ある男の駆け続けた先に、黄金の空が開ける

『俺』の前に、見知らぬ男が現れる。開口一番、「羽を選びませんか」と。
夢のあるファンタジーな作品。それとも夢そのものを描いたお話。
読み進めると、どれも少しずつ外れていることに気付かされる。

男がなぜ『俺』のもとに現れたか。男はなぜ、身分をそう名乗ったのか。読み終えてようやく、なんとなく、それが理解できる。

『俺』は希望する羽を選び、偽りなく飛び立つ。
どうしてそれを選んだのか。飛び立った先、どうなるのか。はっきりとはどこにも書かれていない。
けれど、分かる。

描かれているのは、郷愁と回顧。そして、現在(いま)。
それなのに読後に思わせられるのは、飛び立った先の、そのまた向こうにある未来。
きっと明るい、素晴らしいものだろうと。

驚きと物悲しさも、現実の『俺』の姿を見れば、ほんの一時のことと分かる。
なにもかもが行間に仕込まれた、語り過ぎない、素晴らしい短編でした。

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