成る程、伏魔殿での蟷螂の斧、或いは愛

 和風の架空世界を生きる貴族の物語で、多少の取っ付きにくさは感じられるのですが、読んでいけば、そう感じて立ち止まる事は無粋であると感じられる雅さがあります。

 厳密に善人といえる人物はどこにもいなく、皆、どこか傲慢で、自分勝手さがあって、しかしそれらを肯定的に捉えさせられる魅力、また有能さが描かれています。

 皆、どこか自分勝手で、そういう風に生きていて…だけど宮中という場所には抗えない力というものもあり、それに立ち向かおうにも振り上げられるのは蟷螂の斧に等しい…そう思うのは、これが人間ドラマであるからでしょうか。

 また、いずれくるであろう、それぞれが原因となる別離や終幕も、まるで蟷螂が愛し合っているかのような、危うさ、憐れさを感じる事もありました。

 残酷であるから美しく、美しいからこそ残酷でなければならない、そんな空気を纏う物語です。

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