第3話

 顔を真っ赤にした柏木とニヤつく佐倉。その二人と一緒に学校へ向かって歩いていく。



「それにしてもどうしてそんなに距離を開けてるの?」

「えっ……?」



 ふと佐倉が告げてくると柏木が不思議そうに声を漏らしていた。



「二人は恋人なんだよね? 恋人同士なら手を繋いで登校するものじゃないの?」



 当然のように言ってくる佐倉に俺は心の中でグッドポーズをしていた。

 まさか佐倉の方から援護射撃が来るとは思わなかった。

 すると柏木が恥ずかしそうに手をバタつかせながら答える。



「そ、そんな、まだ付き合って数日なんだよ……。さ、流石に早いよ……」

「そんなことないよ。ほらっ、もっとくっついて!」



 佐倉が柏木を俺の方へと押してくる。

 そして、ちょっとでも動いたら肩が触れ合いそうなほど、近くまで寄せたら満足そうに頷いていた。



「やっぱり、恋人同士なんだからこのくらい近付かないとね。本当なら腕組みくらいさせたいところだけど――」

「さ、さすがにそこまでは無理だよー」



 柏木が恥ずかしそうに答えるととりあえず佐倉は満足そうに離れていく。

 すると登校していく他の人たちから微笑ましい目つきで見られていく。


 そのことに耐えられなくなった柏木は顔を真っ赤にしてすぐに一歩離れていた。



「い、今はこれで……」



 恥ずかしそうに俯きながらつぶやいていた。

 それを見て佐倉はため息を吐いてきたが、俺としては今までよりも近くに寄れたことで少しだけ嬉しい気持ちになっていた。


 そして、柏木のゆっくりとした歩くペースに合わせながら俺たちは学校へ向かって歩いていった。



 ◇



 教室に着くと柏木は小さく頭を下げて、自分の席へと戻っていく。

 それを見て俺も自分の席へと戻る。


 するとすぐに相馬がニヤつきながら近づいてくる。



「うまくいったんだな」

「あぁ、相馬のおかげだよ。ありがとな」

「……気にするな。それで一緒に登下校した感想はどうだったんだ?」

「ようやく少し進展する……かもな」

「おっ、ということはもう手を繋ぐくらいはしたんだな……」

「いや、ただ一緒に帰っただけだぞ?」

「……はっ?」



 相馬が思わず聞き返してくる。



「いやいや、カップルが一緒に帰るってことは手を繋いで帰るだろ?」

「……そんなことないぞ」

「――まぁ、そうか。今まで何もなかったんだもんな。いきなり手を繋ぐのも難易度が高いのか……」

「そういうことだ。まぁ、一歩ずつ進んでいくよ」

「頑張れよ……。できるだけの応援はするからな」



 相馬は手をひらひらと出して自分の席へと戻っていった。

 するとすぐに担当がやってきて授業が始まった。



 ◇



 昼休みになり、柏木が食事を取り終えた後に一人でいたので、今朝のことを相談しに話しにいく。



「柏木、少し良いか?」

「み、三島くん? うん、大丈夫だよ」



 驚きの顔をする柏木。


 思えば昼休みに教室の中で声をかけることはなかったな……。


 ただ、柏木はすぐに頷いてくれる。



「それでどうしたの?」

「いや、朝に話してたお返しのやつを相談しようかと思ってな」

「そうだね。何が良いかな?」



 柏木は首を傾げて悩んでいた。



「七日でどこか出かける……のは良いんだよな? それなら十四日後も同じようにどこか出かけるとか?」

「そ、それならなんとか……」

「あらっ、面白いことを話してるわね」



 柏木と相談し合っていると佐倉が近づいてくる。



「あっ、有紗ちゃん。そうだ、有紗ちゃんに相談しても良いかな?」



 柏木がまるで名案と言わんばかりに聞いてくる。


 ただ、俺はどこか不安に思えていた。

 何かとんでもない提案をされるような気がした。


 でも、柏木の表情を見てると断ることはできなかった。



「えっ、一日迎えにきてもらったらお礼に何かするの?」

「うん、数日おきに何かお返しをしようと考えてるんだけど、どんなことがいいかなと思って……」

「恋人らしいこと……だよね?」

「うん……」

「それなら一日おきにセック――」

「ちょ、ちょっと待て! 突然何をいうんだ!」



 突然変なことを言おうとする佐倉を止める。

 柏木も佐倉が何を言おうとしていたのかわかって、顔を紅潮させて必死に首を横に振っていた。

 ただ、佐倉は一人何がダメだったのかわからずに困惑していた。



「えーっ、だって、恋人同士がすることでしょ? それならもうセック――」

「な、何度も言わなくてもわかる。ただ、それは日にち的におかしいだろう?」

「……そんなことないと思うんだけどな。――わかったわ。それじゃあ一日おきにキスはどうかしら?」



 佐倉が告げるが柏木は必死に首を横に振っていた。


 まぁ柏木が断る理由もよくわかる。手を繋ぐのもまだ早いという彼女だ。

 いきなりそこまでできるはずがない



「い、いくらなんでも早すぎるよ!」

「それじゃあどのくらい先だといいの?」

「それは……」



 俺たちの視線が柏木に集まる。

 すると彼女が慌てた様子で俯きながら答える。



「そ、その……、百年後くらいなら……」



 流石にそれは長すぎるだろ!

 と言いたくなったが、佐倉は別の考えに至ったようだ。



「つまり、百年後までずっと三島と一緒にいるのね。ラブラブね」



 嬉しそうに笑みを浮かべる佐倉。


 たしかに言い換えたら百年までずっと一緒にいるってことだもんな……。


 それを聞いた柏木は顔を真っ赤にして、目を回しながら必死に言い訳をしていた。



「そ、その、それは、私も初恋だったし……その……でも恥ずかしいから今は勇気が出ないというか……。三島くんとはずっと一緒にいたいと思ってるけど……」

「うんうん、わかってるよ。それなら少しずつ遠くに出かけるっていうのはどうかな。五日一緒に登校できたら……」



 改めて佐倉が新しい提案をしてくれる。

 なぜ五日おき……とも思ったが、よく考えるとそうすれば毎週、週末に出かけることになるのか。


 柏木もそれなら嫌がっている様子はない。

 というか、ようやくまともな提案が来たと安心してホッとしている様子だった。


 もしかして、最初にやたら強調していたのは、そうすることで毎週出かけるというこの案を承諾させるため?


 佐倉が俺にだけ見えるようにニヤリと笑みを見せてくる。


 やっぱりそうだったのか……。



「そうだね、そのくらいなら大丈夫……。三島くんはどうかな?」

「あぁ、俺もいいと思うよ。当面はこのくらいで慣らしていくのでいいだろうから」

「うん、それじゃあどこに行くかはまた帰りに決めようね。有紗ちゃん、ありがとう」

「このくらいいいよ。だから早く二人の仲を進展させてね」



 佐倉が自分の席に戻っていく。

 それと同時に昼休みが終わるチャイムが鳴る。


 俺も自分の席へと戻ろうとすると柏木が小さく手を振って笑みを浮かべてくれる。

 それに答えるように小さく手を振り返すと柏木が嬉しそうにはにかんでくれた。

 ただ、それだけで俺は昼の授業も頑張ろうという気持ちになれた。

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