第13話

 結局俺の風邪が完全に治ったのは数日経ってからだった。

 その間、柏木は毎日お見舞いに来てくれて逆に心配になってしまった。


「柏木、風邪はうつってないよな?」

「大丈夫だよ。しっかりうがいしてるから」



 連日来てくれる柏木を心配して声をかけるが彼女はただ微笑んでくれるだけだった。



「それにしっかり見張りに来ないと三島くん、またベッドから出ようとするでしょ!」



 ムッとした表情を見せる。

 これは俺が風邪をひいて三日目のことだった。

 まだ微熱が出てたものの体調の方はすっかり良くなっていたので、柏木を迎えに行ったのだが――。



「三島くん……、まだしんどそうだよ?」



 その一声と共に額に頭をつけられて、微熱があることがバレてしまった。


 その前例があるせいで柏木が毎日来てくれるようになったのは俺に取っては良いことだったのだが、何だか彼女には申し訳ないことをした気分になってくる。



「それよりもそろそろ風邪は大丈夫そうだね。明日からは学校に行けるんじゃないかな?」

「そうだな。ただ、明日は金曜ですぐ休みだけどな……」

「病み上がりならそのくらいの方が良いと思うよ。無理したらまたひいてしまうからね」



 柏木のいうことも一理あった。

 だからこそ俺は素直に頷く。



「まぁそうだな。それじゃあ明日からはまた迎えに行くからな」

「い、いえ、まだ三島くんはまだ病み上がりだから私が……その……来るね」



 柏木が恥ずかしそうにしながらも提案してくれる。

 彼女がここまで積極的に話してくれるのは初めてのことかもしれない。

 それは嬉しい進歩かも。



「わかったよ。それじゃあ明日だけお願いしても良いか? ただ、毎日は危ないから来週からは俺が行くから――」

「うんっ」



 柏木が笑顔で大きく頷く。





 翌日、ここ最近と同じように朝早くから起きた俺はいつものように朝食を食べる。

 しかし、朝食を食べ終えると俺はリビングでくつろいで柏木が来るのを待っていた。

 すると、母さんが不思議そうに聞いてくる。



「どうしたの? もう出て行くんじゃないの?」

「いや、今日はそんなに急いでないよ」

「そう……?」



 不思議そうに首を傾げていたものの朝の忙しい時間にいつまでも俺に構っている余裕はないようでキッチン側でバタバタと慌てていた。



「あれっ、お兄ちゃん? まだいるの?」



 今度は起きてきたばかりの美咲が俺をみて驚いていた。



「まぁ今日は急いで出かけないで良いからな」

「もしかして、お兄ちゃん、彼女に振られた?」

「そんなわけあるか!」

「だよね……。お兄ちゃんと彼女さん、ラブラブだったもんね」



 ニヤニヤと微笑みながら美咲は話しかけてくる。

 すると洗い物が終わった母さんが手を拭きながら興味深そうに聞いてくる。



「何々、その話もう少し詳しく教えてくれないかしら?」

「実はね、お兄ちゃん風邪をひいてる間ね――」



 美咲が母さんに耳当てしながらこそこそと話し始めた瞬間にインターホンの音が鳴る。



「もう、良いところなのに――」



 母さんがブツブツ言いながら外に出ていく。

 それを聞いて俺は余計なことを言われずに助かったと思った。


 それにしてもこんな時間から来客なんて珍しいな。

 ……。

 っ!?


 のんびりと休んでいたのだが、こんな時間の来客……と考えたら、その相手は柏木じゃないだろうか?


 その考えに至った瞬間に俺は慌てて玄関へと向かっていった。


 すると玄関先では母さんが柏木と一緒に楽しげに話をしていた。



「そう、わざわざあの子を迎えに来てくれたのね……」

「は、はい、その……、いつも迎えに来て貰っていたので……」

「ここ最近やたら早く出かけると思ったらそういうことだったのね」



 ニヤニヤと微笑む母さんと慌てふためく柏木。



「もう、母さんは。柏木が困っているだろう。それじゃあ行くか!」

「はいっ」



 柏木が安堵の表情を浮かべながら頷く。



「あらっ、もう行っちゃうの? ゆっくりお茶でも飲んでいけば良いのに……」

「学校があるだろう? それに母さんも仕事だろう?」

「わかったわよ。それじゃあ帰ってきたらゆっくり話を聞かせて貰うからね。柏木さんもうちの子とこれからも仲良くしてね」

「はい……」

「か、母さん!!」



 真っ赤な表情を見せてくる柏木。

 それをみて母さんは手をひらひらと振った後に部屋の中へと入っていった。



「済まんな、朝早くから……」

「ううん、私が来たかっただけだから……」

「それじゃあ行くか」

「コクッ……」



 柏木が頷いたのをみた後に俺は彼女と一緒に学校へと向かっていった。

 当たり前のようにその手を握りながら――。

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