06 姫、のぞき見をする。
「すごい……本当にどこでも映るのね!」
遊び道具を手に入れた姫は水晶に念じて自分がいる書斎や屋敷の厨房、そして物置部屋を眺めていた。
彼の言う通り、風呂場やトイレ、自分や魔王の寝室は覗けないようになっている。
「ちゃんとプライバシー保護されてるじゃない。本当に生真面目ね……魔王の部屋を覗いてみたかったけど。まあ、あの性格だから、部屋の中もきっちりかっちり整頓されてるだろうけど……そういえば、アイツは今何してるのかしら?」
姫は魔王のいる場所を念じると、水晶に彼の後ろ姿が映し出された。
「見たことがない部屋ね……どこかしら?」
広い机の上には実験器具が並び、天井ほどの高さがある棚が壁を覆い隠していた。棚の中には乾燥させた植物や見ただけでは分からないものが置かれている。
「覗けるってことは見ちゃいけない部屋ではないだろうけど……」
魔王はテーブルに置かれていたマンドラゴラを優しく抱きかかえると、水が張られた桶に入れる。
『アッハァ~ン』
『変な声を出すな』
苛立ち気にマンドラゴラを小突く魔王を見て、姫は必死に笑いをこらえた。
「なに、魔王……ふふっ……いつもこんなことしてるの? くふっ」
相手に声が聞こえてないと分かっていても、思わず声を押さえてしまう。面白いのでこのままもう少し見学してようと、彼の様子を眺めていると、魔王が振り返った。
「え……?」
水晶越しから、彼の黄金色の瞳としっかり目が合っているのが分かる。
魔王がこちらに向かって指をぱちんと鳴らすと、ぶつんと彼の姿が映らなくなった。
「嘘……アイツ、見られてるって気づいたの?」
何度念じても魔王の姿は映らない。おそらく部屋の様子が見えないように魔法をかけたのだろう。
「むー……しょうがないわね。次はどこを見ようかしら……」
屋敷の中はあらかた見た。塀を隔てた屋敷の外には役所があるが、見ても面白くないだろう。
「う~ん……なかなか思いつかないわね。セイレーンの様子でも……いや、魔王みたいに気付かれたら盗み見してるみたいでちょっと気まずいわね……そういえば」
ふと、姫の脳裏にセイレーンの言葉が過った。
『いいえ、星詠みの予言は絶対です。どんな形であろうとアステールは必ず滅びます』
自分がアステールを出た頃、まだ国は滅ぶような様子は見られなかった。
不作で困るようなこともなければ、天変地異で地が割れるようなこともない。平和そのものだった。
(アステールは今……どうなっているのかしら)
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