第16話 お疲れ会④
「もう~、夢達がゲームしてるのを良い事に、二人してくっつきすぎなのでは~?」ムフフ~っとニヤニヤしながら言ってくる。
「夢だっていつもくっついてるじゃない」
「さすがの夢さんでも腕は組んだことがないのですよ腕は~」
衝撃で体制は崩れたが、腕は組んだままだった。慌てて外そうとするが音筆が頑なに離さなかった。
「いやこれ、僕が夢に近付かないようにって捕まえられてるだけだから」
「なんだ、そうだったんだね~」
「ありがとう、琴ちん。もう離しても大丈夫だから」
夢が僕の腕を掴み、無理やり離そうとする。
痛い。
「でもコイツ酔ってるみたいだから、また何しでかすか分からないし」
と、音筆も僕の腕を締め付ける。
痛い痛い。
「夢なら大丈夫だから~」
痛い痛い痛いっ。
「私も大丈夫だから~」
痛い痛い痛い痛い!
二人共ニコニコしているが、どんどん力が強くなっていく。
「痛い痛い!痛いわぁーー!!」
我慢していたが声が出てしまった。
そのまま立ち上がり、ようやく自由の身となる僕。
「こうなったらゲームで勝負だよ、琴ちん!」
「いいわぁー!受けて立ってあげる、その勝負!」
「何の勝負だ何の!」
そう言って立ち上がり、二人して僕の部屋の方へと歩いて行った。
急に放っておかれる僕。
一人その場に座り直し、酒を飲む。
何だったんだ一体……。
落ち着きを取り戻し、ぼんやり先程の音筆とのやりとりを思い返す。嫌だって言っていたらどうなっていたんだろうか。ぼんやり考えてみる。
でも擦り寄ってくる音筆は可愛かったな。いつもツンツンしているからか、急にああいう事やられるとなぁ……男ってほんと単純な生き物だ。ギャップとは実に恐ろしい。
そして一人残された僕は思い出した。あれ、今日って僕に対するお疲れ会じゃなかったっけ?なんかみんなずっとゲームしてるのか僕の部屋から出てこないけど。もしかして音筆はそんな哀れな僕に付き合ってくれていただけ……?考えるのはよそう。マイナスに考えるのが僕の悪い癖だからな。
超ネガティブな僕。
そういえば昔、僕は道を歩いているとよく財布を拾っていたんだよ。勿論すぐに届け出るけど、そんな話を友達にした事があった。すると友達は、ネガティブすぎて下ばっか見ながら歩いてるからよく見つけるんじゃね?と。
これを言われた僕は、だいぶ納得してしまったんだよね。
確かにそうかもと。
その位ネガティブさでは誰にも負けない自信がある。
誇れる事ではないけれど。
いつかのテレビ番組で偉そうな人が、一度きりの人生、マイナスに考えて生きても結果は変わらない。だったら前を向いて歩む人生の方が楽しいに決まっているし、良い事が舞い込んでくると言っていた。
その言葉に感化され、暫くは前向きにと意識して生活していたつもりだったけど、気が付けばネガティブに戻っていた。人はそう簡単には変われないのだ。
さて、色々思ったが夢と音筆のゲーム対決も気になるし、僕も部屋に行こう。決して寂しいからではない。むしろ僕は一人の方が好きであったりする。勝負の結果は夢の圧勝だろうけど、音筆に慰めの言葉の一つでもかけてやらないとな。
そうして自室へと向かった。
――部屋に入ると、僕のベッドの上でうつぶせになり、何やら喚きながら足をバタつかせている夢に目が止まった。
「嘘だぁ~~!!」
クッションに顔を埋めながら叫んでいる夢。
それを空乃が宥めていた。
「おっ、きたな水崎!お前もやろうぜ!」
とメッシ。さっきの事は本当にスルーなんだな。
「水崎氏の腕前はどうですかな~」
と石津さん。
その間、テレビの正面に座る形で音筆がいた。
にひひ~と、こっちを見て笑っている。
黒縁の眼鏡をかけていた。
眼鏡のツインテール……いいっ。
開いた缶がそれなりにある。
皆結構酔ってんなこりゃ。
ゲームを見ると、やはりこういう時の定番。
最大4人でボコスカ吹っ飛ばしたりするアレだ。
それも昔の機種。
これでどうか察してほしい。
「あれ?夢と音筆の対決は?」
「それがさ」
とメッシ。
「私の圧勝~」
にんまり笑いピースしていた。
「マジで!?」
「最新のなら勝てたんだ~」と後ろから夢の悲痛な声が聞こえる。
「夢ちゃんも惜しかったですよ~」
「空乃ちん~」
よしよしと空乃が夢の頭を撫でていた。
「まさか昔のとはいえ音筆が夢に勝つとはねー」
素直にびっくりだ。
「うちのお姉ちゃん結構ゲーム好きでさ、それによく付き合わされたのよね」
「えっ!うそ、音筆ちゃん、お姉さんいたんだ!いくついくつ!?」
メッシが食いつく。
「24だけど」
「トゥエンティフォーですと……?」
と石津さん。
「某アメリカのドラマ風に言わなくていいから!」
「うわ、絶対可愛いでしょお姉さん!」
興奮するメッシ。
「別に普通だと思うわよ」
「是非今度紹介――」
「絶対嫌!」
瞬殺のメッシだった。
「まぁまぁ、水崎氏も音筆氏と戦ってみなよ」
「郡山ちゃんでも勝てなかったし石津でも勝てなかったんだから、水崎には無理に決まってるだろうけどな」とメッシが笑う。
「そんなに言うなら僕とタイマンしてみるかメッシ?」
「おう、いいぜ!負けた方は今度ジュース奢りな!」
「おっけー」
どれどれ、と空乃や夢もこちらに来て観戦し始めた。
勝負は時間無制限の残機3でのルール。
要は三回場外に吹っ飛ばした方が勝ちだ。
ちなみにアイテムも出ない設定。
僕が使うキャラは赤い帽子のおじさん。
対するメッシはピンクの丸いキャラだ。
――Lady Fight!!
「よっ、ほっ!」
「うらぁ!」
「しゃあ!」
メッシの掛け声が飛び交う。
あっという間に僕の残機は1。
「あぁ、もう何やってんのよアンタ!」
「目依斗さん頑張って!」
「あー、やっぱり水崎氏もこんな感じかー」
罵声や応援を受ける中、僕と夢だけは無言だった。
「やっぱチョロいな水崎は~。俺まだ一回も死んでないぜ?」
調子に乗っているメッシ。
――そろそろいいか。
「大丈夫、今から連続で倒すから」
「おいおい負けそうだからって強がるのも……」
「っておい!」
「はい1回目」
「今のは気抜いてただけ……」
「はい2回目」
「おいおいマジか!」
画面上ではピンクの丸いキャラがサンドバック状態である。
「はい、終了っと」
「うそだろ……」
――Game Set!!
皆ポカーンとしている。
「ジュースの奢り、忘れんなよメッシ」
ドヤ顔の僕。
「分かってるよ!馬鹿にして悪かったな」
「いや、ちょっと待って水崎氏、強すぎない?」
「このゲーム誰が持ち主だと思ってんすか石津さんー」
「いや、それにしてもだよ」
「目依斗さん、強いんですね!」
「そこまでじゃないけど、やり込みはしたからね」
「駄目ね、私でも勝てないわ。お姉ちゃんとやったらどっちが勝つのかしら……」
「それはちょっとお相手してみたいもんだな」
「すごーい!目依斗!」
「おわっ」
後ろにいた夢が背中に飛びかかってきた。
「見直しただろ?」
「うん!惚れ直した!」
「元々惚れてねーだろが」
「はい、ほらまたくっついてるー」
と音筆に指摘され、再度腕を組まれる。
「水崎氏はモテモテですな~」
「どこがだよ!」
「はい、ほら二人共。目依斗さんが困ってますから離れましょうね」
とニコニコしている空乃。
「やだー」
「だって夢が」
「ね?」
「はい」
「はい」
すかさず僕から離れる二人。
空乃の威圧が凄かった。
「でもこれじゃあもう水崎に勝てる奴いないだろうし、今日はここでお開きにしとくか?」
――時刻はもうすぐ21:00になる。
何だかんだで2時間30位は経つのか。
「そうですね、明日もバイトで早い方もいらっしゃいますし」
「明日の出は僕と誰だっけ?」
「俺と石津の男チームだな」
「そっかー。いいなー、空乃達は休みかー。」
「いいでしょ~」
と夢。
「じゃあ、僕たちは帰ろうか小笠原氏」
「残念だけど、そうするか」
「片付けはしておくので、気にしないでくださいね」
「ありがとう、白石ちゃん」
「ありがとね、白石氏」
「いえいえ~」
「水崎もちゃんと手伝えよ~」
「分かってるよ!」
「時間も遅いし、僕らが郡山氏達送っていくから」
「んーん、大丈夫」
と夢。
「でも危ないよ?」
「いや私達、今日はお泊りだから」
『えっ、そうなの!?』
男衆3人の声が合わさった。
「空乃!?」
空乃の方を振り向く。
「ごめんなさい、サプライズに気を取られて言うの忘れてました……」
「おいおい石津……」
「小笠原氏……」
「僕達も泊ま――」
「俺達も泊ま――」
「帰れーーー!」
シュンとする二人。
寝る場所なんてないからな!
というか明日もバイトなのにこいつらまで泊まったら、ちっとも休めやしない。
音筆と夢が泊まるってのも想定外だったけど、それは空乃の部屋で寝るだろうから僕には関係ない。最近遅番続きで身体のリズムが狂ってるからな。ここらでまともな時間に寝て朝起きる生活に戻らないといけないんだよ僕は。
「だから二人共、妙に荷物多かったのか……」
もっと早く気付いていればと、床に手と膝をつくメッシ。
「水崎……」
「なんだよ」
「なんて……なんって羨ましいんだああああぁぁ!!」
「うるせっ!近所迷惑だから早く帰れ!」
メッシ、渾身の叫びだった。
明日詳しく話を聞かせてくれと、二人悲しげに帰っていった。その後ろ姿を外からを見送る僕と女性三人衆。僕もさっさと風呂に入って寝ちまおうと後ろに振り返る。
すると、両腕を夢と音筆に捕まれ
「さ、飲みなおして女子会するわよ!」
と音筆。
「夜はここからだよ~ん」
と夢に連行される。
「はぁ!?僕男だから!」
早くこの二人をさっきみたいに止めて空乃さん!
「私もさっきは全然目依斗さんとお話しできなかったので、今からが本当のサプライズお疲れ様会ですね」
絶対酔ってるよね空乃。
「僕の知ってる女子会は男子禁制なはずなんだが!」
「じゃあ、これはアンタの知らない女子会ってわけね」
「大丈夫、怖いのは最初だけ、夢が優しくしてあげるから~」
「それ、女の子が言う台詞じゃないよね!?」
「目依斗さん、往生際が悪いですよ?」
なんか空乃が悪の親玉みたいに見えてきたのは気のせいかな?
いつもの優しい空乃はどこへやら。
ここから悪夢の女子会が始まったのだった。
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