第5話 部活と新入部員と?
ガタン
「ほぅ、随分逞しくなったじゃないか。黎」
ロッカーを閉めるなり、笑顔で語りかける坊主頭。
少なからず精神をすり減らされる教室から解放されたと思ったのに、その眼差しに一抹の不安を感じるのはなぜだろう。
いや、あの先輩? 部活の先輩としての発言ですよね?
「そりゃそうですよ。野呂先輩には散々可愛がられましたもん」
確かにこの1年で野呂先輩指導の元、ウェイトトレーニングに取り組んできた。だがな嵐。その言い方はなんか色々とヤバいぞ?
「入学したての時はガリガリでしたからね」
黒前高校不動のセンター
一歩間違えればあっち方面の人と勘違いされてもおかしくはない。
「だな。しかし、よくぞここまで……」
ひっ、ひぃ。だから、その顔で人の二の腕触らないでもらえます?
「あっ、先輩っ! 俺だって頑張ったんですよ?」
そんな明らかにヤバそうな光景を目の前に、何を血迷ったのかお隣の嵐が上半身を曝け出し、自慢げに力こぶしを見せつける。
「おぉ、確かに。嵐、お前もなかなか……」
まぁ、そんな行動に野呂先輩が興味を抱かない訳もなく、
「どうです? どうです?」
「うむ、大きくはないがインナーマッスルは確かに……」
……ダメだってっ! 背の小さい童顔少年の体をデカくてガチムチ坊主頭が笑顔で触ってる光景なんて、もはや明らかに危険じゃねぇか! どこのBⅬだよ! その筋の人にはめちゃくちゃ人気ありそうなキャラとシチュエーションですけどね!?
けど俺はそんなの興味ない。さっさとシャツ着て体育館行こう……
「おつかれー」
変にヤバイ空気漂う部室に開かれたドア。そして聞こえてくる爽やかな声。その声を聞いた瞬間、心底ホッとしたのは言うまでもない。
あぁ、良かった。どうかこの変な空気を換えてくださいよ?
「おっ、お疲れ様です! 下平先輩」
「おう。って、お前らは何やってんだよ。傍から見たら気持ち悪いぞ?」
素晴らしい。さすが先輩、バスケ部キャプテン。俺が思っていても先輩には言いにくい事をずばり代弁してくれる。
「なっ、なんだと? これは練習の成果を確認してる最中なんだぞ?」
「そうですよ? それよりどうですキャプテン? 俺の鍛えた体は?」
揃いも揃って、聞く人が聞けば間違いなくあっち系だと思われるの間違いなしだぞ?
「バカ野郎。そんな姿、違う部活の奴らに見られたらどうすんだよ。バスケ部の連中は皆あっち系だぞ? なんて噂で持ち切り間違いなしだ。という事で執拗なボディタッチ禁止な。あと嵐、俺は男の体に全く興味ない」
「なっ、あっち系だと? そんな如何わしい事なんて少しも……」
「いいのかぁ?
「ぐぬぬ……」
「そっ、そんなぁ……」
はぁ、下平先輩。本当にありがとうございます。
野呂先輩に容赦ない言葉を浴びせつつも、その爽やかさが全てかき消してしまう……そんなこの人は3年の
「そんな顔すんなって、新入部員にバカにされるぞ?」
あっ、そっか。下平先輩、新入部員を案内して来たのか。キャプテンの仕事だもんなぁ。そいえば入部希望者何人位だろ? 多いに越した事はないんだけど。
「先輩、入部希望者って何人位なんです?」
「ん? あぁ、男子だけだと10人かな」
10人かぁ、去年より少ない。
「えぇー、10人って少なくないっすか!?」
「まぁまぁ、結論付けるにはまだ早いよ? 仮にも10人ってのは入部を既に決めてる人だからね」
確かにまだ部活を決めかねてる人も居るだろうし、とりあえず見学って人も来るかもしれないな。
「じゃあ見学者にアピールしなくちゃですね」
「その通りっ! だから嵐、いつも通りテンション高めで頼むな?」
「まぁかせて下さいっ!」
「それで? 聖、お前的に気になる奴はいたのか?」
「んー、皆それなりの実力はあると思うよ? けど……」
「やっぱり去年のスーパーユーティリティールーキーと比べると、見劣りしちゃうかな?」
そう言って、俺の顔を見ながら少し笑顔を見せる下平先輩。もちろんそれが社交辞令だってのは分かってる。でも……そんな事言われたら社交辞令でも少し嬉しくはなる。
「いや……そんな……」
「ちょっと待って下さい、先輩! 確かに黎の方が有名ですけど、盛り上げ役なら負けないですよ? バスケ部の誰にも負けないっすよ?」
うわぁ……変なところで燃えてる奴出て来たぁ。
「ふふふっ、だったらその力……存分に見せてもらおうかな? 歩く核弾頭丹波嵐君」
「任せてくださいっ!」
ん? これはもしかして……あえて嵐を焚きつける事によって、見学者へ強く印象付ける作戦なのでは? 確かに嵐は乗せれば乗りやすい性格だ。まさかそれを見越して同級生の俺を褒める様な事を? だとしたら……
やはり凄いぜ、下平先輩。
「――――――です。宜しくお願いします」
パチパチパチ
そんなこんなで、部活の前に始まった新入部員の自己紹介。とりあえず男子ついては県でもそれなりの成績を残した実力派が来てくれてホッとした。しかしながら野呂先輩を越える様なビッグマンが来てくれなかったのは痛い。こりゃ今年も我が校の弱点はインサイドになりそうだ。
「じゃあ次は女子お願いしようかな?」
おっと、真面目タイムは終わりだ。むしろここからが本番かもしれん。なんでかって? それは……
「
プロポーションチェックに決まってるじゃないかっ!
ほぅ、推定Bカップでヒップは79ぐらいか? スポーツ女子の見本的な体型だな……
っと、とりあえず次の子で最後かな? まぁ皆それなりのプロポーションだけど、突出したものを持っている子は居なかったなぁ。まぁお俺達世代代表、
「初めましてっ!
パチパチパチ
ん? 森白中って石白市の学校だよな? 確かちょっと山の方にあったはず。俺の中学もだけど、あんまりあの辺から黒前に来る人って少ないからちょっと親近感湧くかもしれん。それにプレーヤー兼マネージャーとかって言ってなかった? もしや大物なのか?
「よーし、じゃあランニングするぞー」
おっと、自己紹介もそこそこに早速練習開始か。本当、下平先輩はこの辺の切り替えも早いよなぁ。じゃあ俺も……ヤバッ、いつもなら早く来てテーピングして貰ってるんだけど、今日は自己紹介のおかげで見事に時間潰れてたわ。しゃーない、
「先輩、ちょっとテーピングしてから合流します」
「おう、了解」
そう一言告げると、皆が下平先輩の元に集まる中、俺は1人体育館のステージへと向かった。
とりあえず練習前には足首のテーピングは欠かせない。そしてこのテーピングが抜群に上手い人が居る。それが、
「はーい、待ってました晴下君。テーピングでしょ?」
この日南詩乃だ。
「あぁ、日南さん。今日もお願い」
「はいよー、ちょっと待ってね? テープ、テープっと」
そう言って前屈みになりながらテープを探す日南さん。いやはや、そのTシャツのから見える胸の谷間はもはやエベレスト級である。さらに決して大きくない身長にあどけない顔……これが合法ロリ巨乳というものだろうか? でもそんな彼女もまた、お尻の方は控えめなのが残念な所ではある。
……いや、本当にテーピングの腕前もピカイチなんだよ? 決してそのエベレストと、運が良ければブラチラなんかを期待して毎日テーピングしてる訳じゃないんだよ? 本当だよ?
「あちゃー、晴下君ごめん。テープ切らしてるみたい」
ん? テープが切れてる?
「ちょっと待ってね? 保健室行って貰って……」
「日南せんぱーい! 次何したらいいですか?」
そう……か。テープが切れているとは、そろそろバスケに集中しろという神が俺に与えた試練か。くっ、しかも日南さんももはやマネージャーの先輩になるんだもんな? こりゃ指導の邪魔は出来ないか……
「いいよ日南さん。俺行って来るからさ?」
「えっ? でも……」
「大丈夫。それよりもマネージャーの仕事教えてあげてよ、先輩」
「んー、じゃあお願いちゃおっかな?」
「了解」
「テーピングは必ずするから安心してね? 怪我だけはダメだもの……」
「頼りにしてる」
そう言うと、慌てるようにどこかに走り去る日南さん。
そしてその姿を確認すると、男は1人寂しく体育館を去るのだった。
キュッキュッキュッ
廊下に響くバッシュの音、しかしながらそれは晴下黎の耳には届いていない。なぜなら、
はぁ、やっぱ短かったよなぁ。
頭の中はいつもより短かった癒しタイムへの未練しかなかったからだ。
いやぁしょうがないのは分かるけど、今日はあまりにも短すぎる……しかもテーピングテープ持って行った所で、タイミングが合わなかったら他の人にお願いする事になるし? この流れだとその可能性が極めて高いんですよねぇ。
まぁ、今日は諦めた方が良さそうだな……仕方ない。こうなりゃ保健室のアリス先生に癒してもらおう。
うん、そうだ。そうと決まれば……ダッシュだ!
この時、俺はまさに有頂天だったに違いない。だからこそ、
さてさて、居ますかぁ? アリス先生ー!
この浮ついたテンションが、一瞬にして消え去ってしまう事になるなんて、
よっと。
ガラガラ
知る由もなかった……
「失礼します。
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