第1話 彼女が目の前にやって来た
春という季節は何て良いんだろう。
心地良い天気に、心地良い風。
そして、
「「キャッ!」」
素晴らしい春一番。
おっ、青と白のボーダーともう1人はピンク。リボン的に1年生……なんとまぁ初々しいねぇ。はぁ、やっぱり春という季節は何て良いんだろう。
ん? 朝から何考えてるんだって? いやいやこれ位そんじょそこらの健全な男子だったら、目撃した瞬間に目の前のパンツで頭の中は一杯になるだろ? 俺だって人並みのスケベ心は持ってるし、心の中で高揚する分には問題ないでしょ。表情だって変えてないし、そんなガン見してる訳じゃないしね。
ふぅ。
けど、こんな最高のご褒美的な出来事を表立って共有できる友人が居ないのは寂しい限りだ。あっ、別にボッチだとか友達が居ないとかそんな事じゃないぞ? この1年で話出来る人は結構増えたし?
……って考えると、俺が本当の姿をひた隠して高校生活を送ってからもう1年かぁ。なんと言うかあっと言う間だったなぁ。って、まずいまずい。昇降口に差し掛かる所だったわ。若干のニヤケ顔を元に戻してと……ん? なんで無表情になるのかって? いやいやこれには込み入った理由があってだね? それは、
びー・おぁ・えいち
~クラスではクールキャラ扱いの俺が、実はむっつりスケベな件について~
なんて、大人気のライトノベルっぽい題名みたいに言っちゃったけど、簡単に現状を説明するとこんな感じ。あっ、でも決して自分自身をクールキャラだとは思っていないぞ? むしろ小学校や中学校では仲の良い奴らと教室でそれなりにはしゃいでたし、口数も多かった……そう、多かった。
じゃあなんでサブタイトルにそんな言葉が出ているのか意味が分からない? まぁそれもそうだよな。うん、じゃあ実際見てもらった方が早いかもしんないね。
ガラガラ
(あっ、晴下君だ)
ヒソヒソ
(どうしよっ、同じクラスなんだし挨拶ぐらい良いよね)
うん。予定通りの反応です。ちなみに俺は不良でもヤバイ奴でもない。強いて言うなら少しばかり身長がでかいだけのスポーツマンである。
「おっ、おはよう。晴下君っ!」
「あぁ、おはよう。日野さん達」
(キャー、聞いた聞いた? 私の名前言ってくれたよ?)
(聞いたっ! しかも達って事は……私の名前も覚えてくれてるじゃん?
(はぁ……やっぱり)
(クールでイケメンだよねぇ)
……お聞き頂けただろうか。
ザワザワ、ザワザワ
……ご覧頂けるだろうか。
俺は普通に挨拶しただけ。なのになぜかクールキャラだと思われている。それにクラスメイトの名前なんて、昨日の自己紹介で普通に覚えてるでしょうが。全然驚く事でもないと思うよ?
……ちょっとそこっ! 聞き取れないこしょこしょ話止めてっ! 聞こえなくても動作でバレバレなんですよっ!
ったく、よっこいしょ。こういう時窓際の席は良いよなぁ。なんかあったら外眺めてれば良いし。
しかしなぁ、こんな空気はやっぱりいつまで経っても慣れるもんじゃない。元を辿れば、入学した時にそう思わせる様な態度だった自分も悪いけどさ……孤立無援で極度の緊張。そんな固い表情と様子だった自己紹介を経て、まさかそれが冷静とクールという俺には全く似つかわしくないスキルに変化するとは到底思わないでしょ!?
とまぁそんな感じで、本来の姿を見せるタイミングを見失ったまま月日は流れ、全く違うクールキャラが定着。そしてただのスケベからむっつりスケベへと変化し今に至る。
はぁ。完全にタイミングを逃したよなぁ。しかも今更本来のキャラ見せて、そのギャップで引かれる可能性考えたら……うぅ、その恐怖を乗り越えられる自信がない。しかもクラス替えで顔ぶれも変わって、周りの雰囲気も反応も1年前のそれが再来したかの様な感じだしなぁ。
「おいっ、このグラドルの胸っ!」
「うっは! でけぇ」
あぁ、いいないいなぁ……背後から聞こえてくるその会話に入りてぇ。そんな会話してぇ。そいえば1年の時に仲良くなった奴らも俺には下ネタ系の話題一切振って来なかったんだよなぁ。
ザワザワ
あぁ、なんかまだザワついてるよ。皆慣れるまで時間掛かるんだろうなぁ……ん? なんか良い匂いが……
ガタッ!
突然耳に飛び込んで来た結構大きな音。しかも自分の目の前から聞こえたとなったら、スポーツマンの性かな? 反応しない訳にはいかなかった。
うおっ!?
そうして反射的に向けた視線の先で見たものは、少し斜めになった机とそこに密着するスカート……から顔を覗かせる綺麗な白い足。
うん、めっちゃガリガリという訳でもなく、太いって訳でもない。スラっとしたその足はどこか健康的に見えた。
うん、良い感じにインナーマッスルが鍛えられてる。スポーツやってる人だな? それにしても見る限り太もも辺りがぶつかった感じだけど、結構な音だったぞ? 大丈夫か?
って、まずいまずい。足元ばっか見てるのバレたら、それこそ俺のむっつりがバレちまうよ。すぐさま顔見て……はっ! なんと制服の上からでも分かる胸の大きさ!
いやいや総合的に見てなかなかのプロポーションだなぁ。ん? でもなんか見た事のある様な……って馬鹿! さっさと顔見て、とりあえず挨拶でもして普通に対応するんだ。そうだクールに……
「おはよっ、晴下君」
その抜群のプロポーションを持つ人物。その
ばっ、磐上彩音!?
その人だった。
ヤッベ! こっち見てるって事は足元から舐めるように見てたのバレてるのか? いっ、いや? 焦るな? 全然見てないですよぉ? 気のせいですよぉ? って体を前面に押し出すしかない。いいか? 普通に冷静にクールに……
「あっ、あぁ。おはよう、磐上さん」
……どや? よっしゃ、席に座わろうとしてるぞ? 反応的には至って普通だったし? 大丈夫だよな? 変に思われてないよな?
ふぅ、びっくりしたぁ。って、なにその髪の動き? 席に座ろうと体の向きちょっと変えてるだけなのにフワッと生き物のように動いてんですけど? しかも昨日に引き続きめちゃくちゃ良い匂い。けどやっぱりお尻は……ってゴホン!
……そう言えば目の前の席が磐上さんだって完全に忘れてたなぁ。あれ? もしかしてさっきのザワザワは磐上さんが教室に入って来たからなのでは?
美少女エリートの名を持つ彼女なら十分あり得る。たぶん、同じクラスになれただけで嬉しい奴らも居るだろうしなぁ。うん、やっぱこの距離で見ても可愛いもん。さらにこのルックスで成績優秀、更にテニス部のエースとくりゃあ、男女問わず人気なのも頷ける。
だとすれば、やはりそんな超有名人の後ろの席とは結構なベスト位置か。それに声も可愛いし制服の上からでも分かるナイスバディ。けどやっぱりお尻がなぁ……ってあれ? そいえば昨日もだったけど、磐上さん普通に俺に話し掛けてきたよな? しかも昨日に関しては全くの初対面にも関わらずだったし、今日も?
……いや、噂通りならコミュ能力だってピカイチって話だし、とりあえず皆に挨拶はしてんだろうな。あぶねぇ、もしかして俺に興味が!? なんて勘違いする所だったわ。ホント、こういう女子の何気ない仕草とか、男子諸君は気を付けた方が良いよね? イヤイヤまじで。
とまぁそんな被害妄想はとりあえず置いといて、とりあえずコミュ力抜群な美少女さんと会話出来るなら願ったり叶ったり。まぁ挨拶だけかもしれんが……早々に新しいクラスで孤立っ! なんて確率は減ったかな?
……ん? ちょっと待って? 目の前に学校の有名人。すなわちインフルエンサー的存在が居るんだよな? 今俺ってば物凄くポジティブな事ばっか考えてたけど、逆に考えたらこの距離感だぞ? さっきみたいな感じで、なにかの弾みで俺のむっつり本性バレたら……
ものの数日でクラスは元より学年、学校中に広まり? 俺は……俺は……
完全にゲームオーバーじゃねぇかっ!
くっそ、マジかっ! 頭の中メリットしか考えてなかった。そうなるとここって、とんでもないハイリスクハイリターン席じゃね!?
ヤバいヤバい。こうなりゃ安易に親しくなるのも危ないか? しかし下手に冷たくあしらって心象を害したら、それこそ俺の高校生活における残機が一瞬で消滅してしまうっ! 近すぎず遠すぎず、適切な距離感を保ち続けるしかないのか?
……はぁ、考えれば考える程頭も心も疲労物質で一杯だよ。しかも悲しいかな、まだ新学期始まって2日目。果たして俺はこの1年? いや、次の席替えまでにこの状況を乗り切る事が出来るんでしょうか?
神様仏様……どうかどうか、
ふとしたキッカケとかで、仮面が剥がれませんよーにっ!
ふぅ。あっ、それにしても磐上さん……
太もも大丈夫なのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます