第6話
翌朝、つい待ちきれなくなって朝の九時ごろには公園の前まで来てしまった。
どれだけ俺は今日のことを楽しみにしていたんだ?
自分の行動に苦笑すら浮かんでしまう。
ただ公園の前にきて驚いてしまう。
「えっと……、柏木?」
「う、うそ、三島くん?」
まだ待ち合わせの二時間前なのだが、すでに柏木が公園の前で待っていた。
「どうして柏木が……。もしかして待ち合わせの時間を間違えた!?」
「そんなことないよ。ただ、ジッとしていられなくて……。三島くんの方こそまだまだ待ち合わせの時間は先だよね?」
「俺も同じ理由だよ……。初めて出かけると考えるとジッとしていられなくてな……」
「そっか……。うん……」
柏木は嬉しそうに微笑む。
その笑顔を見ると俺も思わず笑みが浮かぶ。
「そういえば、三島くんの私服……みるの初めてかも。すごく似合ってるね」
柏木が服を褒めてくれる。
やっぱり昨日美咲の力を借りてよかったな。
「そうか? ありがとうな。それをいうなら柏木の方も――」
どうにも照れくさくてソワソワしていたので、柏木の服装をじっくり見ていなかった。
慌てて俺は視線を柏木の服へと落とす。
白と青のワンピース姿をした柏木。
その服が柏木にはとてもよく似合っていた。
ただ、うまく口では表現できずに口をパクパクと動かした後に一言呟く。
「柏木の方も……似合っているぞ」
すると彼女は顔を赤く染めて、俯きながら「ありがとうございます」とお礼を言ってきた。
「そ、それよりも少し早いけど、公園の中を見て回る?」
「そ、そうだな……」
そわそわしながら俺たちは隣同士に並び、公園の中を歩いて見て回った。
「なんだかこうやって歩くの、登校してるときみたいだね……」
「そうだな……。でも、今日は特に目的もないからゆっくり歩けるよ」
「うん……、そうだね。それに周りに私たちのことを知ってる人はいないもんね」
なるべくゆっくりとしたペースで歩いていたのだが、やはり一時間もたたずに公園を周り切ってしまった。
俺たちは公園内にあるベンチに腰掛ける。
そして、しばらく沈黙が訪れてしまう。
なるほど、これが佐倉の言っていた難易度が高いということなのだろう。
何か共通の話題はないかと必死に考える。
思いつくのは学校のことだけ……。
むしろ普段の柏木の生活って全く知らないんだな、と思い知らされる。
「三島くん!?どうかしたの」
突然柏木に心配されてしまう。
どうやら険しい表情を浮かべてしまったようだ。
「いや、俺は学校での柏木しか知らないんだな……って」
「そうだね。私も三島くんのことは学校の中でしか知らないよ。でも……だからこそこうやって遊びにきてるんだよね?」
「それもそうだよな。たしかに学校だと柏木の弁当なんて食べられないもんな」
「そ、それはその――。そ、そうだね。いつまでもあと伸ばしにはできないよね。三島くん、少し早いけどお昼ご飯にする?」
柏木と話している間に時間は十一時になっていた。
朝が早かったこともあり、すでに腹は減りだしていた。
「そうだな。柏木が食べられるならもうお昼にしてもいいかもな」
「うん、それじゃあちょっと準備するね」
柏木は鞄の中から少し大きめの弁当箱を取り出す。
それと同時にレジャーシートも取り出していた。
「そ、その……、初めて作ったのであまり上手くできてないかもしれないけど……」
「大丈夫だ。柏木がわざわざ作ってくれたものだから」
「で、では……、どうぞ」
柏木が弁当箱の蓋をあける。
中にはおにぎりと少しだけ焦げた卵焼き、唐揚げとミニトマトが入っている。
そして、柏木がお箸を渡してきてくれる。
「ありがとう。それじゃあいただきます」
「ど、どうぞ……」
何から食べるか迷ったが、やはり一番頑張った感じが出ている卵焼きを口に運ぶ。
ほんのり甘めの卵焼きで、焦げた部分は少し苦かったものの初めてにしては上出来すぎるほどだった。
「うん、うまい……」
「ほ、本当に?」
「もちろんだ。とってもうまいよ」
別の……、唐揚げやミニトマトとかもどんどんと口に運んでいく。
すると、柏木は嬉しそうな表情を浮かべていた。
ただし、それと同時に緊張した様子を見せている。
その彼女の手には別の割り箸が握られている。
覚悟を決めて、弁当箱から卵焼きを掴み取って、俺の顔を見てくる。そして……。
パクっ。
自分で食べてしまった。
「えっと……、そ、その……」
柏木は慌てふためく様子を見せる。
「だ、大丈夫。何回も有紗ちゃんと練習したんだもん。相手が三島くんに変わっただけ……。うん、こ、今度こそ……」
小声でぶつぶつと言いながら柏木が今度は唐揚げを掴んでくる。
そして、真っ赤な表情を見せてくる。
「み、三島くん、ちょ、ちょっとだけいいかな?」
「どうしたんだ?」
「そ、その……、あ……、あー……」
必死に声を出そうとしているが、言葉にならないようだった。
それでも彼女がしたい事はわかるので、俺は口を開ける。
すると、彼女は少し驚き、小さな声で「ありがとう」と呟いたあと、掴んでいる唐揚げを俺の口に入れてきた。
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