第23話 恋人
私の名前は
歳は二十歳、大学二年生。
誕生日は八月二十日、血液型はA型。
短所はネガティブな所。
長所はマイペースな所。
好きな食べ物はオムライス。
嫌いな食べ物はトマト。
彼氏ですか?
今はいません。
今はいませんって返し、便利じゃないですか?問い手には、いた事はあるのか、はたまた最近別れたのか、それともずっといないのに見栄を張っているのか、等々……色々と考えさせる事が出来ると思うんですよ。
私の場合は、一応いた事はありますという感じですかね。とは言え、一週間程で別れてしまったので、そもそもいたと言っても良いのかどうかも怪しいんですけどね。
そんな私ですが、今悩みの種が二つあります。
興味がなくても聞いてください。私に興味を持ってください。心の中では意外と強気な私なんです。ただ思考がマイナスなだけなんです。
ごめんなさい。
話が逸れましたが、一つは最近気になる人がいるという事です。これのどこが悩みなのかというと、これが好きという感情なのかが分からない事です。私は異性を好きになった事がありません。女の子が好きとか、そういうのではなく。ただ単に恋というものを経験した事がないだけです。
先程、一週間程は一応彼氏がいたと言いましたが、大学で告白され断れずに付き合ってみたんです。顔と名前しか知らなく、プリントを配る時位しか接点のない方だったんですが、好きでも嫌いでもなかったので、付き合ってみたら好きになるのかもしれない、いえ、好きになろうと思ったんです。
……でも、結果なれなかったんですよね。
まず幻滅したのが最初のデートの時。いきなりの名前呼びは恋人になったんだからまだしも、歩きながら話す話題が大体同じ大学の人の悪口というか、批判というか、後は自分の武勇伝というか、大体そんな感じでした。そして私がトイレに行きたくなり、ちょっとお花を摘みに……と言っても意味が伝わらず、小声でおトイレと言ったら大声で、ああ便所ねと言うし……。
次のデートでは、店員さんにタメ口で偉そうな態度を取るし、割り勘は一円単位で求めてくるし、明らかに嘘だと分かるような話をしてくるしで……正直好きになるどころか、どんどん嫌いになっていく一方でした。
極めつけは三回目のデートの時、居酒屋に行く事になり、お酒を飲んでいたらホテルに行こうと言われて……もう無理だと思い、一方的に別れを告げ、私の初めての彼氏がいる生活が一週間で終わったという訳です。
後に噂で聞いたんですが、結構遊んでらっしゃる方だったようでした。世の女性の皆さん、本当に気を付けてくださいね。
そもそも、それなら何故友達に教えてもらえなかったのかという話になってくると思うので先に言っておきますが、私大学ではぼっちなんですよね。あ、大学
だからこそ、ぼっちの私に告白してきたんでしょうね。もしくは最初から身体が目的だったのかもしれません。ゲーム感覚で私なら簡単そうだと。
確かに不愛想で可愛くもない私だったら簡単に見える事でしょう。あれからも時折隙を見ては話しかけてきたりしてくるので、講義の時間は被らないように調整しています。
でも今は携帯で連絡を取り合うようになった友達が三人も出来ました!私、大躍進!
バイト先の人達なんですが、友達でいいんですよね?Rineで連絡を取り合う様になったら、それはもう立派な友達ですよね?
私が気になっているという人もその中に含まれているんですが、仲が良いと思ってるのは私だけとかじゃないですよね……?
あ、ちょっと不安になってきました。
ネガティブ発動。
ともあれ、こんな経緯があった訳なので、その人の事が気になってはいるけど好きなのかが分からないというのが一つ目の種。
そして二つ目は、恐らく……いえ、間違いなくストーキングされているという事です。姿こそハッキリと見た事はないものの、バイト終わりに明らかに後をつけられている気配がしています。それに犯人ももう分かっています。同じバイト先の同じ時間に働いている
何度か遠回しに私の事を好いていると言われた事があります。私なんかの一体どこがいいんでしょうね。
数回バイト終わりに家まで送ってもらった事があるのですが、この方も帰りながら優衣ちゃんと佐藤君の悪口を言います。あの頃はちゃんとホルコンしていなかった私が悪くて、あの子達の事を考えてあげられていなかったのがいけないんだけど、悪口というのはやっぱり聞いていて良い気はしません。今も勤務中に言う事があるので、その時はハッキリと悪口を否定しています。二人も今や友達、尚の事否定します。心の中で思っているだけじゃ駄目なんだ。ちゃんと話してみれば、素直で本当に良い子達だったんだから。
今こう思えるのもあの人、水崎君のおかげ。水崎君があのタイミングで遅番に入ってくれていなかったら、優衣ちゃん達とも仲良くなる事はなかったし、きっとバイトも近い内に辞めていたと思います。
宮下さんの代わりに遅番に入っていたのが水崎君。
私への第一印象は、正直最悪だった事でしょう。私愛想が無いので、大体ファーストインプレッションから嫌われます。慣れれば大丈夫なんですけど、私が慣れるよりも先に、慣れられずに関係が終わります。
でも水崎君は本当に凄い。たった一ヶ月で、数日で、あの子達の事をしっかりと見極めて更生させた。最初から諦めていた私なんかとはえらい違い。まだ遅番でいたいんじゃないのと茶化した事があったけど、そう思っていたのは私の方。敬語ではなく素の自分で話せるようになったのも、この三人だけ。
だから私は今この気になっているという感情は、尊敬の念を抱いているだけなのではと思っていたりもしました。
だけど一度、地味で目立たない委員長をしていた私の事を、そういう人って好きだと言ってくれた。あの時、何と言い表したら良いのか分からないような感情が芽生えたのも確かでした。
それからですかね。段々気になり始めて、遅番ではなくなり、直接話すのはたまに引継ぎの時に会うだけになり、でも少し顔を見られるだけでも嬉しかったり、つい毎晩Rineを送っちゃったり、返事が返ってくるまでソワソワしちゃって、返ってくると頬が緩んでしまったり……。
今になって思えば、あの一ヶ月は本当に楽しかったんだなと、改めて思います。始業三十分前にはいつも事務所に来ていたから、私ももっと早く行くようになったんだっけ。
帰りにはいつも送ってくれて、あえて家まで送ってもらわないようにしていたのにも察してくれて、人の悪口も言わなくて、あの子達に何を言っても無駄と私が言ったのに、それでも常に良い部分だけを見つけようとしていて。
本当は何度かストーカーの事を相談しようとしたけれど、優しいあの人の事だから心配させてしまうと思って言えなくて……。
あれから二ヶ月も経ってしまったけど、今更相談しても迷惑がられないかな……してもいいのかな。最近は普段大学や出掛けている時でさえ、気配を感じる気がしています。
こんな時、誰か助けてって思う時、いつも最初に思いつくのは水崎君でした。
年齢も知らない。
誕生日も知らない。
血液型も知らない。
彼女がいるのかさえ知らない。
短所も長所も好きな食べ物も嫌いな食べ物も、もっともっとよく知りたいし、私の事も知ってもらいたい。
…………こうして一度、自分の考えを整理してみるのもいいものですね。今、悩みの種が一つなくなりました。自己解決です。
――私、水崎君の事が好きなんだ。
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