第2話・ライトノベルの新人賞として作品を読んだ場合、引っかかってしまった要素

・ライトノベルの新人賞として作品を読んだ場合、引っかかってしまった要素


Ⅰ 世界観・展開・キャラクターに売りがない


奇抜な世界観で、奇抜な展開で、奇抜なキャラクターばかりで……と、全ての要素に癖とか売りを出す必要はない。ただ、何か1つ、既存作に比べてこれだけは負けない! これが書きたい!という思いが込められたものがほしいなと思った。

世界観・展開・キャラクターに売りがない。これで文章にも癖がないとなると、「こじんまりとした作品」「目を惹くところがない作品」と評価されてしまうことがある。

ざっくり言うと、「下手ではないけれど、どこで売り出したらいいか分からないよね」という感じ。

新人賞だともしかしたら一次は通るかもしれない。でも、「うまくまとめられました」という評価なので上にいきにくい。いわゆる、お客様用の評価シートになるのがここ。




Ⅱ 展開の進みが遅く、キャラクター造形が見えてこない


いわゆる「誰が何をやるのかが分かりにくい作品」「どうすればゴールとなるのかが見えてきにくい作品」。

大抵の場合、問題はセットアップまでの遅さ(※)にあると言っていいと思う。

このセットアップをできるだけ早い段階(多少の増減はあるものの、公募だと約1万字以内まで)に示すと方向性がきまる。


セットアップ……世界観・主人公の立場の表明、主人公の悩み、性格、信条の表明、得たいもの(もしくは失いたいもの)の明示、この物語を通して主張したいこと、物語の方向性の決定。

『錆喰いビスコ』(作:瘤久保慎司)カクヨムURL  https://kakuyomu.jp/works/1177354054885551434も全体の10分の1以下…だいたい全体の8%か9%あたりで「誰が何をやるのか」「どうすればゴールとなるのか」が明示される。また、全体の10%までに主要キャラクターは名前だけでも全部揃う(一人例外はいるけれど)。

キャラクターや世界観でオリジナリティがあるものはたまに一次は通過する。けど、「魅力的ではあるものの、展開が遅く、ごちゃついてました」と評価されるのがここ。




Ⅲ 時流ではないもの・カテゴリー外


時流ではないから即駄目だ、というわけではない。

ただ、出版社も先行投資として賞金を払ったり宣伝をうったり書籍を作ったりしている。つまり、売れないと元手が回収できない。となれば、元手が回収しやすい作品を売ったほうが企業としては安全。

時流という項目以外で評価が高い場合は一次は通ることもある。ただこれにカテゴリー外(ラノベの新人賞であるにもかかわらず書き方が一般小説らしい、男性向けなのに女性向けの作風になっている。ガチガチのスペースオペラ、エグい描写が続くだけのホラー、本格推理、本格時代劇等)の要素が加わると途端に厳しくなる。

作品の質自体は高めであることが多い。


時流の把握の仕方は、

1 各種小説投稿サイトのランキング上位作をざっくりと分解し、どのような要素が含まれているかを把握する

2 自分が「ここに応募したいな」と思うレーベルの受賞作の要素を把握する。受賞時の講評確認も行う。

3 出版社のサイトで編集者の呟き(もしくはそれに準じたもの)が見られるのであれば、それを追う。

4 ツイッターのトレンドでアレンジできそうなものを探す。


カテゴリーの把握の仕方は、

1 応募したいと思うレーベルから刊行されている書籍を確認する。

2 応募要項を確認する


くらいかな……。


ここら辺を把握して、その中でオリジナリティを入れていくと「時流は外れていなくて目新しい」という作品にはなる。




Ⅳ 視点・カメラ位置がふらついているもの・同じ章で人称が変わる


私も視点については明確に言語化できるほど知識があるわけではないが、冒頭のプロローグでは三人称の多視点で、物語の本編に入ると三人称の一視点。新たなキャラクターが出てくると誰か一人に寄りつつも、ほかの人にも軸を移してしまうというものがあった印象だった。

特にこだわりがない場合は、三人称で誰かに軸を固定した書き方(できれば固定する人物の背後にカメラがあったほうが読む方としては楽)で、主人公をきちんと見せていくということを選んだ方がごちゃつかなくていいんじゃないかなと思っている。

(余談だけど、先に例として挙げた『錆喰いビスコ』はカメラの移動が割と頻繁に行われている感じ。ただ、章ごとにきちんと軸が定まっているのでそこまで気にならなかった。文章自体にはすごく癖があるけどねw)


応募作では、同じ章や同じ段落・シーンで三人称と一人称が混じるものもいくつか存在。

作者としては何か特別な意図があるのかもしれないが、基本的に同じ章や同じ段落・シーンでは人称は統一させた方がベターではある。

あと、名前の表記の仕方……例えば「愛」というキャラクターがいる場合、「愛」「あい」「アイ」と3通りの表記の仕方があるけれど、意図的な要素がない場合は統一させた方がいい。




Ⅴ その他こまごま


同じ言い回し、安直な擬音、主語の多さ、指示代名詞の多さ……こういう部分でも公募としてみると減点対象……というか、加点対象にならなくなっていくので注意したほうがいいかも。

あとは描写かな。描写が極端に少ないもの、多いもの……イメージがしにくい/ごちゃごちゃとして読みにくい……そういう評価になりやすいので注意。

また特にファンタジーに多い傾向だが、幻獣や妖精等のファンタジーによくみられるものを出す際、普遍的なイメージに依りすぎていて描写が抜けたり、普遍的なイメージから抜け出せない描写をしてしまうものも見られた。……スライムが人間の姿をしててもいいじゃないw

ただし、こう書くのが正解、というものはないため、密度に関しては難しいところ。



あ、あと!!

自主企画では規約違反のものも多く見受けられたのも事実。

規約違反例↓

・文字数オーバー

・文字数未達

・約十万字前後で起承転結となっていない

・そもそも小説ではない。(脚本や5chによくあるようなSS)

・ジャンル(カテゴリー)違反

・既定の送付内容以外の資料添付(人物紹介や各国の勢力図、地図、イラスト、用語説明、世界観の説明、年表等)

※作中で説明するのはあり。ただし、作中で用語解説だけのページを何十ページも書くと落ちる可能性は高くなる。


厳格な賞だと、少しでもこれらの規約に触れると読まれずに一次落ちの判定が下るので、特に注意したほうがいいはず。


え、そんなのあるの? と思うかもしれないが、少なくても小説投稿サイトから応募できる新人賞の4~5割はここで弾かれている。(厳密に言うとジャンル、カテゴリー違反が1割。残りの3割~4割がそれ以外の違反内容)



最後に


もちろん、自主企画参加作品には素晴らしいなと思ったのもあったし、この作品は〇〇の部分で引っかかるだろうけど別な部分ではとてもいいな、もったいないなと思うものが大部分だった。


いろいろ書いたけど、マイナスの部分の羅列ということではなく、プラスに転じることができる部分の列挙というふうに思ってもらえると嬉しい。


新人賞を考えている人、プロ志望の人が一人でも多く受賞に近づけるといいなと、そう思っている。

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他の方の自主企画に便乗して感想を書いてみた結果(毒注意!) 神辺 茉莉花 @marika

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