3.美少女が朝起こしてくれます

『F型生体の治療完了の後、──』


 ──無理だよ……、俺にどうしろってんだよ……


『──ケアプログラムを──』


 ……にいちゃん


『──アンドロイドを用いた疑似──』


 ……おにいちゃん


 ──わかった、ならそれで……



「お兄ちゃん起きて!」

「んぁ?」

 目の前に美少女。俺を覗き込んでいる。

「かわいい」

「えっ!?」

 俺の言葉に、その美少女は一気に赤面する。

「もう、いつまでも寝ぼけてないで、朝ご飯食べよ!」

 その美少女、萌絵の平手打ちが俺のおでこに命中し、一気に意識が覚醒する。現在は朝7時。俺としてはあり得ないほどの早起きだ。なんで萌絵が俺の部屋に居るのか、一瞬分からなかった。が、よく考えたら、先日掃除の後、合いカギ渡したんだった。それにしても、おでこが痛い。


 トイレで一番搾りを輩出し、顔を洗って出てくると、ちゃぶ台の上には朝食が並んでいた。

 トースト、ハムエッグ、サラダ、特に普通のメニューだが、一人暮らしの俺には得難く、ありがたい普通さだ。

「いただきます」

 俺は早速朝食をいただく。

「お兄ちゃん、今日もお休みするの?」

「ふぐっ!!」

 俺は頬張ったトーストをうっかり吹き出しそうになった。ごほごほとむせながら、ミルクで流し込む。


「ふぅん……、じゃあ、私も休んじゃおっかな」

「ば、おま、ちゃんと学校行けよ」

 自分でも「お前が言うなよ」というツッコミが入れたくなるような発言だ。


「えぇー、それお兄ちゃんが言うぅ?」

 はい、ごもっともな意見。

「……。」


「ふふ、うそうそ、ちゃんと行ってくるよ」

 いたずら成功、と言いたげな笑顔で萌絵は笑いかけてくる。まんまとからかわれたらしい。


「さぁて、そろそろ片付けして──」

「洗い物くらいやっとくから」

 朝起こしてもらって、ご飯まで作ってもらって、そのくらいしないとバチあたりそうだ。


「え、いいの? ……、じゃぁ、お願いしちゃおっかな。ありがとね、お兄ちゃん」

「あ、いや、こちらこそ」

 お礼を言わなきゃいけないのは俺のほうだ。萌絵は良い子だ。良い子過ぎて切ない。


「お昼ご飯冷蔵庫に入れてあるから、チンして食べてね、それじゃいってきまーす」

 至れり尽くせりすぎる……。なんだろう、あれか、完璧超人か?





「おにぎりと、だし巻き卵……、うまい」

 冷蔵庫に入っていたのは、おにぎり2個とだし巻き卵だった。おにぎりは梅干しと昆布、海苔は別で置いてあって後付けでパリパリを楽しめるという俺好み仕様。だし巻きも甘さ控えめで美味しかった。


 もう、萌絵が出来る子過ぎて、俺のダメさが加速していきそうだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る