第6話 妊婦のちとせさん

 妊婦のちとせさんが、話始めたのは次の日の正午すぎ、よねさんの作るかぼちゃのポタージュを食べ終わった後だ。

 「里帰り出産で家に帰っていたんですが、親との仲が昔から悪くて、私だけが気にしやすい変な人扱いで、夫は単身赴任で離れていますが、出産一時金の用紙をお願いしてもちゃんとした用紙が送られてこなったりで、親も激怒して私も間に挟まれていられなくなり置き手紙をして出てきました。誰も妊婦の私を気遣う人はいません。」

 よねさんは、肩を撫でて笑顔で頷いた。「あんたが居たいだけここにいたらいいよ。今は元気な赤ちゃんを産むことだけ考えればいいんだから。」

 そこへ、ちとせさんの携帯がなった。どうやら夫のようだ。ちとせさんははじめ冷静だったが次第に感情的な声に変わった。

 見かねたよねさんが、携帯を変わるとキツイ口調でこう言った。「電話じゃなくて心配なら普通ここに来るだろ?あんた、妊婦さんを怒らせて何様のつもりだい?この時期はちょっとしたストレスで早産なんかになりやすいんだ。もう少し父親になる自覚を持ってから出直しな。」

 よねさんは、ちとせさんに玄さんの病院があることを教え、ちとせさんは調度立ち寄った山家さんの車で病院へ向かった。

 その3日後、赤ちゃんが無事生まれたと玄さんから連絡があった。

 1週間後、夫と一緒に退院したそうだ。

 よねさんは、面倒をみる覚悟だったが、問題が解決しないまま、生活のために戻るケースは少なくない。やるせなさと同時に何にもできないことに仕方なくため息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る