第14話 毎年恒例嫌な時期

 



 ニャー

 ミャー


 駅の傍らで仲睦まじそうにイチャついてる猫。

 その姿を見た途端、あぁ、なんというか。今年もこういう時期が来てしまったんだなぁ。

 そんな悲壮感に襲われながら、俺はいつも通り1人改札を通り抜ける。


「ねぇー、今度あそこ行こうよ」

「いいねぇ」


 っ、行ってるそばから出やがったな? カップルという名の不穏分子めっ! だからこの時期は嫌いなんだよ。

 入学式から数週間。俺はこの時期を第1次不穏分子(カップル)発生期と命名し、毎年警戒およびストレス軽減に努めている。理由は簡単、長年のリサーチにより毎年このくらいの時期に……


 不穏分子が圧倒的に多くなるっ!


 新学期という出会いの時期。入学・クラス替え等、新たな面々と遭遇し、一気に盛り上がる。そしてその熱が数週間経ったこの時期にお試しも含め、花開くことが多いのだ。


 くそっ。覚悟はしてたけど、やはり精神的ダメージは避けられないか。しかしながら、ここで怯めば雰囲気に飲み込まれてしまう。だったら堂々と……


 1人でどっしり座ってやれ。


 ふっ、俺は負けんよ? 年季の違う独り身(勇者)を舐めるなよ?


「あっ、晴下先輩!」


 そんな毎年恒例の決意を胸に誓っている最中、不意に聞こえて来た自分の名前。

 先輩? って事は後輩? しかもこの声……


 この間コンマ数秒。普通の晴下黎は、いつものクールな晴下黎へと表情を変えた。

 そして至って普通に顔を向けると、そこに居たのは、


「おはようございますっ!」


 少し背の小さい、ショートカットの女の子だった。


「あぁ、おはよう。宮原さん」


 あっぶね。聞いた事ある声だと思ったらやっぱり宮原か。まぁこの駅で先輩呼びする人って限られるからなぁ。


「もう~宮原でいいですよっ! 先輩」


 相変わらず元気良いなぁ。


「まぁ、その内な」

「その内っていつですか? ふふっ、ホント晴下先輩面白いんですから」


 おっ、面白い? 本気で言ってんか? いやいや、単純にいきなり呼び捨てで呼ぶのに慣れないだけなんだけど……まっ、まぁ礼儀もなってるし、良い後輩と言っても良いのかもしれない。


「あっ、あんたも挨拶しなさいよー」


 ん? なんかあっちの方見て手招きしてるんだが? 挨拶? 友達か誰かか?


「ほらほらー! はいっ!」

「ちょっ、腕ちぎれるって!」


 なんだと? 

 早歩きで別の車両に行った宮原が、誰かの腕を引っ張りながら戻って来る。声的に、グラマラスな先輩でも、可愛げのある同級生って訳じゃないのは分かる。そう、男っ!


 そして姿を現したのは、短めの髪に綺麗な顔つきの男の子。それはいわゆるイケメンに分類されるであろう。


「先輩、こいつ同じ中学校だったんです。高校も黒前高校なんですよ? ほらっ! 挨拶っ!」

「分かったって! えっと……初めまして、雨宮海あまみやかいです。って、こいつとはなんだこいつとは」


 身長は180前後。しかもなんだこの透明感。下平先輩が某アイドル系イケメンなら、こっちは爽やか系イケメンじゃねぇか! 


「あぁ、初めまして。俺は……」

「2年生の晴下黎さんだよ? 知ってる? バスケ部の静かなるエースって呼ばれるくらい凄いんだよ?」


 あっ……いや、宮原? 


「それにクールオブクールという異名を誇るまさに王子様。その人気は学校内に留まらず……」


 ちょっ、待て待て。暴走すんなっ! てかクールオブクールって何? そんな恥ずかしい異名で呼ばれてんの?


「おっ、おい。湯花、声デカいって。しかも晴下先輩に迷惑掛けんなよ」


 おっ、おぉ。雨宮君、君って顔もイケメンだけど、もしかして性格もイケメンなのか?


「だって事実なんだよ? あっ、こいつ中学校の時バスケやってたんですよ? あっ、これも縁だしバスケ部入っちゃいなよ」

「なんでそうなるんだよ」


 ほほう、中学ではバスケ部か。


「上手いし、身長もあるんだからやっぱり勿体ないって! ねぇ先輩?」

「だから、俺は……」


 やっぱりって事は、何か訳有りなのか? まぁどっちにしろ、


「まぁまぁ、やるやらないは本人が決める事。無理強いは出来ないよ」


 大事なのは本人のやる気だからねぇ。


「甘いですよ先輩!」


 はっ、はい?


「先輩は優しすぎです。うみってば、本当にバスケ上手いんですよ? なのに……」

「上手くねぇよ。しかも俺の名前はうみじゃない」


 おーい宮原?


「大体、上手い上手くないってお前の主観だろ? 俺なんてペーペーなんだよ」

「何言ってんだか。そんな奴が県予選で50点も取れる訳ないじゃん」


 おーい雨宮君? って50点はすげぇな。


「あれはたまたま……」

「嘘付くな。平均で……」


 あっ、あの俺空気なんですけど? 完全に空気なんですけど? しかもその痴話喧嘩みたいなの列車の中で……って痴話喧嘩?


 ……なぁ、もしかして、


「だから弱い所だった……」

「んな訳有り得ない……」


 お前らも……


 不穏分子(カップル)かっ!



 あぁ、そうだよな? 喧嘩してる様でめちゃくちゃ仲良さそうだもんね。

 あのさ、ホント目の前でイチャイチャ止めてくれない? 


 ねぇ、ねぇ。




 マジで悲しくなるからぁぁ!



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