難はみかげ

作者 サンダルウッド

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★★★ Excellent!!!

 などと、ひとこと紹介に気取った言葉を載せてみたくなる、そんな文学寄りの物語です。

 作者のサンダルウッドさんが、文章が巧みである事、また多くの人が自分の心を多かれ少なかれ、磨りガラス越しに見せるかのように振る舞っている事を突ける人だけに、人の描写にこそ引き込まれるものがあります。傷ついた、傷つけたという関係を、どちらか一方を悪く書かず、双方共に原因がある事を書ける人は、希有であると私は思っています。

 原因があるが、かといって責任があるとは限らないというのが、何事にもある事を思い出させる描写は、読者に「自分が属している陣営だけを持ち上げて、恍惚感を与える」という文章ではありません。不自由な顔をして自由を語っているタイプの人には、面白くない部分が多いけれど、不自由なんだから不自由なりに生きてくタイプの人には、非常に人間関係や、それぞれの趣味・嗜好が素晴らしく面白いと思います。

 電車に乗って移動して、どこの駅からでも半径1キロ圏内で生活が完結していない人程、引き込まれる世界です。

 作中のどこにも描かれていませんが、見上げれば狭苦しい空がある所にいるような、そんな不思議な感覚と面白さを感じずにはいられません。

★★★ Excellent!!!

美しく流れる音楽の如き文章には、作者のこだわりを感じる。
囲碁や音楽を織り交ぜながら描かれていく青年2人の姿は、社会の中にいながらも、どこかズレてしまっている。
美しい文章で描かれているのに、その内容は苦しみや葛藤、ごく当たり前に抱きそうであり、そうでもないようであり、現実というものを鼻先にぶら下げられているような気持ちにもなる。
彼らの息苦しささえ感じさせる細やかな描写は、最早芸術と言っても過言ではないかもしれない。
ぜひとも読んでいただきたい一作である。

★★★ Excellent!!!

若き青年二人が抱えた社会とのズレが、心の底で軋むようでした。

洗練された一般文芸的な文体と、縦読みをしたくなる画面使いはワタシ個人的な好みにガッチリはまっていました。
それだけでももう「好きです」とお伝えしたいのに、描写の細やかさなどは脱帽でした。

青年二人の視線の先に見えたもの、感じたもの、鼻先を掠めるものに喉の奥の温度まで。
五感に直接訴えかけてくるような土曜の朝から夕刻までを、あなたも触れてみませんか。

★★★ Excellent!!!

やはり純文学なだけあり、文章構成や、現在を舞台にしたヒューマンドラマ、それらが全て美しく仕上がったものとなり、他とは一線を画す高尚な純文学作品と言える作品です。
 大学を卒業し、大人となったばかりの二人を主軸に、語られる友情と、将来に対する葛藤、内容そのものは美しいだけでなく、現実味のある重く泥臭い感に、思い悩む様子……それらを文学以上に、高い芸術へと昇華させた物と言える内容でした。