第11話 勝ちですか?勝ちですよね?

 



 カリカリカリ

 あぁ、あつい。


 カリカリカリ

 あぁ、暑い。


 カリカリカリ

 あぁ、顔が熱い……


「やっ……と終わったぁ」


 そんな声を上げると同時に、私は部屋の天井を見上げる。費やした時間はいつもの2倍近く。これ程まで予習・復習に集中できない日は過去に無いと思う。


 その原因は紛れもなく、沸々と感じる顔の火照り。風邪引いた訳じゃない。部活で顔を日焼けした訳でもない。


 はぁ……そんな溜息と共に白い天井に姿を現したのは、


『いいよ?』


 保健室に居た晴下君の顔だった。


 変わらない口調で、変わらない表情で……でもその目は確かに私を見てた。そしてそして……


「キャー」


 火傷しそうなくらい火照る顔が無性に恥ずかしくて、思わず机に顔を埋めてしまう。それに呼応するかのように心臓の音もいつもより早く聞こえる。


 でもその体の異変が、現実だって事を教えてくれてる気がして……とてつもない高揚感に包まれているのが自分でも分かる。


『良いなぁ。見に行きたいなぁ』


 あの時、あの場に居たのが晴下君だっていうのが確定してさ? 本当に嬉しかった。けど、そんな浮かれた気分が油断を招いたのは違いない。気が付けば心の中で思ってた願望をそのまま口に出しちゃってたんだもん。


 言った瞬間、一気に血の気が引いたよ? 

 本音を聞かれちゃったってのもあったけど、何よりほぼ初対面で会話だってほとんどした事なかった人に、いきなり家に見に行って良い? ってまずいでしょ。逆の立場だったらどう? ふざけてんの? それともとんだ遊び人? そう感じるのが普通だよね? でもそれを……言ってしまったんだ。


 でも……晴下君の返事は違ってた。それは拒否される、無視される、怒られるかもって思ってた私にとって、すごく温かかったたんだ。だからさ? つい安心しきって……


『じゃあさ、これも何かの縁だし……良かったら連絡先交換しない? 晴下君とは1年生の時接点全然なかったし』


 なんて結構な勝負発言を、何も考えずに言っちゃったんだけどね? まぁ、これに関してはその時の自分ナイスっ! って称えたい。だって晴下君も、


『あぁ、そうだね』


 って、満更じゃないって反応だった……気がする!


 でもなぁ、部活中ってのがダメだったよねぇ。手元にスマホなかったんだもん。まっ、交換するって約束はしたし……はっ!


 その時、頭の中に嫌な予感が過ぎる。

 勢いよく顔を上げた瞬間に眼球を襲うライトの光が、それを助長するかの様に鋭く、


「ぎゃっ、眩しっ」


 なんとも情けない声が口から溢れる。しかし、今の自分にとってそれは些細な事だった。

 そうだよそうだよ……話の流れのまま連絡先交換出来なかったって事は、


 明日以降、またその話題に触れなきゃイケないって事じゃん!


 ヤバい、今日だってハイテンションと二人っきりってシチュエーションあってこそ、あそこまで行けたんだよ? それを後日? 全くのシラフ状態で話せと? 


 しかも場所は? もはや昨日みたいなミラクル早々無いよ? 教室? 皆がいる前で? 小声でいけば大丈夫かな? でも、改めると恥ずかしくて口に出せる自信がなぁい!


 はぁ……一体どうしてこうなったの。良い感じかと思いきや、少しのところが噛み合わない。なんという歯痒さなんだろうか? まるで簡単には進まない恋愛漫画の様な流れを、まさかリアルで体験できるとは……事実は小説よりも奇なりとはこの事かぁ……


「いや、焦るな彩音。冷静になれ彩音」


 深呼吸、深呼吸。

 スーハー、スーハー


 ふぅ。ここは一旦頭をリセットしましょ。

 今の状況はまさしく、恋愛漫画におけるチグハグな序盤と瓜二つ。上手く行きそうで、あぁーってな感じ。

 でもね、それは作者あっての流れであって、私達はそのシナリオを見せられて一喜一憂してるだけ。それが2次元。でもね、だからこそ3次元に生きる私との違いも明確なんだよ。それは……


 3次元はシナリオを描けるっ!


 私は、自分でシナリオを描く事が出来る。自分で動く事が出来る。


 ははは……なんでこんな簡単な事に気が付かなかったんだろう。

 そうだよ、簡単な話。巧く噛み合わないなら、手動で噛み合わせてしまえばいいんだっ!


 よし。じゃあまず、どうやってもう1度連絡先の事を切り出すか。流石に朝みたいに人が居る中で切り出すのは恥ずかしい。


 話し声で周りの人に気付かれない可能性もあるけど、万が一って事もある。それでチャカされたり、変な噂でもされたら、私は良くても晴下君に迷惑かけちゃう。それに今日は意外と話してくれたけど、クールオブクールって異名の通り、変に焚き付けたら私とも距離取られそうで怖い。それだけは嫌だよ。


 だとしたらどうしよう? ……そうだ、いっその事晴下君に学級副委員長お願いするのは? なんか私、流れで委員長引き受けちゃったけど、去年みたいに誰もやりたがる人居ないんだよね。おかげでまだ副委員長は決まってないし……ダメかな? うぅ、晴下君が引き受けてくれそうなイメージが湧かないよぉ。この方法は有りと言えば有りだけど、現段階では厳しいか。


 となると……やっぱり登校の時? そう言えば晴下君て昨日今日と私より教室来るの早かったよね? よしっ! 晴下君は電車通学なのは去年の段階でリサーチ済み。高校までは、最寄りの黒前高校前駅からそう遠くはない。大体5分といったところね。そして、黒前高校前駅から石白駅までは40分。つまり…………ピッピのピで検索っと! あった! えっとあの時間に既に居て、こっちに来る列車は30分おきって事は……


 ずばりっ! 7時30分発、黒前駅行き! 


 なるほど……つまり順調にいけば8時15分には晴下君教室に居るはず。だったら反対方向とはいえ、正門前で上手く鉢合えば、


『あっ、晴下君! おはよう』

『あぁ、磐上さん。おはよう』

『晴下君って、登校の時はいつもこの位の時間なの?』

『まぁ、乗る列車毎日一緒だから。大体は』

『へぇ、そうなんだ』

『あぁ』

『あっ! そう言えば晴下君?』

『なんだ?』

『昨日の保健室でのお話、覚えてる……かな?』

『連絡先だろ? 今はスマホ持ってるから』


 キタァァー!

 そうだこの流れだ! この流れだ! 良いぞ良いぞ? これで行こう! となればやるべき事はただ1つ、明日に備えてとっとと寝よう! 


 うんっ! 朝のゲームタイムも30分早めて、万全の準備を整えないとね? 


 そうと決まれば、目覚ましセット……あれ? そう言えばバスケ部って朝練とか無いのかな? テニス部はないけど、部活によってはやってるところもあるよね? 


 …………そう考えると、結構明日はチャンスの日でもあるんだよ? さすがに前日話してた事は忘れないでしょ? 話題を掘り返すには最適。だったら尚更ミスれない……よし!


 さっきの1本前、7時発の列車で来ると仮定して、私も早く行こうっ!


 決めたっ! よぉし! ! 明日はゲットだ! 晴下君の連絡先っ! 

 あっ、流石にストメやってるよね? 知る人ぞ知るメッセージアプリ入れてるよね? ちょっと不安だけど……大丈夫! 行け行け彩音。頑張るぞー彩音。


 っと、じゃあ目覚ましもリセットして……完了! 


 それじゃあいつもより1時間早い就寝と行きましょう。ホント明日は……



 頑張ろう。



 ふぅ…………あっ、やば。




 今日、ログインボーナスゲットするの忘れてたぁ。



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