよね」


「どこが?」


「だって、琴ちんと石津ちんを二人きりに出来た訳だし」


「あぁ、そういう事な」


「じゃあ、このまま空乃ちんとメッシちんには黙って帰っちゃおうか?そうすれば皆二人きりになれるし……」



「あぁ……それもそうだな」


「あれ?てっきりお兄ちゃんは反対すると思ってたのに」


「……別にどうでもいいよ。向こうは向こうで楽しくやってるみたいだしな。気付かれない内に早く出ようぜ」


「あ……うん」



こうして僕達は店を出た。


「家まで送ってくよ」


「……私、今日はなんだか家に帰りたくない……」


「お前の頭の中はエロゲしかねーのか?」


「いやいや、ギャルゲとネトゲもあるけど?」


「あぁ、そうかい。んで、家どこだよ」


「んー、夢んちは近いからさ。今日は夢が目依斗んちまで送ってくよ!」


「いや、それだと男としてのメンツってもんが……」


「いいからいいから!早く目依斗んちに行くよー」



何故か僕が送ってもらう事となってしまった。


夢なりに気を遣ってくれているのだろう。

僕は素直に親切心を受け止める事にした。



「気遣わせちまって悪いな」


「なんのなんの!一緒にエロゲをやった仲じゃないのさ!」


「勝手に事実を捏造するな!!まだやった覚えはねぇよ!」


「おや?まだって事は、これから先に一緒にやってくれる可能性があるって事だね?」


「別にそういうつもりで言った訳じゃねぇよ!」


「んもぅ~。目依斗ってば見かけ通りエッチなんだから~」


そう言って僕の頬を指でツンツンしてくる夢。


「それを言うなら見かけによらずだろ!!お前はハッキリ言い過ぎだ!」


「だって夢、嘘って嫌いなんだもん」


「良い事を教えてやる。嘘にもついていい良い嘘と、ついちゃいけない悪い嘘の二種類あるんだよ」


「えーー?そんなのないよー、知らないよーー」


「それじゃあ、よく覚えとけ」


「うー……分かった。けど夢は嘘はつかない!」


「まぁ、でもそれが夢の良い所でもあるのかもな」


「えへへー、そうかな?」

と俯いて照れている。



「お前って時々可愛いよな」


「……えっ!?えっ!?いや!!そんな事は!!!」

更に焦っている様子を見せる夢。


「ただ中身はとんでもないエロゲーマーだからなー」


「……か……可愛い」


人の話聞いてないなコイツ。


「おーい、夢さーん。夢きちさーん」


「あっ!ご、ごめん!何?」


「いや別に」


「――そう」



変な奴。


「もう家すぐそこだから、ここでいいよ」


「へっ?ちゃんと家の前まで送ってくよ」


「いや、いいって。もうすぐ暗くなってくるからお前も早く帰れよ?」


「うん、分かった」


「それじゃな」


「ばいばい」



「夢!」


「ん?」



「――ありがとう」



それを聞いた夢は、ニコッと笑い、手を振って足早に去っていった。



――それから家に帰り、しばらくしてから空乃が帰ってきた。


僕が自室のベッドでくつろいでいると、いきなり扉が開き


「どーーして先に帰っちゃうんですか!?」

と空乃が勢い良く入って来た。


あー、騒がしい。

静かだったあの頃が急に懐かしく思えてくるよ。


「いや、邪魔しちゃ悪いかと思ってさ」


「邪魔って何ですか!皆も急にいなくなってるし!!一体どういう事かきちんと説明してください!!」


物凄い剣幕でベッドまで押し寄せて来る。



「――空乃、怒ってる……?」


「当たり前です!!」


「なな、なんて言うか、それには色々と深い事情が……」


これは、空乃とメッシの為を思って二人きりにしてやったんだ……なんて言える雰囲気じゃねぇぞ。


でも空乃だってメッシの事を気にかけてるんだから、ここまで怒る必要なくね?


勝手に帰ってしまった事については置いておくにしても、二人きりになれた訳なんだしさ。


何より僕と二人きりの時よりかは良いはずだろ?僕と一緒にいる時よりも笑ってて楽しそうだったし。


「深い事情って何ですか!?私が納得できる説明をお願いします!」


「えーっと……丁度オムライスを食べ終えた時に、口の中から小さいオッサンが出てきて、そのオッサンがオムライスは美味しかったかい?って聞いてくるもんだから僕は……」


「そういう悪ふざけはいいですから!!本当に怒りますよ!?」


「はい、すみません!!」


もう怒ってますやん。



僕は仕方なく何があったのかを空乃に説明した。


音筆を怒らせてしまった事や、石津さんが音筆を送って帰ってしまった事等を簡潔に。勿論皆を二人きりにする作戦の事には一切触れずにだ。



「なるほど……そんな事があったんですね」


「納得してもらえたか?」


「まぁ、とりあえずは……。それで結局琴乃ちゃんには謝れたんですか?」


「いや、まだだよ。先に帰っちゃったからさ。でも次に会った時にちゃんと謝るから」


「そうですね。私もその方が良いと思います」



夢と同じ事を言うんだな。


「お店のオープンまで後一週間しかないんですから、早く仲直りしてくださいよ?」


「うん、分かってる」



「――で、結局さっき言ってた邪魔しちゃ悪いかなってどういう意味なんですか?」


まだその話を掘り返してくるのか。


「そのまんまの意味だけど」


「だから、その意味が分からないって言ってるんですよ!」



空乃、久々に顔近いって。


ていうか、何で僕がそんな事の意味を説明しなくちゃならないんだ?


少し考えれば、僕が気を利かせてやったんだと分かるはずだろ。



「分からないんならそれでいいよ」


「よくないです!!ちゃんと教えてください!」



……ったく鈍感か!!


「いーやーだ」


「教えてください!!」


「いーーやーーだーー」


そんなやり取りを何度か繰り返し、空乃が諦めるまで嫌だの一点張りで切り抜けた僕だった。


――次に音筆に会った時に謝ればいいや。


この時の僕は気楽にそう考えていた。


だって

ただ謝るだけなのだから―――

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