第29話

 ひとしきり遊び終えた後、夕方頃になってようやく相場たちが合流してくる。



「す、すまないな。いろんな所を見ていたら遅くなってしまった」

「いや、わかってるからいいよ。それに俺たちも十分楽しめたもんな」

「うん、すごく楽しかった」



 結衣が笑みを漏らしていた。

 それを見て相場たちはにやりと微笑んでいた。



「そう……、それはよかったね」

「それよりも相場たちはどうだったんだ? 二人で回っていたみたいだが――」

「うん、なんだかドラマでも見ているかのようで、悶え死ぬところだったぞ」

「……? どうして絶叫マシーンで悶え死ぬの?」



 不思議そうに聞き返す結衣。

 それに対してただ笑みを浮かべるだけでそれ以上答えようとしなかった。



 ◇



「あと一つくらい乗るので限界かな?」



 すでに日が沈み始めてる。

 少し名残惜しいところだけど、こればかりは仕方ないだろう。



「あぁ、だからこそ最後はあれに乗らないか?」



 相場が指を指したのは巨大な観覧車だった。

 これも遊園地と言ったら定番の乗り物だ。



「結衣、観覧車は大丈夫か?」

「うん、大丈夫。卓人君と一緒なら乗ってみたいかも」

「結衣ちゃんならそういうと思っていたよ。せっかくだから二人ずつ乗ってみない?」



 佐倉が名案と言わんばかりに笑みを浮かべながら言ってくる。



「えっと、俺たちは全然良いが、相場や佐倉はそれでいいのか?」

「あぁ、問題ない!」



 相場がグッドポーズをしながら言ってくる。



「さすがに二人の邪魔なんて出来ないわよ。だから私は相場で我慢するわ」

「我慢するって何だよ! それを言うなら俺の方だって――」

「はいはい……、二人ともそれでいいなら早速行くぞ。もう時間がないんだからな」



 遊園地が閉まってしまっては乗ることが出来ない。

 俺たちは駆け足気味に観覧車へと向かっていった。


 ◇


「見てみて、卓人君。町がすごく綺麗に見えるよ」

「本当だな」



 観覧車に乗ると結衣は目を輝かせながら必死に窓の外を眺めていた。

 そして、たまにこうやって俺を呼んで指さしてくる。


 その様子はまるで子供のようだ。

 ただ、結衣が楽しめているのなら俺からは特に何も言うことはない。


 でも、これだとあまりに恋人らしくないよな……。


 そう感じた俺は思いきって結衣の隣へと移動することにした。


 動いている観覧車内で立ち上がり、結衣と同じ方の席に座る。

 すると、その瞬間に大きく観覧車が動く。



「きゃっ……」



 結衣が小さく悲鳴を上げて、俺の胸に飛び込んでくる。



「大丈夫か?」

「うん、ちょっとびっくりしただけ……」



 結衣がその場から離れようとする。

 しかし、改めて俺の胸にそっと体重を掛けてくる。



「結衣?」

「しばらくこうしてていいかな?」



 よくみると結衣の顔は真っ赤に染まり、恥ずかしそうにしていた。

 今の言葉もかなり無理をしていったのかもしれない。


 そう感じ取った俺はそっと結衣の頭を俺の方へと押していた。



「そのくらいでいいならいつでもしてやるぞ?」

「うん、ありがとう……」



 それから俺たちはしばらくくっついたまま動く観覧車の振動だけを感じていた。


 どうしてここまで大胆なことが出来るんだろう……、と不思議に思ったが、地上何十メートルも上にある密室空間だ。

 誰にも妨害されることがないとわかっているからか、余計に大胆になるのだろう。



「あのね、ずっと卓人君に聞きたかったことがあるの」



 突然結衣が上目遣いを見せながら言ってくる。



「どうしたんだ?」

「その……、ずっと有紗ちゃんが恋人らしいこと……って言ったときにキスのこととか言ってたでしょ? もしかして、卓人君もそういったことがしたいのかなって」



 これはどう答えたら正解なんだろうか?


 確かに結衣とそういったことはしてみたい。

 でも恥ずかしがり屋の結衣が相手なのだから無理に進めずにゆっくり俺たちのペースで進めば良いと考えていた。


 だからといって結衣に対して嘘をつくのもはばかられる。



「……あぁ、それはもちろんしてみたいと……思う。ただ、無理をしなくても……」

「……いいよ、卓人君なら」

「えっ?」



 結衣から信じられないような返答が帰ってきて思わず聞き返してしまう。

 するともう一度結衣が言ってくれる。



「卓人君ならいいよ……」



 そう言って結衣はゆっくり目を閉じて口を突き出してきた。

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