6.本能軍VS理性自制心連合
前回のあらすじ:ホラーでビックリ、そして膝枕耳掃除
萌絵は耳掃除の道具を片付けると、ベッドに腰かけた。
萌絵は微妙に赤面しつつ、チラチラこちらを見てくる。やけに目が泳いでるな。何か言いたげだ。やはり、膝枕からの"反転"がいけなかったか……。
「えーっと、なんかごめんな?」
「え? ちがうよ、お兄ちゃん何も悪くないよ!……、その……」
言葉を切り、再び沈黙。萌絵はしっかりと深呼吸し、そして次の言葉を発した。
「今日、一緒に寝ても、いい?」
「え……」
「いや、その、そうじゃなくて……」
なにが"そうじゃない"のかよくわからん。萌絵はチラチラとテレビ画面に視線を飛ばし、かなりの挙動不審だ。ああ、そうか、つまり「ゾンビ怖かったから一緒に寝たい」ってことだな。
「しょうがないな。昔は一緒に寝たこともあるしな」
俺の言葉に、萌絵は目に見えて明るい表情になる。
「うん、ありがと!」
と、安請け合いしたことを、俺は早々に後悔した。あまり近すぎて嫌がられたらイカンし、でも背を向けるのも感じ悪い。萌絵のほうに向くのはもっての外。としたら仰向けになるしかない。極力横は見ない。とにかく真上を見て、天井に意識を集中するんだ。隣の存在に意識を持って行ってはいかん。うん、寝られる気がしない。
「お兄ちゃん……」
「な、なんだ……」
会話には答えるが、意識は天井だ。なんかいい匂いするけど気にしない。精神集中!
「手、つないでもいい?」
隊長! 敵はものすごい攻撃です! 防衛線が限界です!!
「ぐ、ぬ、いいぞ」
萌絵の柔らかくあったかい手の感触。指と指が絡まる、それ恋人繋ぎですよね……。あんまり手をごそごそと触っても変だし、かといって指開いたままってのもなんだかなぁ……。握り具合にまで気を遣う……。
「迷惑だった?」
「そんなわけないだろ」
萌絵が少し落ち込んだ風に聞いてくる言葉を、俺は即否定する。迷惑なわけない。俺の忍耐が試されているだけだ。
「……やっぱり、帰るよ……」
「大丈夫だって」
「でも、お兄ちゃん、なんか辛そうだし……嫌なのかなって」
「嫌じゃない、それは断じて違う。理性と自制心が頑張ってるだけだ」
嫌われてるとか、間違ってもそんな誤解はしてほしくない。まあ、辛いのは事実だが……、主に忍耐的な意味で。
「お兄ちゃんの自制が無くなったら、私危ない感じ?」
少し気分が上向いたのか、ややいたずらっぽい口調で聞いてくる。もちろん危ない。貞操の危機だぞ?
「と、年頃の男女、だしな。お、俺じゃなかったら、あ、危ないぞ」
「ふふ、お兄ちゃんじゃなかったら、一緒に寝ないよ」
隊長! 本能軍の激しい攻勢で、理性自制心連合は既に全滅寸前です!!
萌絵は手を握るだけじゃなく、その身体で腕を抱え込むようにしがみついてくる。二の腕に柔らかい感触、彼女が握ったまま、手首は下のほうで何か柔らかいものに挟まれる。手の甲が! 手の甲がその最深部に触れている!?
「我慢……、しなくても、いいよ?」
理性自制心連合は壊走。本能軍は勝利の鬨の声を挙げた。
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