第11話
再び美咲が戻ってくる。
今度は何を持ってきたのだろうか?
「あぁ、空いてるよ」
ベッドに寝転がりながら返事をするとゆっくり扉が開かれる。
そして、顔を覗かせてきたのは柏木だった。
「えっ、か、柏木!?」
思わず俺は慌てて体を起こす。
すると柏木が慌てて注意をしてくる。
「だ、ダメですよ! 三島くんはそのまま寝ててください!」
そのままベッドへと戻されてしまう。
「いや、でもせっかく柏木が来てくれたんだから……」
「大丈夫です。私は一人で。それよりもこれ、お見舞いの品……あっ」
買ってきた果物を渡そうとして、俺の手にある皿へと視線を向ける柏木。
少し残念そうにそばにある机の上にそれを置く。
「そ、そうですよね……。風邪の時は果物……、食べますよね」
「いや、とってもありがたいよ。ありがとう……」
「それなら良かったですけど……」
不安そうな表情を浮かべる柏木。
俺の側にちょこんと座るとそのままじっとしていた。
そして、特に何も話さずに無言のまま時間が過ぎていく……。
それに耐えきれずに俺は言葉を発する。
「そういえば今日は迎えに行かずに悪かったな……」
「い、いえ、風邪なら仕方ないですから……」
それだけいうと再び無言になる。
こうやって二人、俺の部屋にいるなんて信じられないな……。
柏木もジッとしているのは居心地が悪いようでつい部屋の中を見回していた。
柏木が来るとわかってたら掃除をしておいたのに……。
「そ、その……、今日は掃除をしてなくて……、汚い部屋で悪いな……」
「あっ、いえ、そういうわけでは……。こうして男の子の部屋に入るのは初めてで……」
顔を赤くして、慌てて顔を俯ける柏木。
そうか……、柏木はこうして部屋に入るのは初めてなのか……。
俺自身もなんだか恥ずかしくなって顔が赤くなる。
「えっと……、もしかして熱が上がって……?」
俺が顔を赤くしているのを見て柏木が少し慌て出す。
「い、いや、そんなことないぞ……」
今は恥ずかしくなって顔が赤くなっているだけなのだが、柏木は心配してゆっくり俺に近づいてくる。
「じっとしていて下さいね……」
そして、ゆっくり俺の顔に自分の顔を近づけてくる。
柏木も恥ずかしいようでその顔は真っ赤に染まり、緊張している様子だった。
も、もしかして……。
まさか俺の部屋で……?
なんで突然……という疑問は浮かぶものの目の前で起こっている現実が全てだった。
俺はギュッと目を閉じて覚悟を決める。
すると、ピタッと額に何か当たるのを感じる。
「そ、その……、柏木?」
「しっ……、じっとしていてください。今熱を見てますから……」
まぁそうだよな……。うん。いきなりキスをしてくるのかと焦ったが、柏木に限ってそんな突然してくるはずがないだろうし……。
ただ、目を開けてみるとすぐ側に柏木の顔があり、思わず顔が赤くなってしまう。
「あれっ、少し熱が上がってきて……。っ!?」
少し心配そうな声を上げる柏木と目が合う。
その瞬間に柏木の顔が一瞬で沸騰しそうなほど真っ赤に染まり上がった。
「あっ、わ、私……、そ、その……」
慌てふためく柏木。
すぐに俺から離れて、手をバタバタさせてた。
そして、再び先ほどと同じようにちょこんと座って、ギュッとスカートを握りしめて恥ずかしさをこらえているようだった。
「ご、ごめんね……。急にそんなことして……」
「い、いや、だ、大丈夫だ……」
「ただ、やっぱり少し熱があるみたいだね……。もう少し休んだ方がいいかも……」
「そ、そうだな……」
「そ、それじゃあ私はそろそろ帰るね。あまり長居しても三島くんの体調が良くならないだろうし……」
慌てて出ていこうとする柏木。
そこで俺は慌てて柏木を止める。
「そ、そうだ。柏木、ちょっといいか……」
「ど、どうしたの?」
「今日、本当は柏木に連絡しようとしたんだけど、その、まだ連絡先を聞いてなくて……」
「あっ……、そ、そうだね。さすがにそれはおかしいよね。その……こ、恋人同士なのに……」
柏木は自分のスマホを取り出して、連絡先を交換する。
「こ、これでいつでも連絡ができるね……」
「あぁ、そうだな……」
「そ、それじゃあ私は帰りますね。三島くんも早く良くなってね」
それだけいうと柏木は慌てて部屋を出て行ってしまった。
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