4.お湯とは、常温より高い温度に温めた水
「すまない、少しいいだろうか?」
「もう、ナチュラルにインターホン鳴らさずに侵入してくるのな」
もはや二度目となるとそこまで動じない。いつの間にか室内に四王天が居た。
「服は……」
「そして、相変わらず俺の反応に関わらず、話は進んでいくのな」
「服はどこにあるのだろうか?」
「……、え? 服?」
四王天は非常に困惑の表情で、俺に問いかけてくる。これはどういう質問だろうか。俺は何を聞かれているんだ?
「クローゼットとか、洋服箪笥に入ってないのか?」
「持ってきた服は全て着てしまってな……、はっ! まさか服も……?」
「誰かが準備したりはしねぇよ!? 家電付きの部屋なんだから、自分で洗濯器をまわさないと……」
俺の言葉に四王天はハッっとした表情をする。なにかに気が付いたらしい。どうせロクなことじゃない。
「洗濯機とはもしや、異常な狭さで調度品も無い風呂場の隣にある脱衣所と区別すらされていない洗面所の一角に置かれている箱状の物体だろうか……。あのような狭い風呂設備では、体も休まらないだろうに、庶民とは大変なのだな」
「無駄に長セリフで分かり辛いわ!! あとさらっと庶民ディスるな!」
「ふむ、そうか……、ならば見せてもらおう、洗濯機の性能とやらを」
「ねぇねぇ、本当にお嬢様なんだよね? 本当に世間知らずなんだよね?」
洗濯を知らなかったのか……、お嬢様ならそういうこともあるのかね……? ん? まさか……、
「まさか風呂も入ってないとか、そんなこと言わないよな……?」
「馬鹿にするでない。風呂はちゃんと入っておる。水が少々冷たいのは辛いが、ここは庶民の生活を知るためと──」
うん確かにな、かなり寒い季節になった。四王天の実家では風呂は常に暖かかったんだろう……、ん? 水が冷たい?
「水が冷たいって、もしかしてお湯の温度の上げ方を知らないとか……?」
「はっはっはっ、主も世間知らずなところがあるのだな。アレは湯ではなく、水と呼ぶのだぞ」
「そうそう、常温より高い温度に温めた水がお湯だったね。間違えちゃった、ははは。って、言うかぁぁ!! お湯の出し方知らねぇのかよ!!」
四王天は俺の発言に対し、実に愉快な説明をしてくれた。どうやら湯沸かし器の使い方も知らなかったらしい。
「……。」
女子のお部屋訪問イベントなのに、なぜか全然色気とか嬉しさとか湧いてこない。室内には脱いで山に積まれた衣服と、スペースギリギリまで置かれた衣装棚。あとはベッドしかない。女子の部屋という雰囲気が全くせず、女子部屋へお邪魔したはずなのになんの感慨も無い。
「あ、あまり女性の部屋をジロジロ見るものではない、は、恥ずかしいではないか」
「あ、うん」
俺は気のない返事を返すのが精一杯だった。ほんと、この恥らってる姿だけ見るといい感じなのになぁ……、残念すぎる。
俺は洗濯機に女性ものの衣服を適当に放りこみ、そして洗剤が無いことに気が付き、自宅から買い置きを持参し、洗濯機をスタートさせた。
「おぉぉぉ、衣服とはこのように洗濯をするのか……」
「次は自分でやれよー」
続けて、俺は湯沸かし器の電源を入れ、風呂場で湯を出す。
「おぉぉぉ、まさかお湯が出るとは……」
「ちゃんと体温めろよー」
「んじゃ、俺帰るから」
俺は四王天の部屋を出て、自分の部屋に戻る。なんだろう、なにか嫌な予感がする。
「さすがにあとはちゃんとできるよな……?」
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