第22話 父と母の初デートで見た映画をNetflixで見た件

「お父さんとの初めてのデートってどこに行ったの?」

多分、小学校3年生か4年生ぐらいのときに食卓で聞いたような気がします。


「映画やったんやで」

「なんの映画?」

「お母さんはな、別に見たかったわけやないねん」

「んで、なんの映画?」

「お母さんは『風と共に去りぬ』がすきやってん」

「だから、なんなん?」


なかなか答えを言わない母のかわりに父が答えました。


「寅さん」

「え?」

「フーテンの寅さんや」

「うそやろ」


まさかの『男はつらいよ』でした。


「デートで見に行く映画とちゃうやん」

私が真剣に答えると、みんな大笑いをしていました。

母だけが「あのな、お父さんのせいやからな」と少しすねていました。

当時、まだ母は30代だったので、恥じらいがあったのかもしれません。


それから30年以上の時を経て、Netflixで寅さんを見つけました。

「ひよこさん、寅さん見たことある?」


台所で鍋の準備をしていたひよこさんはカウンター越しから

「ない」と一言答えました。


「これ、一緒に見ない?」

「え、なんで寅さん?」

「いや、たまたまNetflix見てたらあったから」

「じゃあ、鍋食べながら見よっか」


ということで、二人で鍋を囲みながら、Netflixを見ることに。

うちのパソコンのディスプレイは20インチ以上あるので、映画も見られて便利です。

父と母の見た映画を見たいときに見られるなんて、Netflixはタイムマシーンかよっ!


美味しい鍋の湯けむりただようなか、ずっと二人で笑いっぱなしの2時間でした。

50年経っているなんて信じられないほどテンポも良く、展開も早く、面白かったです。


何より、人が人を思う気持ちがこれほどまでに表現されている映画も初めてでした。

他人がどれだけ他人の人生に首を突っ込んでいるのだろうと、感動すらしました。

この時代(1969年頃)は、人が孤独を感じにくい時代だったのかもしれないなと。


私はとなりで笑うひよこさんを見て、幸せな気持ちになりました。

すると、父のことを思い出しました。

ああ、父は母のこのえがおを見たくて、寅さんの映画に誘ったんだなと。


体験してみるとわかる人の心、愛が鍋とともに身にしみるのでした。



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