7.冬の定番イベント
「今日はクリスマスイヴだな」
「ついに"少しいいか?"の確認すら省略されたな。俺はサンタさんに"プライバシー"をプレゼントしてほしい」
「ふふ、サンタさんにお願いとは、加無木も可愛いところがあるのだな」
「え、いつもスルーするのに今日だけ拾うの? しかも拾う場所そこ!?」
今日もいつも通り、首まであるブラウスにロングスカート姿の四王天がいきなり俺の部屋へ現れた。まさか抜け穴でも準備しているんじゃなかろうな? 入ってきた音すらさせないとか、もう暗殺拳か何かの達人としか思えない。
「それでな、クリスマスというのは、元々家族と過ごすものなのだが……」
いつも通り唐突な話題転換だ。いや、いつも以上の力技だな。
「えっと、それでなぜうちに来たんだ? まさか"家族に会いに来た"とか言うわけじゃないだろうに……」
今日はずいぶんと迂遠だな。いつもならこの辺で用件の話題が出てくるのだが……。
「加無木に会いに……、家族に会いに……、加無木が家族に!? なっ! わ、私はお前をそんな風には……、いや、嫌だと言う訳ではないのだ、だが、私たちはまだ知り合ったばかりで、まだそういうのは早いと! そういうモノには順序があってだな。いや、それも古い考えか、今は──」
「一足飛びの三段論法だな! っていうか、そろそろ戻ってきてもらっていいすかー」
たっぷり数分トリップした後、四王天は正気に戻った。なんか、こんなの前にもあったな。
「その、すまない、最近なぜか加無木を見ると胸がざわついてな、なにやら落ち着かないんだ」
「え、あ、そぅ……」
なんかものすごく際どいカミングアウトを受け、俺が動揺してしまう。これ狙って言ってるわけじゃないんだから、すごいんだか、鈍いんだか、いや、すごく鈍いのか。
「それで、な、せっかくのクリスマスだ。何かプレゼントを、と思ってな」
「え、俺に?」
四王天はとても恥ずかしそうに言葉を続けた。
「ああ、だが、何が良いのかわからず、それで……」
「いっそ、直接聞いてみようと?」
俺の言葉に四王天が頷く。今日の四王天はやけに可愛らしい……、さっきのカミングアウトも相まって、俺も落ち着かない気分になってくる。
「自分にリボンを付けて、"聖夜のプレゼント"とするのが最近の傾向だ、とは聞いたのだが……」
「それ"性夜のプレゼント"な! 情報源どこだよ! 情報偏りすぎだから!! 俺もプレゼント準備してないし、気にしなくていいから」
「そ、そうか、そうだな、私なんぞではプレゼントにならないな……、すまなかった」
「いや、いや、そういう意味じゃないから、"四王天をプレゼント"なんて、俺には勿体ないから!」
「"四王天"の名は重いな、私とてそれを剥いてしまえば"麗華"というただの女だぞ? まあ、"零次"としては"四王天"無き"麗華"なぞ欲しくはないだろうが」
なんか、話ずれてる? 俺は"四王天 麗華"という女性そのものが俺に勿体ないって言ったつもりなのに、彼女は"四王天"の家が俺に合わないって解釈してる。俺四王天家ってよく知らないんだけどな……。
「そんなことはないよ。麗華は綺麗だし、優しい人だし……」
少々残念なのが玉にキズだけどね。
「ふふ、たとえ世辞でも嬉しいものだな」
「お世辞じゃないよ。麗華をプレゼント! なんて言われて、喜ばない奴は居ないと思う」
俺の言葉に、麗華の眉が微かに揺れる。
「でも、零次は、欲しくは無いのだろう?」
「そんなことないって」
「なら……、欲しいのか?」
「ほ……」
麗華は俺を見つめ、俺も視線を合わせる。麗華の瞳が揺れていた。
「私を──」
麗華の唇に左の人差し指を当て、その言葉を止める。
「俺から言うよ、クリスマスプレゼントに……、あなたをいただけますか?」
俺は右手を差し出し、麗華がその手を取ってくれるのを待つ。
「……はい」
麗華が俺の右手に、その左手を軽く乗せる。俺はその手を握り、そして彼女を抱き寄せた。
「し、四王天は重いぞ? よ、よいのか?」
「いただけるなら、それもいただくよ……」
「……うん」
麗華の両手が俺の背中に回され、二人の身体が強く密着する。
「か、家族になってしまえば、今夜共に過ごしても、い、違和感ないね……」
麗華の中で、俺との関係が大きく変わったのだろう、年ごろの女の子らしい可愛い話し方に変わった。
「ふふ……」
「わ、笑ったのか!? 言葉遣いが変だったか?!」
「いや、可愛くていい」
「~~~~~っ!!」
俺はより強く彼女と抱き合う。彼女と二人で過ごすイヴの夜は更けていった。
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