第2話 警察の山家さん

 明け方よねさんは店を閉めて、奥の部屋に引っ込み眠りについた。

 どのくらい時間が経ったのだろう…。ドンドンドンと戸をたたく音で目が覚めた。しかもしつこく何度もたたくので、しぶしぶ戸を開けるとそこには日焼けした山家さんが立っていた。

 「よねさん、ちょっといい?」

 山家さんは警察で、この森のパトロールを定期的に行っている。バツイチの中年おじさんだ。

 「なんか飲みたいだろう。お入りなさい。」

 山家さんに冷たい麦茶を出してやると、ゴクゴクおいしいそうに飲みほした。

 「よねさんとこに今月どのくらい来たの?」

 よねさんはコーヒーを入れながら、脇にあるレジの横に立てかけてあるノートをとって差し出した。

 山家さんは、ノートをしばらく眺めていたが、ようやく顔をあげると目の前に美味しそうなチョコレートとコーヒーが置いてあり、とても良い香りが部屋中に広がった。

 「最後にきたこの男の服装は?」

 「たしか茶色のコートにスーツだったかな」

 よねさんはコーヒーをゆっくりすすってため息をはいた。

 「そいつじゃないな。」

 「森へは、いかなかったかい?良かった。今月もいたのかい?」

 「ああ、何人か。でも、よねさんとこ寄らないで森に入って行った人たちだろうから」

 「若い人かい?」

 「うん、まあね。中年が多いかな。」

 「もったいないね。まだまだ生きれたろうに。」

 「本当だ。でもこのノートに書いてる客は今まで誰も自殺してないからやっぱりよねさん、ありがとなあ。無理しないでいいんだよ?年なんだから。」

 「もしものことがあるといけないから、店に来た人には全員名前と住所を書いてもらっていたからね。私は、まだまだここに居るよ。」

 「よねさんに居てもらえると助かるけど、やっぱり薄気味悪い森に一人暮らしは物騒だろ?」

 「あはは、ここには大したものはないし、婆さんがいて何にもないさあ?」

 「また来てみるけど、何かあったらすぐに連絡してくれよ?」

 「あんたが、何度も来てくれるから安心だよ~ありがとねぇ」

 山家さんが帰ると、よねさんは店の食材を電話で配達の注文をしたり、店の裏にある畑の水やりや野菜をとって、夜に備えた。

 今日は新鮮なトマトを収穫できたので、ミネストローネを大鍋に作り、今日はじめての食事をした。

 ひよこ豆やペンネなども入り具沢山で健康にも良い。

 よねさんのスープには、新鮮な野菜と手間暇かけた愛情が入った元気が詰めこまれている。

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