4.豚の生姜焼き定食
「あたしが挑発で引き付けるんで、部位破壊ねらっちゃってほしいっす」
「あいあいさー」
真緒ちゃんのキャラが大型モンスターへと接近し、挑発スキルを駆使しつつ牽制の攻撃を加えていく。俺は遠距離攻撃武器で敵上部の破壊可能部位へと攻撃を加える。
「いやぁ、お陰様でいい調子で素材収集できたよ、この調子なら今日中には装備作れそうだ」
今は、モンスター倒して、素材をはぎ取り、装備を作るタイプのゲームを共闘中だ。真緒ちゃんの自キャラはごついオッサンだ。俺のキャラは女キャラなので、内外で性別が逆転している。
「あ、ごめんなさいっす、今日はそろそろ帰らないと。もう食材が無いもんで、仕入れてこないとなんす」
「また、うちで食べてくか? 大したものはできんけど」
俺は先日、一緒に夕食を食べたことを思い出し、真緒ちゃんを誘ってみる。
「いやぁ、そんな頻繁にご馳走になったら悪いっすし」
「いいよ、気にしないでも。俺も一人より真緒ちゃんと一緒のほうが楽しいし」
「ぇ、ぁ……」
真緒ちゃんがものすごく赤面している。俺も自分の発言を顧みて今更ながら恥ずかしくなってきた。
「あ、いや、その、変な意味じゃないぞ!?」
「そ、そうっ、すよね……」
真緒ちゃんは安心したような、それでいて少し寂しそうな様子に見える。俺もちょっと残念に感じている……?
「な、なら、あたしが作る……ますよ、ざ、材料は零次さん持ちで!!」
俺の気持ちを察したのか、真緒ちゃんはそんな提案をしてくれる。
「えっと、なんか無理に引き留めたみたいで、わるいな……」
「いえ、いいっす! 大丈夫っすから!! ──あたしも一緒にいたいし」
「ん? 最後なんて?」
「いや、なんでもないっす! 腕によりかけてつくるっす!」
ワンルームなのでキッチンが明確に部屋分けされているわけではない。が、真緒ちゃんに「素材掘りでもして待っててくださいっす!」と言われ、キッチン領域から追い出されたため、俺は遠巻きに真緒ちゃんの調理姿を眺めるのみだ。
「あ、あまり見られると緊張するっす……」
俺の視線に気づいたのか、真緒ちゃんが恥ずかしそうに抗議を述べてきた。
「あ、ご、ごめん」
俺まで恥ずかしくなり視線を外す。画面内の自キャラは床ペロしていた……。
「お、おぉぉ」
ちゃぶ台の上、町の定食屋にでも来たのかと見紛うような"豚の生姜焼き定食"が並べられた。山盛りの生姜焼きの横には綺麗にそろったキャベツの千切りが添えられ、小鉢でおひたしまで付いている。もちろん白いご飯とみそ汁もあり、みそ汁の具はお豆腐だ。こちらも綺麗に大きさがそろっている。
「簡単なメニューで申し訳ないっす」
「いや、すごいよ。ちょっと感動した……」
真緒ちゃんは「恥ずかしいっす」といって照れている。
「いただきます」
俺は両手をしっかり合わせ、真緒ちゃんに感謝の意を込めて「いただきます」を述べた。
茶碗を手に、早速生姜焼きを口に運ぶ。焼きたての熱々で少し火傷しそうになる。生姜焼きを一口、その瞬間……
「めちゃうまい……」
ご飯を目一杯頬張る。絶妙な塩梅と生姜の風味、そしてご飯と織りなす味わい。租借し飲み込んだ直後に口が次を求める。生姜焼きとご飯のローテーションが止まらない。
「おひたしも醤油加減がすごくいい」
だしも効いていて、これもご飯が進む。おひたしってこんなにおいしかったんだ……。
「ご飯おかわりあるっすから」
真緒ちゃんも一緒に生姜焼きを食べつつ言う。俺は口いっぱいに頬張っていたため、無言で首を縦に振った。
「喜んでもらえたみたいで、よかったっす」
「やばい、毎日食べたい……」
自身の語彙力が絶望的と感じつつも、これ以外の言葉が出なかった。
「ぇ……」
他意はなかったのだが、俺の言葉に真緒ちゃんが赤面し、それを見た俺も自身の発言を顧みて赤面した。
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