4.材料に手を加え食物をととのえ作る行為
「ついに部屋に入ってくる工程すら省略されたな。」
「朝からずっと居るのに、今更何を言い出したのですか?」
二村は、ベッドの上に寝そべったまま、テレビを見ている。俺はというと、二村がテレビを占有しているため、ゲームができない。仕方なくベッドを背もたれにし、一緒にテレビを見ている。
「ちゃんと自分ち帰れよ、おまえ」
「静香です。私には静香と言う名前があります。」
「む、なら、ちゃんと自分ち帰れよ、静香」
「ここは涼しいし、テレビもあるし、ご飯もあるので天国です」
「完全に居候じゃねぇか! 涼しいとテレビは最悪仕方ないとして、ご飯まで確定事項なの!?」
「むぅ、文句が多いですね。なら仕方がない。今日は私がご飯を用意しましょう」
静香からこんな提案が出てくるとは予想外だ。
「って、それ材料は俺持ちなんだろ?」
「私持ちでもよいですが、そうするとメニューは雑草混ぜご飯のコメ抜きになります」
「それただの雑草じゃねぇか!!」
「俺の認識では、"ご飯の用意"ってのは、"料理"ってのと同義なんだが?」
「そうなのですか? 考えようによっては、私も"料理"をしています」
「ほぅ、コレらのどこに"料理"をしたのかな?」
ちゃぶ台に並ぶのは2皿。1皿は小鉢で、中見はみかん缶だ。そしてもう1皿、その皿の上には、スパゲッティが乗っている。
「スパゲッティを食べやすいサイズに切りました」
「えーっと、料理の意味は……"材料に手を加えて、食物をととのえ作ること"だって。あ、そうね、スパゲッティを折ることで、手を加えてるからね、たしかに料理だ……、って言えるかーっ!!」
「ずいぶん長いツッコミですね」
「え、なに、スパゲッティって茹でるものだよね? もしかして俺の認識が間違ってるの? 静香いつもこうやって食べてるの!?」
「水も貴重品です。こうして口の中でふやかしながら食することで、少量でも満足感を得られ、腹持ちも良いです」
「なんだろう、俺の想定を超える涙ぐましい努力が垣間見えて、これ以上ツッコミが入れられないんだが……」
それは腹持ちが良いんじゃなく、ただ単に消化不良を起こしているだけだろう……。なんか、目頭が熱くなってくるぞ。これはきっと心の汗だな。
「うん、なんか、俺が悪かった。いつでも来ていいから。ご飯出してやるからさ」
「それは大変ありがたい申し出です。が、私も反省しました。いつもお世話になってばかりはいけません。なので、今後は食事の用意は交代制にしましょう」
「え……」
交代制ってことは、2回に1回はスパゲッティ乾麺ストレートになるのか!?
「あ、その、あれだ! 静香の得意料理って、これなのか?」
俺は乾麺ストレートを指差しながら尋ねる。
「いえ、得意料理は雑草とパンの耳です」
「"得意料理"で出てきた名称が料理じゃない件……」
「うん、困った時はお互い様だろ! ご飯の用意は俺にまかせてくれ! 静香はそうだな、あれだ、俺が見たいテレビ番組が始まらないかチェックしといてくれ!」
「テレビの監視ですか。望むところです」
「では、いただきましょう」
「え、やっぱりいただくの?」
「当然じゃないですか。ご飯を残すなど、とんでもないことです」
「言ってることは非常に正しいのに、なんだろうこの切ない気持ち」
「うぅ、胃がもたれる」
「スパゲッティは腹持ちが良いのです」
"消化不良"を"腹持ちが良い"と表現するのは大きな誤りであることを、俺は改めて実感中だ。
「胃薬飲んで寝ようかな、もう……」
俺は寝るから、暗に"そろそろ帰れ"と仄めかしてみる。
「……。」
静香は無言で俺のベッドに横たわり、そのままタオルケットに包まり始めた。
「まさか泊まってくつもりか?」
「真夏の夜は熱くて寝苦しいのです」
「……。」
俺は口を開き、何か言いかけたが、食事の時のやり取りが頭を過り言葉が出てこなかった。
「わかったよ、今日だけだからな」
俺はそのまま床にごろ寝する。
「一緒に寝てもいいですよ?」
静香は自分の横をぽんぽんと叩きつつそんなことを言ってくる。
「それは緊張して俺が絶対寝れないからイヤだ!」
「ふふ」
くそぅ、完全に手のひらの上で転がされている。
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