スミス殺しにうってつけの日

作者 陽澄すずめ

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★★★ Excellent!!!

古来から至る所で、安易に性が売り買いされています。そして、それ以外生きていく道を得られない人達がいます。

自分で自分を底辺だと蔑み、もちろん知られたら他の人からも侮辱され、それでも懸命に日々を生きている主人公、理華。

自分の秘密を知られてしまい、地元を離れて、都会で匿名で生きていく事を選択し、日々の生活の糧を得るために売春を行っていました。
そして、その自分を買った中の一人が、身体の対価として寝床を提供してくれることになります。

彼女は鏡をみて、いつも自分が生きているのかと自問を繰り返します。
それはおそらく、彼女は彼女が望むようには生きていないから。
それでも、彼女の生き方は芯が通っていてとても気高く思えてきます。

彼女の過去は、「不幸自慢」という作品で描かれているので、この作品をより深く理解するためにはそちらを読まれてからの方が良いかと思います。

自分の人生に疑問を抱きながら、日々迷いながら葛藤し、それでも悲観する事なく戦うように生きる彼女は本当に美しいです。
そして、彼女の気持ちとリンクするような情景描写が本当に美しく描かれています。

どうか、彼女の人生の選択を見届けてください。
必ず、胸を打たれることと思います。



★★★ Excellent!!!

作者様のつけたキャッチコピーに、『きっと誰よりも匿名希望だった』とあります。

これを念頭読み進めるといいかと思います。

『美雨さん』は、成程な『ミュー』という呼び名です。

不意に、厳しい前作『不幸自慢』よりも救いを感じました。

髪にまつわる話が、とても優しい男じゃないかとさえ思いました。

煙草の扱い方、上手だと思います。

そして、鏡が散らばっています。。

どこの『ミュー』にも自問自答したいのかな。

もう少しでいい、あたたかさを上げたい二人です。

それから、『ノー・ネーム』という第1話のタイトルだけで、満腹になります。

ああ、鏡の前での問答が分かる気がします。

それは、作中で共に痛みを感じてください。

独り生きるはずなのを独りで生きているにしたい気持ちとこのままでいい気持ちが平行しているのかなと思いました。

殺伐としていながら、幸せへの階を踏み始めた感じがいたします。

同棲を描いたものかと思い出しましたが、もっと、どろっとしているのは、十分に伝わりました。

個人的に思うのですが、日本語も含め海外の言葉で、多くの自己紹介では、『私は、田中です』というのか、『私を田中と呼んでください』というのかに分かれると、思います。

前者は、アイデンティティが私イコール田中であるのが確立されている感が強く、後者は、親しみのある間柄で、そうでありたいのか、ニックネームに関して自分の意見も交えることができるのだと思います。

『ミュー』に、理華にと、今は、本当の自分へと逆行させられた大事件でした。

自分をどう呼びたいかを決めるのは、自分だよと、それが自立だよと、私なら伝えたいです。

『カイ』は、なんてお名前かしらね?

お誕生日を祝う歌で、『昨日迄の君は死にました』と言う歌詞を抱えるものがあります。

ふと、それを思い出しまし、そうだ、死んだんだと思いました。… 続きを読む

★★★ Excellent!!!


「あたし」は、家族から、それまでの日常から離れて生きるための逃避場所だった
生きるために現在から切り離される必要があった。
別の自分として生きるために名前も偽る必要があった。


別の自分だから、身体を売ることにも抵抗はない。
少なくとも抵抗を自覚しない。

彼女が「美雨」という名を名乗ったのも、雨で先が見えない逃避場所を暗示しているように感じた。

彼女を逃避場所から現実に連れ戻したのは、母の死。
逃げて来た場所を失って、今の自分と向き合う結果となった。

本来の自分と、逃避場所としての自分。
その二つに折り合いをつけられなくて彼女は自暴自棄になる。

しかし、同居人でしかなかった男の口づけに感じた温かさと、本名を伝え合った時に感じた現実の生々しさが、本来の自分への道を示す。

きっと彼女は誰かと繋がっていたかったのだ。
幸せを探したかったのだ。

その気持ちが、「あたし」を殺した。

作者さんは、彼との過程を「共犯」と呼んで「あたし」を消し去る。
これから現実と向き合う本来の彼女の誕生を描く。

つまり、この作品は、一人の女の子が本来の自分を取り戻す過程を描いたものだ。

だからこそ、彼女が置かれていた状況の悲しさや心理状態に読者は心を寄せ、そして最後に「彼女の未来に幸あれ」と締めくくることができる。

テンポ良く展開するので一気に読んでしまうのだが、盛り込まれている事柄が豊富で短い作品なのに、お腹いっぱいにさせてくれる。

最後に、本来の彼女に戻すための彼の名前が「晴人」なのには、作者さんの遊び心を感じさせられた。

★★★ Excellent!!!

作者、陽澄すずめさんによる『不幸自慢』の続編。

近しくはあっても、互いに踏み込まない。何者か知らない。その形さえも崩れた時、ミューは自身をカイの目に触れさせてしまう。
ただそれは、至極当たり前のことかもしれない。誰しも他人に見せるのは、飾り立てたもう一人の自分。
気持ちの圧し切れる寸前という状況でさえなければ。

そこから抜け出すために、自分の名を名乗るために、二人は得体の知れない己を殺す。

★★★ Excellent!!!

 同作者様の前作『不幸自慢』を読んでからの読書を、強くお勧めする。もちろん、この作品だけでも楽しめるが、前作があると深さが違う。
 主人公は晴れの日が嫌いな美雨。同居中の買春相手からは、ミューと呼ばれていた。もちろん、偽名だった。そんな主人公を買い、自宅に住まわせる男性・カイとの関係を軸に、物語は進んでいく。
 カイは美容師のアシスタント。そして主人公は未成年。そんな二人の家に、ある日、刑事が訪ねてくる。主人公はカイの嘘によって救われた。しかし、もうそこにいることは出来なかった。主人公は雨の中を、行く当てもなく走り出す。
 
 生きているのか、死んでいるのか。
 匿名希望の私と、偽名。

 救われない話のようで、最後にはハッピーエンドが待っている。
 ラストの種明かしに、唸ること間違いなしの作品だ。

 是非、御一読下さい。