07 魔王、再び星を詠む。


「まったく盗み見するなんて悪趣味な……」


 実験室でマンドラゴラを洗っていた魔王は、姫が水晶でこちらを覗いているのに気づき、すぐに結界を張った。これで水晶に映ることはないだろう。


 ぬるま湯に浸かったマンドラゴラは鼻歌を歌いながら、自分の体に付いた土を落としていた。


「ほら、綺麗になったらまた干すからな」

「デトォ~クス」

「やかましい。どこで覚えたそんな言葉」


 大方、中庭の植物達がどこかで仕入れてきた知識を聞いていたのだろう。あのおしゃべりは本当にろくなことを話さない。


「ったく……これを終わらせたら次はアステールの様子を……」


 そこまで呟いて魔王は自分が犯した失態に気付き、息を呑んだ。


 慌てて実験室を飛び出し、彼女がいる書斎へ向かう。魔王はノックもせずに書斎のドアを開けると、戸惑い驚いた様子でこちらを見つめる彼女がいた。


「魔王……これは一体どういうことなの……」


 水晶の中からひどく咳き込む男の姿が映し出されていた。


 それはアステール国王、彼女の父親だ。


『おのれぇ……あの星屑めぇ……ゴホゴホゴホッ!』

『陛下! お気を確かに! 今すぐ医師を呼べ!』


 胸を押さえ、苦しむ国王の下に家臣達が慌てて寝室に運び出す光景に、魔王は嘆息を漏らした。


(遅かったか……)

「なんでお父様が……いえ、お父様だけじゃないわ! 国民もお父様のようにひどく咳き込んで苦しんでる。どうなっているの? アステールで何が起こってるの⁉」


 アステールがこうなることを魔王はもちろん知っていた。彼女の為にも黙っておこうと思っていたが、こんなにも早く知られてしまうとは。


 彼女のアイスブルーの瞳がきつく魔王を睨みつける。その瞳に宿る感情が一体なんなのか魔王には分からなかった。



「答えて魔王。いいえ、流星の魔法使い! これは……あなたの星詠みに関係することなの⁉」


 もう隠し通すのは無駄だろう。魔王は観念したようにため息をもらすと、彼女のアイスブルーの瞳を見返した。



「アステール第一王女が十六歳になる年、肥大化したエーテルは腐敗し、大地を穢すだろう」



 魔王はあの時に詠んだ国の結末を口にする。


「穢れた大地は疫病を生み、やがて国と民の命を蝕む厄災となる。その脅威はアステール第一王女が隣国へ嫁いだことにより他国にまで広がるだろう」


 彼女のアイスブルーの瞳が大きく揺れているのが分かった。それでも魔王は口を閉ざすことはなかった。



「そして、十六歳になった日。アステールは滅び、人が住むことができない土地になる…………これが、オレがあの時に詠んだアステールの未来だ」



 彼女が傷つくと分かっていても、魔王ははっきりと告げる。



「だから、お前を国には帰せない」



 魔王は彼女の横をすり抜け、水晶の箱を静かに閉じた。



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囚われ姫と星屑魔王 こふる/すずきこふる @kofuru-01

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