第8話

「んっ……、あれっ、いつの間に眠ってしまったんだ?」



 ゆっくり目を開くと俺は困惑しながら周りを見る。

 どのくらい時間が経ったのかはわからないが、まだ周りは明るいのでそこまで時間は経っていないのだろう。


 隣には柏木がまだ気持ち良さそうにスヤスヤと眠っていた。

 流石にまだ肩を乗せているので俺自身も動くことができない。


 そして、俺の左手に何か柔らかい感触を感じる。



「なんだこれ?」



 思わずそれを握ってしまう。



 ぷにっ……。



 その感触に一瞬頭が真っ白になる。


 お、落ち着け……。そ、そんなことないはず。

 俺に限ってそんなところを触るはずが……。


 ゆっくりと手に視線を向ける。


 すると俺が握っていたのは柏木の右手だった。


 ……まぁ、そうだよな。冷静に考えると全然感触も違うわけだし……。


 少しだけホッとする。

 ただ、改めて俺が柏木と手を繋いでいることに気づいて顔が赤くなっていく。



「ど、どうして、俺と柏木が!? い、いや、それよりもは、早く離さないと……」



 慌てて手を離そうとすると柏木が目を覚ます。

 眠たそうに空いている手で目を擦りながら俺の顔を見てくる。


 その後に顔を真っ赤にしている俺を見て不思議そうに俺の視線の先……、繋いでいる手を見てくる。



「あっ……」



 一瞬で柏木の顔は赤くなる。



「い、いや、これは俺が握ったわけじゃなくて……、その……、ね、眠っているときにいつの間にか……」



 慌てて言い訳をする俺。

 ただ、それが聞こえていないのか柏木は顔を真っ赤に染め上げてぷるぷると震えていた。



「えっと……、そ、その……、三島くんは私とその……、手を握りたかったの?」



 恥ずかしそうに小さな声で尋ねてくる。

 俺としてはもちろん柏木と恋人らしいことはしたかった。


 だからこそ柏木に対して小さく頷いていた。



「そう……なんだ……。うん、それなら……しばらくはこのままで……」



 顔をこれ以上ないくらいに真っ赤にして顔を俯けていた。

 でも、掴んだ手は離さずにそのまま動きが固まっていた。



「あ、あぁ……」



 俺の方もしばらく何も話さずにまっすぐ前を見て固まっていた。


 するとそんな俺たちを見て周りの人たちがくすくすと微笑んでいた。


 それを見て俺たちは更に顔を赤くしていた。



「さ、さすがにここでジッとしているのも恥ずかしいな……」

「ど、どうしよう?」

「そうだな……。このまま少し公園の中を散歩でもするか?」

「そう……だね」



 柏木も小さく頷くと二人でベンチから立ち上がる。


 そして、手を繋いだまま公園をのんびりと歩いて回った。


 たまに柏木の顔を見ると彼女の方も俺を見て視線が合ってしまう。



「あっ……」



 思わず声を漏らす柏木はすぐに顔をそらしてしまう。

 でも、考え直してもう一度俺の方を振り向くとにっこりとはにかんでくる。



「ちょっと恥ずかしいけど、でも、なんかうれしいね……」



 その笑顔を見て俺自身もドキッとしてしまう。



「そうだな……」



 ただ頷くことしかできなかった。

 それに一度見て回った場所なのだが、手を繋いで歩くとまた違った気分になる。


 照れくさくむず痒い気持ちなのだが、それでいてどこか幸せでずっとこうしていたいように思えてくる。


 そして、気がつくと夕方になっていた。



「意外と時間が経つのは早いな……」

「そうだね……。そろそろ帰る?」

「そうだな。送っていくよ」

「わざわざ悪いよ……」

「そんなことないよ。それに、もうしばらくこうしていたいから……」

「……うん」



 顔を染めた柏木が頷いてくれる。

 そして、いつものように柏木を家へと送っていった。





「今日はありがとう……」



 柏木を家まで送っていくと彼女は俺の方に振り向いて言ってくる。



「こっちこそお弁当まで作って貰ってありがとう。それじゃあまた明後日……だな」

「……うん」



 返事をしてくれたものの掴んだ手はなかなか離すことができなかった。

 これを離してしまったら次、手をつなげるのがいつになるかわからなくなってしまう。

 そう思うと余計手を離しづらくなってしまう。


 その気持ちは柏木も同じなようで家の前にいるもののなかなか中に入ろうとはしなかった。

 すると、柏木の家の扉が開く。



「あれっ、お姉ちゃん? もう帰ってきてたの? っと、そっちの人は……お姉ちゃんの彼氏だね」



 家の中から柏木とそっくりの顔をした少女が顔を覗かせる。

 ただ、俺の顔を見た瞬間にニヤリと微笑んだ。


 その瞬間に俺たちを繋いでいた手は簡単に離れてしまう。



「そ、そ……そんなこと……あるけど」



 なんとか必死に否定しようとしたものの俺の前ということもあって慌てふためいて、結果小声で頷いていた。



「そっか、後から詳しく話聞かせてね」



 それだけ言うと柏木の妹は家へと入っていった。



「あ、あはは……、ごめんね、三島くん」

「いや、俺こそ逆に迷惑をかけてしまったか?」

「ううん、そ、そんなことないよ。私はその……嬉しかったから……」



 柏木が微笑みを見せた後、家の方へと走っていく。



「そ、それじゃあ、また明後日」

「あ、あぁ……、また明後日」



 小さく手を振るとそのまま家へと入っていった。

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