2.鍋に宿る小宇宙
視界は白濁し、その様子がはっきりと見えない。
『これから人格コピーを──』
誰の声だ? 聞いたような気がする
『あなた方お二人の活動に人類の未来が──』
人類? 未来?
ピンポーン
「ふぇ?」
インターホンの音で目覚めた。いつの間にか寝てしまっていたらしい。
「はて……? なんかの夢を見ていたような……」
なんだったか、よく思い出せない……。
ピンポーン
再度のインターホン。徐々に寝ぼけていた意識がはっきりとしてきて──
ピピピ、ピピピ、ピピピピピピンポーン
「だからそれどうやって鳴らしてるんだよっ!!」
ツッコミの勢いで扉を開けた外。一瀬さんが鍋を手に立っていた。
「加無木さん、こんばんわぁ」
相変わらずのマイペース具合だ。
「あ、ども、こんばんわ。」
ツッコミの勢いもどこへやら、一瀬さんの顔を見ると、美人過ぎて俺が恥ずかしくなる。
今日も下はワイドパンツだが、羽織っているのは短めのブラウスのようだ。相変わらず主張の激しい部分はしっかりと自己主張をしている。
「加無木さんは、今日も休校だったんですかー?」
ぐ、相変わらず痛いところをストレートに突いてくるな。
「え、ええ、まあ。」
「そうなんですねー、変わった授業なんですね」
一瀬さんは屈託の無い笑みで関心している。痛い、心が痛い。この人信じてるよ。
「電池って
「話題転換が唐突だな! あと、それプラスとマイナスて言うのが普通だから!」
「だから
「斬新な発想だな!! 何時間探してたんだよっ!!」
「加無木さんは
「この話題まだ引っ張るのかよっ!!」
俺のツッコミは完全スルーされ、一瀬さんはきらきらした期待の眼差しで俺を見る。
「で、電池を使うときって、大抵2本とか4本とか使うじゃないですか? つまり電池
「まぁ、そうだったんですね! さすが加無木さん!」
心の痛みが広がってゆくよぅ。
「じゃあ、
「……。」
「
「はいっ!」
「探しときます……。」
「はい! 見つけたら教えてくださいね!」
「あ、はい」
一瀬さんは帰っていった。
「ん? 結局何しに来たんだ?」
ピピピ、ピピピ、ピピピピピピンポーン
「あの、普通に鳴らしてくれていいので」
「すっかり忘れてましたー。肉じゃが
「え!? 肉じゃが!?」
一瀬さんの手料理おすそ分けイベント!
「ええ、お嫌いでしたか?」
「いえ、大好きです!」
「ならよかったー。ぜひ召し上がってください」
俺の手の中には、赤い蓋付きの両手鍋。これは「ラ・フランス」みたいな名前のちょっとお高めなおしゃれっぽい鍋だ。初めて名前を聞いたときに、「え? ガン○ムS○EDのラスボス!?」って思ったものだ。
早速今日の夕食にいただこう。むしろ今すぐいただくのもありか! 鍋はまだほんのりと温もっている。案外このまま食べられるんじゃないだろうか。
俺は小さなちゃぶ台のような食卓を占拠している品々を退かし、中央に鍋をセット。食器を準備した後、鍋を正面に正座し姿勢を正す。
「いただきます。」
きれいな姿勢で手を合わせ、食材に、そして作ってくれた人に感謝を込める。
蓋を取ったとき、そこに広がるのは小宇宙だった。
「む、紫色……?」
鍋の中身は、濃い青紫の粘液だった。その合間には鮮やかなエメラルドグリーンの物体が転がっている。
「これは、料理、なのか? いや、むしろ食べ物なのか!?」
これは人間が摂取していい物質なのだろうか。何がどのように作用すると"肉じゃが"がこのようなサムシングに変貌するのか。鍋の赤と粘液の青紫、中から覗くエメラルドグリーン。とても目には鮮やかだ。
しかし、食べずに処分するのもどうか……。美女の手料理というだけで、その価値は数倍に跳ね上がるというものだ! いや、マイナスは数倍にするとさらにマイナス方向へ大きくなるけれども……。俺は先ほど「いただきます」と言ってしまった。食材と作り手への感謝を述べた。ならば!!
「えぇいっ、ままよ!!」
エメラルドグリーンの物体を一気に口へ運ぶ。
「うぐっ!!」
ば、ばかな! これは!!
「うまい。」
味はとても普通に肉じゃがでした。
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