作者さまがお客さんから聞いた不思議な体験の話に、半分のフィクションを織り交ぜて語っていく、少し不思議なお話を集めた短編集です。
1話1話は短いながらも、イメージを喚起する巧みな語り口で、読み手をすぅっとお話の中に引き込みます。
霊的なものから人的なもの、オチのあるものから原因もよく分からないものまで。
きちんと理屈で説明できることばかりではないのですが、どのお話も肌で感じるようなリアリティがあります。
私自身、霊的な感性は全くないのですが、こういうエピソードを聞くと、この世には不思議な力が存在しているんだろうなと信じたくなります。
この作品集のお話を、朗読劇で聞いてみたいなと思いました。
また更新をお待ちしています!
これは作者が、お店に来るお客さんから聞いた不思議な話をあつめた短編集である。
年間700人という初対面の人に会う職業柄、いろいろなお話を聞けるというのだが……。
恐ろしい話。不思議な話。ほっこりする話。
しかも、読んでいて、それがどっちに、どこへ転がり、どう落ちてゆくのか全く予想がつかない。
内容はさまざまだが、すべてこれ怪談の範疇に含まれるものばかり。その怪談に、作者が多少のファクションを交えて語っているとのことだが……。
不可思議にして奇怪。そしてオチがない。
なぜそうなるのか? どうしたそうなったのか? それに対する解答は、ひとつも明示されない。
それは、ミステリー小説に例えるなら、犯人はつかまえたが、その殺人の動機が一切判明しない。そんな不気味さがある。
そしてその不気味な事案を、作者は淡々と、ときに畏れつつ、ときに冷静に、まるで歴史家のように語ってゆく。
ああ、われわれの住む世界は、怪奇なことでこんなにも溢れているのか……。すべて読み終えたあとも、なにか得体のしれない恐怖が自分の周囲に揺蕩っているような、そんな気がしてならない。
半分実話という、一話完結型の奇譚。恐ろしいお話や背筋がゾッとするお話、気味の悪いお話に、腑に落ちないお話……綺麗に終わりきらないお話も多く、この妙に喉元に残る感覚がよりリアリティがあって読み終えた後になんとなく周りを気にしてしまいます。中には心が温まる物語もあって、そういうお話に出会えた時は自然と頬が緩みました。
職業柄様々な方と接することが多い作者が聞いたお話を丁寧に整え直して書いている物語ということで、その前情報を得てから読むとさらに内容に入り込めてリアルに感じます。それもお話の導入の仕方が大変巧みです。ご本人も個人情報ゆえと仰っていたので仮名だとは分かりますが、それでも最初に話を聞いた人……つまりは物語の主人公となる人物の名前をフルネームで語ってからお話が始まるので、そこがこれまた生々しさを演出し、リアルに感じられます。また、半分実話という謳い文句が良いスパイスになっていて魅力が倍増しますね。
こわいお話は時に信じたくないと思ってしまうのですが、語られる不可思議の中には確実に否定しきれない立体感が存在します。読み終えたあと、これはきっと起こったのだろうな……と妙に納得してしまう自分がいました。
ちなみに私が一番好きなお話は『第12話 枕もとのメモ』です。こちらは心が温かくなるお話です。優しさに触れたい方にはとてもオススメします。すごく好きです!
半分実話というこの話達を是非ご自分の目で確かめてください。そこにはどうしても否定しきれないナニカが存在しています。
実話ベースの怪異譚には必ず、きちんとしたオチのつかない座りの悪さがあって、それがリアリティにもなるのだが、このシリーズにはさらに独特の距離感がアクセントとなって同型ジャンルの作品群から突出する魅力となっているように思う。
これらの話が誰かからの伝聞であっても、その誰かについては直接見知っているという設定上、どこか完全には客観的になり切れず、語り口に終始「半歩踏み込んだ」感じが付き纏うのである。
そこには体験者の人柄や風貌を忍ばせる温もりめいたものがある。
個人的にはお地蔵さんの話が好きだ。幽霊の後を尾つけて迷惑がられるという成り行きはどこかユーモラスで恐ろしいというよりは笑ってしまう。これもなぜ男の霊が寺のお地蔵さんを目指して歩くのか、その因果は解けないままだ。
かまって欲しがる霊が多い中、放っておいて欲しい霊がいるというだけでも不意を突かれる面白さがある。完全な創作ではむしろ定型にハマってしまう幽霊像がここでは崩れ去る。半実話ならではの爽快さを堪能できます!