第9話

 幸せな気持ちで家に帰ってくる。そして、その日はそのまま寝てしまった。


 そして、次の月曜日。俺はなぜか体が妙に重かった。



「あれっ、体が動かない……」



 布団の中、必死に起き上がろうとしたがその場から起き上がることができなかった。


 頭が朦朧とする……。

 それにそこまで動いた訳ではないのだが、妙に体の節々が痛い。


 全く体が起こせる気がしない。



「……柏木を迎えに行かないと」



 ただ、そんな状態で無理やり起き上がり、なんとかリビングへとやってくる。

 すると、すでに母さんが朝食の準備をしていた。



「おはよう、卓人。もうご飯の準備は出来てるわよ……」



 テーブルにはすでに俺の分の朝食が置かれている。



「それにしても卓人が毎朝早起きをしてくれるなんてね。本当にありがたいよ」



 母さんはどこか機嫌良さそうに話しかけてくる。

 ただすぐに俺の様子がおかしいことに気づいていた。



「卓人……、なんだか顔色が悪いわよ?」

「大丈夫……、それよりも今日は朝飯、いらないよ……」



 それだけ伝えて家を出ようとするが、すぐに母さんに止められてしまう。



「何をバカなこと言ってるんだい! 早く熱を測るわよ」



 そういうとすぐに体温計を出してくる。



「熱はないよ……」

「何言ってるんだい。どう見てもあるよ!」



 母さんは俺の額に手を当てて言ってくる。

 そして、脇に体温計を指してくる。



「自分でできるよ……」

「……とか言って誤魔化す気でしょ? あんたの考えそうなことくらいわかるんだからね」



 本当にエスパーかと思うくらい俺の考えを読まれてしまう。

 仕方がなく大人しく体温計が鳴るのを待っていた。


 もちろん平熱……。悪くても微熱程度なら学校に行くことができるだろう……。

 そう思っていたのだが……。



「39.6℃。完全に風邪ね。今日はしっかり休んでなさい」

「そ、そんな……」



 俺が迎えに行かないと柏木がずっと家の前で待っているかもしれない。



「だ、大丈夫。このくらい平熱……」

「馬鹿言うんじゃないよ! ほらっ、学校には連絡しておくから早く部屋に戻りな。後からおかゆと薬を持っていくからね」



 母さんに無理やり部屋に戻される。

 そして、ベッドの中に入る。


 頭がぼんやりしているせいですぐに眠りに落ちそうだが、なんとか堪えてスマホを取り出す。


 そこから柏木の連絡先を調べていくが、そこで彼女にまだ連絡先を聞いていないことを思い出した。



「な、なんで……。こんなものはまず最初に聞くべきだろう……」



 がっくりと肩を落とす。

 他に誰かいないか……と連絡先を調べていく。

 そこで見つけたのは相場の連絡先だった。


 そういえばあいつ、家の方角は柏木の方向だったな……。

 ……よし。


 早速俺は相場に電話をかけていた。


 …………。

 ……。


 中々電話に出てくれない。

 それもそのはずでまだ朝早い時間帯だった。


 ただ、しばらく鳴らしていると相場が出てくれる。



「はい、相場ですけど電話を」



 電話からは眠そうな相場の声が聞こえてくる。



「朝早くからすまない。相場に頼みたいことがあるんだけど……」

「……どうした?」



 声から相手が俺と判断した相場は緊急の用だと理解し、静聴してくれる。



「すまないが、風邪をひいてしまったな。多分柏木が俺のことを待ってると思うんだ。お前が学校に向かう途中でまだ柏木が待っていたら俺が休むことを伝えてくれないか?」

「そんなことか。お安い御用だ」

「すまんな……。ありがとう……」



 相場に礼をすると電話が切れる。

 これでとりあえず安心だろう。


 そう考えると自然と瞼が重くなってくる……。

 母さんが持ってきてくれたお粥を食べ、薬を飲み終えるとそのまま俺は眠ってしまう。



 ◇



 やはり本格的に風邪をひいていたようだ。

 軽く眠るだけのつもりが、気がつくと時間は既に昼過ぎになっていた。


 それだけぐっすりと寝ていたからか、体は少しだけ軽くなった。


 そして、そろそろ学校が終わる時間だ。

 柏木のことだからないとは思うけど、一応彼氏が風邪をひいた……なら看病に来てくれるかもという期待は持っていた。


 すると、部屋の扉が軽く叩かれ、ゆっくり開いてくる。



「お兄ちゃん、いるー?」



 中に入ってきたのは美咲だった。



「あぁ、いるけど、どうしたんだ?」



 もしかして、だれかお見舞いの人が?

 少し期待をしながら答える。



「これ、お母さんからだよ」



 そういうと美咲は皿に乗せられたリンゴを渡してくる。


 なんだ……、違ったか……。


 少し残念に思いながらその皿を受け取った。

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