第12話 早起きは本当に三文の徳なのか
ん?
「めい? 準備いい?」
「大丈夫だよ」
なんだ? ってここ……爺ちゃんの家じゃね? 爺ちゃん家の居間じゃん。
「ほらぁー黎? 早く行くよ?」
ん? 行くってどこに?
「早くしなさいよー」
ちょっ、ちょっと……ん? あれ? なんか目線が低くね? 襖見上げるなんて久しぶり過ぎるんだけど? 一体……
⦅眩しい太陽、煌めく海⦆
はっ! こっ、これはもしかして……やっぱりっ!
⦅目に焼き付いちゃうサンセット⦆
今は懐かしいブラウン管のテレビに、思い出の……CM。
マジか? 忘れもしないぞ? だとしたら、だとしたら?
⦅常夏気分でちょっとだけ……⦆
でっ、出た。
ブロンドの髪、褐色の肌、そして際どい真っ赤な水着。色気ムンムンのフェロモンにその豊満なおっぱいは言うまでもないけど、それをも凌駕する……
⦅一休み……しませんか?⦆
このお尻っ!
これは……なんという神尻。そのサイズは勿論、きゅっと上に引き締まったハリ! 触りたい……愛でたい。できるなら両手で触りたい。むしろ……むしろ……くうぅ!
その瞬間、熱く滾る男のシンボル。波打つ心臓。
そうだ、そうだ……この時に出会ったんだ……今も尚俺の中で生き続ける、理想で至高で完璧なお尻に。そして、俺を目覚めさせてしまったんだよ? そう……マリリン
はっ!
気が付くと、目の前にあったはずの神尻は跡形もなく消え、その代わりハッキリと見えてくる天井。
ゆっ、夢か……
その事実を理解するにはそんなに時間は掛からなかった。けど……
なんか心臓の鼓動が早いんですけど? しかも顔も心なしか熱いし……もしかして風邪か?
なんて思ったのも束の間、違和感を感じたのはそこだけじゃなかった。
ん? なんか下半身も熱い? というより……男のシンボル? しかも、むしろ若干痛みさえ感じるんですけど?
その違和感に思わず顔を起こすと、ゆっくりと視線を向けて行く。そしてその先にあったのは……
見事に真っ直ぐ建てられたテントだった。
うおっ! マジかよ? でもまぁ仕方ないか。てか久しぶりに見たなぁ、マリリン高千穂の夢。
マリリン高千穂。アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフで、そのルックスとプロポーションで一世を風靡したグラビアアイドル。そんな彼女が俺に与えた影響は計り知れない。
懐かしい……あの時は女の人の体に興味なかったはずなのに、あのCMを見た瞬間……いや? 正確にはドアップで映し出された神尻を目の当たりにした瞬間、何かが爆発したような感覚だったわ。
ふぅ。なんて思い出にふけってるところ申し訳ないけど、今何時だ? ……げっ、目覚ましの1時間も前じゃねぇか。けど、こんな状態で2度寝なんて出来る気がしねぇよ。
「仕方ない、起きるか」
目覚ましが鳴る前に起きるなんて、いつぶりだろう。でもまぁ不思議と嫌な感じじゃなかった。
着替えている内に男のシンボルも落ち着きを見せ、装いは至って普通。そしていつも通りリビングへ向かう。
ガチャ
「おはよー」
「うっ、うわぁぁぁ! お兄ちゃんが早起きしてきたぁ」
「ヤバッ、今日の天気晴れだよね? 洗濯物干していくの止めようかな」
リビングに入るなり、聞こえてくる悲鳴と不安に駆られる様な声。
まるで妖怪でも見るかの如く驚いてるのは、弟の
口を押えあからさまに不安げな表情を浮かべているのは、母親の
おい、俺は怪物か? 不幸の前触れか? その反応は絶対におかしい。
「なんだなんだ? 人の顔見るなり慌てふためきやがって。失礼にも程があるぞ?」
「いやいや、お兄ちゃんがこんなに早く起きて来るなんてあり得ないよ」
「目覚ましでやっと起きれる男が、早起きなんて天変地異の前触れでしかないでしょ?」
酷い、酷すぎる。
「たまにはこんな日だってあるだろ?」
「だから驚いてるんだよっ!」
「だから嫌な予感しかしないのよっ!」
「ちょっ、押すなよー」
「いやいや、早起きだけでも珍しいのに、たまには早く家出てみようかなぁっ……て! 有り得なさ過ぎて怖いのよっ! そうと決まればほらほらっ!」
「分かった分かったって」
「はいっ! 行ってらっしゃい!」
ガチャ
なんだこれ? こんな事、実の息子にするかね? 暇だから1本早い列車で行こうかなぁって一言に、
「だったらさっさと行きなさいよー。今日のあんた気味悪いもん」
だぞ? 挙句の果てに明まで、
「うっ、うん。今日のお兄ちゃんはなんだか気味悪いよ。どこか具合悪いの?」
あの優しい明にさえあんな事言われるとは……悲し過ぎる。
まぁ確かに、目覚まし掛けても起きず、スヌーズ機能でも起きず。明に起こされるってのがここ5~6年のパターンだったもんな。そんな奴が自ら起き、さらにいつにもまして早起きなんて……気味が悪いのも当然なのか?
……そう言う事にしとくか。うん。それにハッキリしたな、
明日からは絶対早起きなんてしないぞ。
そんな決意を胸に、俺はいつも通り駅へ向かって歩き出す。
はぁー、少し早いだけでこんなにも人通りって少ないの? ていうか圧倒的に学生の数少なっ!
いつもより人気のない通学路に、
うわっ、駅も人いなっ!
ガランとした駅。
マジか? 席座り放題、選び放題じゃん?
空席だらけの列車。
なんか同じ場所のはずなのに何処か違ってて違和感有りまくりだよな? たった列車1本分。それだけなのに……雰囲気全然変わっちまう。もしかして世の中って……ふとした事でガラっと変わっちゃうものなのかもなぁ。
まぁ、俺はやっぱりいつもの騒々しくて混み込みした方が落ち着くけどね?
そんな違和感だらけの通学路。それはものの見事に学校へ到着するまで期待を裏切る事はかった。
ガラガラ具合もさることながら、黒前高校前で降りる人の少なさよ。まぁ、今現在歩いてる学生なんて見えるだけで1、2、3人。
野球部? ソフトボール部? バドミントン部? 鞄とチームウェアに煌々と輝いてるわ。強豪はやっぱり違うねぇ、朝から気合入ってるもん。
まっ、ウチはウチ。ヨソはヨソ。バスケ部のモットーは短期集中。限られた時間でどれだけ密度の高い練習が出来るかどうかに重きを置いてるんだよね。監督もわざわざ朝練禁止、居残り禁止って口尖らせて言ってるくらいだし? しかもそれに成績が付いてきてるんだから誰も文句は言えないよね?
っと、そうこうしてる内に、はい到着―。鉄先生もまだ立ってないな。しめしめ、正直朝からあの熱血っぷりに触れるのは気が重いんだよなぁ。躱せたらいいものの、捕まったらゲンナリだもん。
はい、通りま―す。
いつもは混み合ってる昇降口も、今日は休みかってくらいに誰も居ないなぁ。なんてこった、これだと神風による朝のパンチラチャンスを拝めないじゃないか? こりゃないわぁ。むしろそこで今日の運勢とやる気をチャージできるというのに……早起きは三文の徳ってことわざあるけど、あれは間違い……
「あっ、晴下君」
見慣れない景色と通用しない朝のルーティン。そんな状況に心底落胆している時だった、その聞き覚えのある声が不意に横から聞こえて来る。
静寂に包まれた学校の昇降口前において、その声に気が付かない訳が無かった。
ん? 誰だ? ってか……この声ってもしかして?
いきなり声を掛けられて驚いたってのもある。だけどそれ以上に何とも言えない感情が体全体にこみあげてくるのが分かる。
透き通った、優しい雰囲気漂う声。それはここ2日でしっかりと頭の中に沁み込んでいたし、むしろ昨日からさほど間が開かずの登場。すなわち、俺にとって、もはやはやその顔を見ずとも……誰なのかは何となく理解できる。しかしそれと同時に湧きあがる疑問。
なんで?
もしかしていつもこの時間帯に?
でも一昨日と昨日は俺より遅かったよな?
もしかして朝練?
にしてはめちゃくちゃ良い匂いで毎朝登校してたけど?
しかしながらこの状況において、そんな疑問は全く役には立たない。
「おはようっ」
再び耳を通ったその声に、全て吹き飛ばされたんだから。
これってやっぱりそうだよな? この横に居るのは間違いないよな? どうして……ここで出会ったのでしょうか?
磐上彩音さんっ!
「あぁ、おはよう」
っと、あぶねぇ! 色んな事が頭の中一杯で、フリーズするところだったぁ! どや? 普通の反応だったよな?
「晴下君早いねぇ、もしかして朝練とか?」
うん。とりあえず変だとは思われてはいないみたいだな。セーフ!
「いや、バスケ部は朝練ないんだ。なんか早く目覚めちゃってさ」
「へぇーそうなんだ」
それにしても、磐上さんはなんでこんなに早く? よくよく見た感じ朝練って雰囲気でもなさそうだし……もしかして朝早く来ては図書室とかで勉強とか?
「実はね? 私も今日早く起きちゃって、いつもより早く来ちゃったんだ」
今日? って事は……
「じゃあいつもは……」
「てへへ、結構ギリギリ」
なっ、なるほど。ってその顔はヤバい。その恥ずかしそうな顔はヤバい。くっ、朝からこれ程の精神的ダメージをくらうとは……耐えろ黎。惑わされてはならぬっ!
「まぁ早起きは三文の徳って言うしね」
こっちは全然そんな気はしないけどねっ! なんでたまたま早く来て、偶然早起きした磐上さんと出食わさなければいけないんだよ。1対1はダメだって、昨日だってアリス先生来なかったら完全に勘違いの域に達してたもん。
「それは……本当にそうかもしれないね」
ダメだダメだ。こんな事になるなら、金輪際一生早起きなんてする……ん? 何か意味ありげな……
「ねぇ……晴下君?」
やっ、やっぱり? なっ、なんだ? ちょっと雰囲気が変わりました? なんですかー!
「昨日、保健室でしてたお話……」
「覚えてる?」
ははっ、はははっ……
もっ、もちろん……
「うん。覚えてる」
覚えてるって、言わざるを得ない状況じゃないですかぁぁ!
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