第26話

「うぅ……、め、目が回るよ……」



 絶叫マシーンから降りてきた結衣はふらふらとなっていたので、思わず俺が肩を貸していた。



「大丈夫か?」

「う、うん……、す、すこし休めば……」

「そうか……」



 さすがに顔色が青い結衣をそのまま一人にするわけにはいかないな。



「それじゃあ俺が結衣に付いているから相場たちは二人で遊んできてくれ。適当なところで合流してくれたら良いから――」

「ほ、本当に大丈夫? 何だったら私たちも――」

「有紗ちゃんは遊んできて。せっかく来たんだから……」

「そ、そう?」

「あぁ、それに結衣が絶叫マシーンに乗れないのがよくわかったからそういうやつで乗りたいのがあったら先に回ってきてくれ」

「わかったよ。それじゃあ結衣ちゃんと三島には悪いけど、ちょっと行ってくるね。相場も行くよ」

「お、俺もかよ……」

「もちろんよ。せっかく二人きりにしてあげられるんだから邪魔しないで」

「そ、それもそうだな……」



 俺たちに気を遣った雰囲気を出しながらさりげなく相場たちも二人きりにできた。

 もしかして、結衣はこれを狙っていた――。



「うぅ……、頭がふらふらするよー……」



 偶然の産物か……。

 俺は結衣の背中をさすりながら相場たちを見送る。



「ごめんね、卓人くん……。私のせいで――」

「いや、大丈夫だ。それに結衣と二人きりになれるなら――」

「うん、卓人くんは一緒に帰るときもそう言っていたもんね」



 結衣がようやく笑みを浮かべてくれる。

 まだあまり元気そうとは言えないが――。



「とりあえず結衣はすこし休んでいてくれ。何か飲み物でも飲むか?」

「そうだね……。それなら水を――」

「わかったよ、買ってくる」



 結衣の体調が良くなるならと俺は急いで自販機に行き水を買ってくる。

 そして、すぐに戻ってきて結衣に手渡す。



「お待たせ……」

「あ、ありがとう。でも、卓人くん、わざわざ走ってきてくれたの?」

「あ、あぁ……」



 さすがに急ぎすぎたみたいですこしだけ息が上がる。

 そんな俺を見て結衣はすこし心配をしていた。



「そ、その、卓人くん。この水、飲む?」

「いや、それは結衣が飲んでくれ」

「うん……」



 不安そうに聞いてくるが、なんとか自分で飲んでくれる。

 それを見て俺はホッとすると結衣がすこし飲んだ後に水を差しだしてくる。



「私はもう大丈夫だから卓人くんも飲んで良いよ」

「いや、俺は……」



 拒もうとするものの結衣は差しだしたまま動こうとしない。

 仕方なく俺はそれを受け取る。


 そして、そのまま口をつけて水を飲んでいく。


 すこしだけ飲んだ後、再び結衣に水を返す。



「もう大丈夫なの?」

「あぁ、ありがとう……」



 でも、よく考えるとこれって間接キスになるんだよな?

 そう考えると恥ずかしくなってきた。


 俺が顔を染めていることに気づいた様子はなく、結衣はジッと飲み口の部分を眺めていた。

 何かを考えている様子で……、そして。


 顔を真っ赤にしながら飲み口から水を飲む。



「間接キス……だね」



 恥ずかしそうに呟く結衣。



「気づいていたのか?」

「さすがにわかるよ……。でも、何だか嬉しいね……」



 恥ずかしそうに微笑みを浮かべる結衣。

 それを見ていると俺の方も嬉しくなってくる。



「それよりも有紗ちゃん達、楽しくやってるかな?」

「どうだろうな。どちらかと言えば喧嘩の方が多い二人だもんな。何かきっかけがないと厳しいかもしれないが――」

「そうだ、せっかくだから二人を探して後をつけてみない?」



 結衣がいたずらを思いついた子どものような表情をする。



「もう体調は大丈夫そうなのか?」

「うん、絶叫マシーンを乗らなかったら大丈夫だから」

「そうか、それならすこし探しに行って見るか」

「うんっ!」



 結衣と手を繋いで二人で相場たちがどこにいるのかを探し始めた。

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