ダークファンタジーと言うジャンルが何を指すのか。私にはよくわからない。
とにかく残虐に人を殺せばいいのだろうか。
とにかく沢山人が死ねばいいのだろうか。
とにかくグロテスクな表現を見せればいいのだろうか。
果たして本当にそれで人を惹きつけることができるのだろうか。
本作はそんな「自称ダークファンタジー」作家達とは一線を画する。
読み手を意識したテンポのいい展開に、センスの光る台詞回し、安定した文章力など、ストーリー以前に書き手が注意しなければならないことが徹底されている。だからある意味安心して物語に集中することができる。
そして、内容も言わずもがな素晴らしい。これに関しては実際に読んでほしい。暗い雰囲気と、ビターな結末にしびれるだろう。
「ダークファンタジー」というジャンルが持つ魅力を考える時、本作が手掛かりになる事は間違いない。
物語全体に流れている空気に、唯一無二の雰囲気を感じます。
マフィアが跋扈していた時代といわれ、私と思いうかべるのは1920年代で、確かに街のシーンではその空気があるのですが、クライマックスへと近づくにつれ、教会のシーンではフランス革命からナポレオン戦争の頃の、もっと深い闇を感じました。
単語にすればたった一文字である「闇」ですが、一言なのに様々なイメージを浮かべてくれる文体が、兎に角、目を引きます。
ただ暗いだけの闇もあれば、そこにエイダンがいる時は星明かりが、リックがやってくる時には月明かりが見える時もあれば、マフィアが暗躍するガス灯が見える時もあります。
音も、虫の音、フクロウの声、車のスキール音が聞こえてくる気がします。
それらを支えている文章は軽くないですが、それは重苦しくもなく、軽薄な印象を受けないくらいのバランスです。主人公のエイダンとリックの存在を引き立てるには、この文体でなければならないと思う程、そのバランスは文字通りの土台。
5万字の中編、少し夜更かししたい時に丁度いいです。