第3話 常連の奥さんと置き去りにされた女

 夜の9時になり、よねさんは看板をopenにする。

 今日は少し冷えるようで、暖炉の火元を強めていると、戸が開き女性が1人入って来た。

 「よねさーん。私もう駄目~。」女性の顔はあざだらけで内出血していた。常連のはやこさんだった。

 「あらあら、こりゃ大変!そこに座って、すぐに救急箱を…」

 よねさんは、はやこさんの顔に手当てをしてやった。そして、はちみつ紅茶をいれてあげた。

 はやこさんは、はちみつ紅茶を少しづつ飲んで涙を拭いた。

 「夫から殴られて、もう離婚しかないわよね。私も馬鹿だったわ…今まで戻ったりして。」はやこさんは、2年ほど前から来ていて、夫から殴られてしばらくすると帰り、またしばらくして殴られて来るを繰り返していた。

 「またしばらくここに居るかい?」

 「うん、そうさせて欲しい。また、お手伝いするから。お願いします。」

 よねさんは、はやこさんの肩を撫でて笑顔で頷いた。

 「二階の部屋あいているから今日はゆっくりお休み。何にも考えないで寝なさい。」

 はやこさんは、よねさんにシーツや毛布をもらうと二階に上がって行った。

 よねさんは、テーブルを片付け一人暖炉の前に座りゆっくり目を閉じた。パチパチと薪が音を立てた。

 長い静寂のなかを、よねさんは眠りこけていた。

 「すいません。」そんな声が聞こえて目を開けると、そばに20代の女性が立っていた。

 「お客さんかい?」

 「あの、私置き去りにされたんです。車で山道を登って来て、それでだいぶ歩いてここに灯りが見えたから。」

 「そうかい。それは大変だったねぇ。警察に電話したのかい?親には?」

 「まだしてないです。携帯の充電なくなっちゃって。」

 「それならここの電話使いなさい。一応警察にも連絡した方がいいよ。」

 「ありがとうございます。」

 調度警察の電話には、山家さんが出た。しばらくしたらここに来るらしい。親御さんもこちらにすぐ向かうことになった。

 「ミネストローネあるからお食べなさい。お腹すいているでしょう?」

 「いただきます。」

 よねさんは、気分をなごませようと音楽をかけた。

 「私18なんですけど、大学生の彼氏がいて、ドライブしていたら急にケンカになって車からおろされてそれっきり音信不通で。」

 「その彼あなたのこと大切にできてないね。」

 ミネストローネがゆげをあげて彼女の前に差し出された。

 「私彼と一緒に暮らすために家出までしたのに、本当に見る目がなかった。最悪…」

 彼女は、泣きながらミネストローネをすすった。

 よねさんは彼女にティッシュボックスを渡したり、頭を撫でてやったりした。

 彼女はあかりちゃんといって、とても厳格な家庭に育ったそうだ。両親は、自分のことを親の期待に応えられなかったと軽蔑しているらしい。

 あかりちゃんとはたくさんしゃべった。途中、警察の山家さんが来て話を聞いていったが、結局朝になっても両親は迎えに来ることはなかった。

 山家さんに了解を得て、しばらくよねさんのところにいることになった。

 朝方、山家さんにミネストローネとおにぎりを持たせ、また様子を見に来るからと山家さんは帰って行った。

 あかりちゃんを2階のはやこさんの向かえの空き部屋に寝かせ、よねさんも自分の部屋で休んだ。

 大鍋に作ったミネストローネはまだ半分残っている。起きたら、はやこさんたちと食べよう。そう考えよねさんは眠りについた。


 

 

 

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