闇に凝らした目に映る景色は?

 物語全体に流れている空気に、唯一無二の雰囲気を感じます。

 マフィアが跋扈していた時代といわれ、私と思いうかべるのは1920年代で、確かに街のシーンではその空気があるのですが、クライマックスへと近づくにつれ、教会のシーンではフランス革命からナポレオン戦争の頃の、もっと深い闇を感じました。

 単語にすればたった一文字である「闇」ですが、一言なのに様々なイメージを浮かべてくれる文体が、兎に角、目を引きます。

 ただ暗いだけの闇もあれば、そこにエイダンがいる時は星明かりが、リックがやってくる時には月明かりが見える時もあれば、マフィアが暗躍するガス灯が見える時もあります。

 音も、虫の音、フクロウの声、車のスキール音が聞こえてくる気がします。

 それらを支えている文章は軽くないですが、それは重苦しくもなく、軽薄な印象を受けないくらいのバランスです。主人公のエイダンとリックの存在を引き立てるには、この文体でなければならないと思う程、そのバランスは文字通りの土台。

 5万字の中編、少し夜更かししたい時に丁度いいです。

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