6.食事が”料理”とは限らない

「すまない、少し──、きゃぁぁぁぁぁぁ!?」

「ば、おまっ! だからいきなり入ってくるなって言っただろうが!!」

 俺はまさに風呂上り。全裸にパンツを穿くべく、片足上げたタイミングに四王天が現れた。俺は脱衣所の扉は締めていなかった。一人暮らしでわざわざ締める必要ないよね、普通カギが締まった部屋に勝手に入ってくる輩は居ないはずですし……。

 しかし、俺対象のラッキースケベ展開とか誰得なんだ? いや、むしろアンラッキースケベだろ、これ。


「で、なんの用事ですかね……?」

 先ほどのイベントによる精神的動揺が無いわけではないが、俺は努めて冷静に声をかける。

「ハダカ、ハダカ、父上以外の……、これはもうお嫁に行くしか──」

「おーい、戻ってきてくださーい」




「その、いろいろと世話になりっぱなしなのでな、一緒に食事でもどうかと……」

 たっぷり数分トリップした後、やっと正気に戻った四王天から、そのような提案をいただいた。

「ご馳走してくれるってこと?」

「ああ、差支えなければ、だが……」

 四王天としても、借りを作りっぱなしで心苦しい部分もあるのかもな。ここは受けてあげるのも優しさか……。

「そうだなぁ、んじゃ、遠慮なくご馳走になることにするよ」

「そうか! よかった! 最高のものを用意しよう」

 四王天は見惚れるような笑顔を見せてくれた。思わずドキリと胸鳴る。四王天も彼女なりに気を遣ってるんだな。本質的には気遣いもできる優しい人なのだろう……、気遣い方面が残念なだけで。




 四王天からのご馳走なら、結構いい物食べられるんじゃないだろうか……。そう思っていた時期が、私にもありました。


「これ、が?」

 四王天の部屋、もう何度目かの訪問だが相変わらず色気が無い。その部屋の中央、食卓の上には四王天が準備した食事が並んでいる。

「そうだが? ああ、説明が要るかな?」


「こっちは特別に仕入れたリンゴだ。食物繊維やビタミン、ミネラルも豊富だぞ」

「そっちはバナナだ。栄養も豊富だが、効率よく糖質も摂取できるすぐれものだ」

「そこのはマンゴーだ。こちらも非常に栄養価が高く、美容効果も高いと言われている」

「これは煎り豆だ。やはりたんぱく質は大事だからな。カリカリしていて、気を付けないとたくさん食べてしまうぞ」

「そしてミルクだ。カルシウムを取るのに最も手軽なのは、やはり乳製品だ」

 四王天は食卓に並ぶ"食品"を、嬉しそうに順番に説明してくれる。


「あ、うん。確かに"料理"とは聞いてないからな……、確認を怠った俺が悪かった……」


「いただきます」

 四王天に習い、俺もしっかり手を合わせ"いただきます"をする。

 彼女は豪快にリンゴにかぶりつく。歯も歯茎も健康なのね……。俺も、食べやすそうなバナナを手に取り、皮をむく。

「四王天は、いつもこんな感じの食事なのか……?」

「うむ、そうだが? どうした、口に合わないか?」

「いや、美味いよ」

 確かに"料理"ではなかったが、どの"食品"も美味しかった。

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