磨りガラスを割って見た世界

 などと、ひとこと紹介に気取った言葉を載せてみたくなる、そんな文学寄りの物語です。

 作者のサンダルウッドさんが、文章が巧みである事、また多くの人が自分の心を多かれ少なかれ、磨りガラス越しに見せるかのように振る舞っている事を突ける人だけに、人の描写にこそ引き込まれるものがあります。傷ついた、傷つけたという関係を、どちらか一方を悪く書かず、双方共に原因がある事を書ける人は、希有であると私は思っています。

 原因があるが、かといって責任があるとは限らないというのが、何事にもある事を思い出させる描写は、読者に「自分が属している陣営だけを持ち上げて、恍惚感を与える」という文章ではありません。不自由な顔をして自由を語っているタイプの人には、面白くない部分が多いけれど、不自由なんだから不自由なりに生きてくタイプの人には、非常に人間関係や、それぞれの趣味・嗜好が素晴らしく面白いと思います。

 電車に乗って移動して、どこの駅からでも半径1キロ圏内で生活が完結していない人程、引き込まれる世界です。

 作中のどこにも描かれていませんが、見上げれば狭苦しい空がある所にいるような、そんな不思議な感覚と面白さを感じずにはいられません。

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