生身から離れて生きていた少女が現実へ戻っていくストーリー


「あたし」は、家族から、それまでの日常から離れて生きるための逃避場所だった
生きるために現在から切り離される必要があった。
別の自分として生きるために名前も偽る必要があった。


別の自分だから、身体を売ることにも抵抗はない。
少なくとも抵抗を自覚しない。

彼女が「美雨」という名を名乗ったのも、雨で先が見えない逃避場所を暗示しているように感じた。

彼女を逃避場所から現実に連れ戻したのは、母の死。
逃げて来た場所を失って、今の自分と向き合う結果となった。

本来の自分と、逃避場所としての自分。
その二つに折り合いをつけられなくて彼女は自暴自棄になる。

しかし、同居人でしかなかった男の口づけに感じた温かさと、本名を伝え合った時に感じた現実の生々しさが、本来の自分への道を示す。

きっと彼女は誰かと繋がっていたかったのだ。
幸せを探したかったのだ。

その気持ちが、「あたし」を殺した。

作者さんは、彼との過程を「共犯」と呼んで「あたし」を消し去る。
これから現実と向き合う本来の彼女の誕生を描く。

つまり、この作品は、一人の女の子が本来の自分を取り戻す過程を描いたものだ。

だからこそ、彼女が置かれていた状況の悲しさや心理状態に読者は心を寄せ、そして最後に「彼女の未来に幸あれ」と締めくくることができる。

テンポ良く展開するので一気に読んでしまうのだが、盛り込まれている事柄が豊富で短い作品なのに、お腹いっぱいにさせてくれる。

最後に、本来の彼女に戻すための彼の名前が「晴人」なのには、作者さんの遊び心を感じさせられた。

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