概要
“志津”にさせよ――文恭院殿家斉公と彼の愛した鷹の物語
二百有余年の泰平を謳歌する爛熟の江戸。
あらゆる遊興の類が世に繚乱し、人々は挙って戯作や芝居の乱脈に酔い痴れ、歌舞音曲の享楽に耽って華やいでいた。一方、武門にあっては、微睡みの如くに永らうる靖寧に澱んで尚武の気風廃れて久しく、生業たるべき武芸武術は刀槍の先を紅く染めることも無い儀礼と化して、のみかそれすら遊興の如くに嗜まれる始末。華美と奢侈とを戒め、質実剛健を旨とした武門元来の風紀もまた、世の趨勢と相俟って緩ぶどころか紊乱を極めていた。
父祖の築いたこの偉大なる「遺産」を一身に負うてその殃慶に浴する若き公方徳川家斉は、かかる世に半ば倦みつつも、今やこれとて遊興に成り果せんとする鷹狩にせめてもの慰みを覓めた。然し緩やかに頽廃していく己等武門の輩を差し置いて、人ならぬ鳥獣こそ燦めかす命の刹
あらゆる遊興の類が世に繚乱し、人々は挙って戯作や芝居の乱脈に酔い痴れ、歌舞音曲の享楽に耽って華やいでいた。一方、武門にあっては、微睡みの如くに永らうる靖寧に澱んで尚武の気風廃れて久しく、生業たるべき武芸武術は刀槍の先を紅く染めることも無い儀礼と化して、のみかそれすら遊興の如くに嗜まれる始末。華美と奢侈とを戒め、質実剛健を旨とした武門元来の風紀もまた、世の趨勢と相俟って緩ぶどころか紊乱を極めていた。
父祖の築いたこの偉大なる「遺産」を一身に負うてその殃慶に浴する若き公方徳川家斉は、かかる世に半ば倦みつつも、今やこれとて遊興に成り果せんとする鷹狩にせめてもの慰みを覓めた。然し緩やかに頽廃していく己等武門の輩を差し置いて、人ならぬ鳥獣こそ燦めかす命の刹
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