第4話

 何事もなく昼の授業が終わる。

 そこで俺は当然のように柏木の席へと向かう。



「それじゃあ一緒に帰るか?」

「うんっ」



 当然のように頷いてくれる。

 するとそんな俺たちを見て、相馬が声をかけてくる。



「もう当たり前のように登下校できるようになったんだな……」

「今日は相談事もあるからな」



 俺の答えに柏木が何度も頷いて同意してくれる。



「もしかして、どこか二人で出かけるのか?」

「いや、それはまた今度だな。俺が柏木の家まで迎えに行った回数に応じて出かけるんだ」

「……なんだそのログインボーナスみたいな制度は?」

「どうしてもいきなりは覚悟があるみたいだからな」

「ご、ごめんね……」



 柏木が申し訳なさそうに謝ってくる。



「いや、柏木は悪くないよ。それに毎日一緒に来るわけだから週末に出かける約束をしてるのと変わらないぞ」

「うん……ありがとう……」



 俺が視線を合わせると柏木が小さく頷く。

 するとそれを見ていた相馬がため息を吐いていた。



「お前達を見てるだけで口の中が甘くなってくるよ。まぁ順調に進んでるみたいでよかったよ……。それじゃあ俺は帰るな」

「あぁ、気にしてくれてありがとな」

「……また明日」



 小さく手を振る柏木。



「それじゃあ俺たちも帰るか?」

「うんっ」



 柏木が立ち上がると一緒に帰っていく。



 ◇



 柏木と二人で並んで帰っていく。

 まだ二日目ということもあり、お互いの距離は少し離れている。


 それでも昨日のぎこちなさは随分と緩和されていた。



「それで初めて出掛ける場所はどこがいいんだろうな」

「そ、その……、たくさん人がいるところはちょっと……。まだ、不安で……」

「それなら近くの公園とかの方がいいのか?」

「うん、それならなんとか……」



 小さく頷く柏木。


 子供が遊ぶような遊具の他にベンチとちょっとした散歩コースしかない公園だが、それでも柏木と行けば楽しいだろうな。


 今から少しだけ胸躍る気持ちになる。



「それなら次の土曜は近くの松崎公園で集合だな」

「うんっ」

「でも、とりあえずまずは一緒に登校し続けるところからだな」



 そして、柏木を家まで送っていくと俺もきた道を戻り、家に帰っていった。



 ◇



 翌日、柏木と一緒に登校するとすぐに佐倉が話しかけてくる。



「結衣ちゃん、遊びに行く場所、決まったの?」

「うん、松崎公園に行くことになったよ」



 笑顔を見せながら答える柏木に佐倉は心配そうに答える。



「大丈夫? いきなり公園とかに行って……。まずは部屋とかホテルとかの方が……」

「また変なことを柏木に教えようとしてるな……。公園にはただ遊びに行くだけだ」



 佐倉に余計なことを吹き込まれる前に話を切る。



「まぁ、定番といえば定番ね。ただ、公園デートって意外と難易度高いのよ。大丈夫?」

「そうなのか?」

「えぇ、遊具はとてもじゃないけど、遊べるようなものはないし、散歩するといっても良くて数十分よ。あとはベンチで喋ってるの?」



 改めて聞くと大変そうにも思えてくる。



「でも、そうやってゆっくり話すことも今までなかったからなぁ」

「……そういえば、今まで一緒に帰ることもなかったのね。それなら確かにいいかもしれないわね。お互いのことをよく知るチャンスにもなるし……。それに手作りの料理を食べるチャンスだもんね」

「……へっ?」



 思わず声を漏らす柏木。



「えっ、公園に行くって言ったら昼はお弁当に決まってるでしょ? 結衣ちゃんの力の見せ所だね」

「そ、そんな……、私、お弁当なんて――」



 不安そうな表情を浮かべる柏木。



「そ、そうだ。有紗ちゃん、お弁当の作り方を教えて!」



 柏木が有紗の手を掴みながらお願いする。



「そうね……、私も毎日教えられるわけじゃないけど、いいわよ。でも、そうなると三島と一緒に帰れなくなるけどいいの?」

「うっ……、三島くんとも一緒に帰りたいけど……。で、でも――」



 必死に迷っている様子だった。

 まぁ俺のために頑張ろうとしてくれてるんだもんな。


 一緒に帰れないのは残念だけど、俺の方から声をかけてあげる。



「俺のことは気にしなくてもいいよ。朝は一緒に来るのだし、それに公園に行くまでの間だからな。そのくらい我慢できるよ」

「三島くん……、ありがとう……」



 嬉しそうに目を潤ませてくる柏木。

 大げさすぎるようにも思えるが彼女が喜んでくれたのだからそれでいいだろう。



 ◇

(柏木)



「有紗ちゃん、今日はいきなりお願いしてごめんね」

「それは全然構わないわよ。三島に美味しいお弁当を食べてもらうためなんでしょ?」

「……うん」



 柏木は少し照れながら頷く。

 すると佐倉はため息混じりに聞く。



「どうしてそこまで三島がいいの? 前にも一度聞いたけど、なんだか信じられなくてね……」

「うん……、三島くんは前に私が傘を忘れて困っていた時に持っていた傘を貸してくれて、自分は濡れて帰ったり、何か無くして困っているときに一緒に探してくれたり……。とっても優しいの……」



 恥ずかしそうに柏木は頬に手を当てながら答える。



「しかも、次の日にお礼を言ったら『そんなことあったか?』と平然と答えてくれるの。とっても優しいの……。だからまさか三島くんから告白されるなんて思ってなくて……。告白された日は夢じゃないかなって思ってたの。次の日からもいつもと変わらなかったし。だから私は今、とっても嬉しいの」

「そうね、それなら三島のためにも美味しいお弁当を作らないといけないね」

「うんっ!」



 笑顔を見せる柏木。

 そこでふと佐倉は思ったことを聞く。



「そういえば結衣ちゃんはどのくらい料理ができるの?」

「えっと……、その……」




 乾いた笑みを浮かべる柏木を見て、嫌な予感がよぎる。



「もしかして……全くできない?」

「……うん、キッチンに立ったこともないの」

「はぁ……、わかったわ。とりあえず最低限食べられるものを作れるように目指しましょう」

「うん、ごめんね、有紗ちゃん……」

「いいわよ、結衣ちゃんと三島の仲のためだもんね。私が出来ることなら手を貸すわよ」

「ありがとう……」

「お礼を言うなら早くキスくらいしなさいよ」

「……そ、それはまだ恥ずかしいよ」



 もぞもぞと手を弄ぶ柏木。

 そんな彼女を見て佐倉はため息を吐いていた。

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