第9話 ボーナスタイムは逃さない
私は今、すごくテンションが上がってる。
思いがけず、晴下君と1対1になれた事。すぐ隣に座ってくれた事。
もちろん青タンの話をされた時は、やっぱり気付いてるよねぇなんて、ちょっと恥ずかしくなったけど……
でも、クールって印象の晴下君、こっちが話し掛けたら普通に答えてくれる。
むしろ晴下君から話を振ってくれる。
それだけで……そんな気持ちは跡形もなくなった。
だからさ?
だから、ついつい口に出しちゃったんだ?
何気ない問い掛け。何でもなさそうな只の疑問。けど、私にとってこの言葉はとてつもなく重要で、怖くて、でもとても大事な……事。
「1年生の時に、体育館の裏で子猫に餌……あげたりしてた?」
私ね? 小さい時から漫画もゲームも好きだった。でも、本当に1番最初に好きになったのは少女漫画。女の子がトキめくような数々のストーリーに、心奪われるのはあっと言う間だった。
でも月日が経つにつれて少年漫画やゲームと出会い、その面白さも知るようになってからは、滅茶苦茶憧れるって気持ちは少し薄れてたんだよ? まぁ壁ドン・肘ドン・床ドン・肩ズン・顎クイなんて数々のキュンキュンシチュエーション。現実では到底遭遇出来ないって感じ取ったのもあるけどね?
でもさ? あの日、その考えは一気に吹き飛んだ。
そう、ちょうど1年前。部活に入りたての時……
「あっ、ごめーん。ネット越えちゃった」
「良いよー取って来るね?」
えっと……ネット越えちゃった時点で体育館にまっしぐらだよね? ふぅ。仕方ない。
んー、あれ? どこかな? ってあったあった……
ミャー
ん? 何か聞こえる?
ミャーミャー
これって猫? えっと、方向的に体育館の裏側? よっと……はっ!!
その時の光景は、今でも鮮明に覚えてる。というより、忘れられるわけがない。
体育館裏の木陰。
段ボールから顔を覗かせる茶トラ模様の子猫。
そんな子猫に、餌をあげてる男の人。
極めつけは、木陰のはずなのに一筋の日光が良い感じにその男の人の顔と子猫ちゃんを照らして……まさに幻想的っ!
そしてとどめの、
「ははっ、そんなにがっつくなよ」
甘い声に、優しそうな笑顔。
その瞬間、脳天に雷が落ちたかのような衝撃を受けたんだ。だってさ? あり得ないでしょ? こんな少女漫画でしかありえない様なシチュエーションに出会えるとは思わないじゃん? しかも子猫は可愛いし、男の人だって滅茶苦茶イケメンだし?
でもさ? あり得たんだよ? 幼い頃に憧れていた、求めていたキュンキュンシチュエーション出会えたんだよ?
そして私は……そんな彼に恋してしまった。
その時はさ? いきなりの事でとんでもなく緊張して……声なんて掛けれなかった。だから名前も学年も全然分からなかったよ? でも、練習着と傍らに置いてたバスケットボールで、バスケ部だって事は分かった。
そこからちょいちょいバスケ部員の様子をリサーチしてたらさ? なんか結構早めに特定は出来たよ。バスケ部のスーパールーキー晴下黎をね?
ただ、残念だったのはクラスがガッツリ離れてた事。体育でも一緒にならないし、話をするキッカケさえなかった。ただただ遠くから見ているだけ。見つめるだけ……
そんな彼が、晴下君がすぐ隣に居る。しかも、同じクラスになってまだ2日目にして初の1対1という状況……にも関わらず、普通に会話が出来てるんだよ? こんなの嬉しいに決まってる。アナタの事をたくさん聞きたい、たくさん知りたい。
だから最初に教えて欲しい。あの日あの場に居たのは間違いなく晴下君だったよね? 95%位はそうだって自信があるよ? でも、心のどこかでもしかして違うんじゃないって気持ちもある。だからその5%を……私の自信を確信に変えて?
さぁ……
さぁ……
答えて? 晴下君っ!
「えっと……」
はっ! あの晴下君の表情が変わった? なんか戸惑ってるような……って! もしかして私、とんでもなく軽率な発言しちゃったっ!?
いやいや、冷静に考えてみなさいよ。体育館裏で子猫に餌? 私だから滅茶苦茶カッコいいって捉えてるけど、それを見るのと見られちゃったとでは話が全然違うんじゃない? むしろ人によっては、誰にも知られたくない事かもしれないじゃないっ!
あぁ……そうだよ。クールオブクールの隠したい秘密……それに安易に触れちゃったに違いないよ。だってあの晴下君の表情が少し変わったんだよ? 絶対そうじゃん? 嫌われるのが目に見えて……
「まいったな。見られてるとは思わなかったよ」
……認めた? 普通に? しかもしかも……
ちょっと口角上がったぁ! これはあれかな? 俗に言う照れ隠しってやつ?
スーハースーハー
落ち着いて? 彩音? 気持ちを十分抑えるのよ。ここはきっちり晴下君に合わせて?
「ふふっ、当たっちゃった。ずっとね? もしかして? って思ってたんだぁ」
「そっか。正解だね」
こっ、これは……意外と良い雰囲気になってきたんじゃない?
天は私に味方してくれているに違いない。この機、逃すべからず。聞けるところまで……行っちゃえ彩音っ!
「ちょっとスッキリしちゃった。じゃあさ、晴下君は猫好きって事で良いのかな?」
「まぁね。でも基本的に犬も猫も両方好きだよ」
「そうなの? 私もね、どっちも好き」
「そっか。家で飼ってたり?」
家か……家では飼ってないんだよね。もちろん父さんも母さんも動物は好きなんだけどね? 可愛がっていた動物がいなくなってしまう悲しみを私に経験させたくないって言って、動物NG。んー、本当は飼いたいんだけどね?
「うちでは飼ってないんだ。親がね?」
「なるほど」
「晴下君の家では何か飼ってたりするの?」
「うちは犬と猫が居るよ」
猫と犬? なにそれパラダイスじゃんっ!
「本当? いいなぁ」
「そうかな? あっ、そう言えばあの猫も居るよ」
ん? あの猫?
「あの猫って?」
「えっと……餌あげてた猫」
えっ、えっ、えっー!? あの餌あげてた子猫、ひっ、ひっ、引き取ってたの!?
何それ? 聖人かよ晴下君っ! その見た目とのギャップが凄すぎて、余計に……。
はぁ、やっぱり私の目に狂いはなかったっ!
「そうなの? もしかして晴下君引き取って自宅で?」
「まぁ、元から犬と猫居るし、1匹増えても別に問題無いかなって」
て事は、犬1匹に猫2匹? 何それ? やっぱりパラダイスじゃんっ!
良いなぁ、あの子猫も可愛かったしなぁ。そんな犬猫パラダイス良いなぁ。良いなぁ。本当に……
「良いなぁ。見に行きたいなぁ」
………………やばっ。
やってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます