森の小さなスープ屋さん
山葡萄
第1話 夜9時開店
ここは森の入り口にある小さな小屋。今日も開店の時間が来たよ。部屋に灯りがつけて暖炉に薪を入れて部屋を暖めよう。
店の主人は、77歳のおばあちゃん。優しい雰囲気のこの人は、よねさんと言われてる。
よねさんが、店の看板をopenになおして、暖炉の前に椅子を置いて、ゆっくり腰掛けてゆっくり手を組んで目をつむり、静かに流れるクラッシックに耳を傾ける。
しばらくすると、リリーンとドアが開く。スーツを着た男性が立っている。
「好きなとこにかけなさい。」
男性は、手前の4人かけの席についた。
「寒かっただろうねぇ、ほら温かいお茶だよ。」
男性は、無言のまましばらくうつ向いていたが、ようやく手を伸ばしてお茶を飲んだ。
「スープでも作ろうね。玉子スープにしようか?」
男性は、はじめいらないと頑なだったが、よねさんの押しに負けて、よねさんはキッチンへ移動した。
その間、部屋のなかは暖かくて、心地よい音楽、そして玉子の良い香りがして男のお腹がぐうとなった。
「はい、おまちどおさま。」よねさんが、玉子スープとバターロールを並べた。
男は暖かいスープの湯気を何度も息で冷ましながらそれをすすった。
そうしたら胸がいっぱいになってきて止めどなく涙が溢れてきた。
すかさずよねさんが、ティッシュボックスを差し出し、「よくがんばってきたね。偉かった。さぞ辛いことがおありだったのでしょう。」と男の肩を優しくなでた。
男は頭痛がするほど泣いた後、今までのいきさつを話始めた。
「私は仕事の事業で借金を作ってしまい、借金の取り立てに追われる毎日でした。家族がいましたが、早々に離婚しました。何とか返そうとしましたが、利子がかさみ返済額は膨らむ一方で。借金の相談を専門機関にしていましたが、借金の取り立てから逃げるのが精一杯でもう死のうと思ってこの森に来てみると入り口に灯りのついた小屋があって訳もわからずドアを開けていました。生きていても地獄だけれど、死にたくないんだなと…この店にきてだんだんそう思えてきて。」よねさんが、うなずきながら言いました。
「そうだよ、生きなきゃ。あたしは、死にたいと思う人を止められるほど、立派じゃないしそんなことはできないんだよ。だけど、せめて、切羽詰まった人が、店にきて少しでも落ち着けることで、何とか思いとどまる人もいると思うから。少し落ち着ける場所を用意してみたんだよ。」
男は、深く頭を下げて、よねさんに感謝した。
「ありがとうございます。ここによらなかったら自分はどうなっていたことか知れません。」
「何を言ってるんだい。私はただの老い先短い婆さんだよ。どんなに辛くても、生きてさえいれば、何とかなるもんだから、あきらめないで。」
男は、拒むよねさんにスープ代を置いて明け方店を出ていった。
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