半分が実話というには、あまりにも怪奇な怪談集


 これは作者が、お店に来るお客さんから聞いた不思議な話をあつめた短編集である。
 年間700人という初対面の人に会う職業柄、いろいろなお話を聞けるというのだが……。

 恐ろしい話。不思議な話。ほっこりする話。
 しかも、読んでいて、それがどっちに、どこへ転がり、どう落ちてゆくのか全く予想がつかない。

 内容はさまざまだが、すべてこれ怪談の範疇に含まれるものばかり。その怪談に、作者が多少のファクションを交えて語っているとのことだが……。

 不可思議にして奇怪。そしてオチがない。
 なぜそうなるのか? どうしたそうなったのか? それに対する解答は、ひとつも明示されない。
 それは、ミステリー小説に例えるなら、犯人はつかまえたが、その殺人の動機が一切判明しない。そんな不気味さがある。
 そしてその不気味な事案を、作者は淡々と、ときに畏れつつ、ときに冷静に、まるで歴史家のように語ってゆく。

 ああ、われわれの住む世界は、怪奇なことでこんなにも溢れているのか……。すべて読み終えたあとも、なにか得体のしれない恐怖が自分の周囲に揺蕩っているような、そんな気がしてならない。



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