第12話

 夜、スマホを握りしめて柏木の連絡先を眺めていた。

 そして、たまに頬が緩み、にやけてしまう。



「ついに俺も柏木の電話番号が……」



 何度も何度も見返してしまう。

 すると突然スマホが鳴り出す。



「わっと……」



 あまりに急なことだったので、思わずスマホを手放してしまいそうになる。

 ただ、音がすぐ悩んだことも幸いして、なんとかもう一度掴むことができた。



「一体誰だ?」



 スマホの画面を見るとそこには柏木の文字が浮かんでいた。

 彼女からメッセージが届いたようだった。



「か、か、柏木から!? い、一体どうしたんだ?」



 息をのんで緊張しながらメッセージを開く。



『こ』



 そこにはたった一文字だけ書かれていた。



「えっ、壊れた!?」



 慌ててスマホを振ってみたり、再読み込みをしてみたり……と触ってみる。

 しかし、色々スマホを触ってみてもメッセージの内容が変わらない。


 一体どういうことなんだろうか?

 もしかして、何か文字が隠されている?


 首を傾げたり、スマホを逆さまにしたりしてみるがメッセージの内容がわからなかった。

 仕方がなく、柏木に内容を聞こうとすると再びメッセージが届く。

 それを開いてみるとやたら長めの文が現れる。



『ご、ごめんね、三島くん。ほ、本当は「こんばんは」って打とうとしたんだけど、本当に送って良いか迷っていたらうっかり先に送っちゃって……。そのその、……こんばんは』



 さきほどの一文字しかなかったメッセージはただの打ち間違いだったようだ。

 メッセージの本文を見るだけで柏木が慌てて動揺している様が目に浮かぶ。


 その様子に苦笑をしながら俺は『全然気にしてないよ』と送り返しておいた。


 するとしばらくするとまたメッセージが返ってくる。



『もう体調は大丈夫?』

『昼間よりだいぶ楽になったよ。柏木もお見舞いに来てくれてありがとう』

『それならよかったよ……』



 柏木が安堵してくれる。



『これなら明日は学校に行けそうだ』

『無理はしないでね。治り始めが一番大事だから……』

『あぁ、わかってるよ』



 他愛のない話題を繰り返していく。

 いつもならすぐに面倒になるのだが、なぜか柏木相手だとメールが返ってくるだけで嬉しく思えてしまう。

 できればこのやりとりが永遠に続けば……そう思えてくるのだが。



『そろそろ良い時間だね。三島くんは早く寝ようね』



 柏木から寝るように勧められる。

 風邪をひいているのだから当然と言えば当然だろう。



『そうだな。おやすみ』

『おやすみなさい』



 柏木とのメールのやりとりが終わってしまった。

 どこかほっこりとした気分とすこしもの寂しい気分に襲われながら俺は布団を被る。


 明日こそは風邪を治して学校に行かないとな……。


 そんな決意を込めながら眠ろうと目を閉じる。

 ただ、先ほどまで柏木とやりとりをしていたからか、鼓動が早くなっていてとても寝られるような気がしなかった。


 何度もベッドの中で寝返りを打っていた。


 それでも眠れないので仕方なくもう一度スマホを開き、先ほどの柏木とのやりとりを眺める。


 確かにそこにはさっきのやりとりが残されている。

 夢じゃなかったんだ……。


 こうして、柏木と連絡を取り合えるなんて信じられない。

 付き合い始めて数日間は全く進捗がなかったのに、気がつくと連絡先を交換して、手を繋いで、一緒に肩を寄せ合って眠ったり、デートに出かけたり……。


 思った以上に恋人らしくなってきたかもしれない。

 あと、しないといけないことは――。



「キス……か」



 やはり恋人同士ならここは避けて通れない道だろう。

 柏木も恥ずかしがりな部分はあるけど、しっかりとした雰囲気になれば――。

 キスをしやすいシチュエーション……。一体どんな場面だろう?


 慣れないことを考えていると頭が痛くなってくる。

 どうやらまだ完全な本調子じゃないようだった。


 ゆっくりと瞼が重くなっていって、いつの間にか俺は眠りについてしまった。

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