一冊の「宝物」を創り出す情熱、それは物語への深い愛情。

大手出版社での挫折を経験した主人公が自分なりのやり方で、「本」そして「出版」へと向き合っていく姿が真摯に描かれる。
「ミュゲ書房」というどこかノスタルジックで独特な空間、そこへ集まる人々が非常に魅力的であり、こんな本屋を訪れてみたいという気にさせる。そしてこの小さな本屋を舞台に展開する物語には引き込まれずにいられない。
一冊の本ができるまでの工程、それに携わる人々の描写がとても興味深く、沢山の人の手が加わっているのだと改めて実感させられる。が、そこにはもちろん、商業としてのシビアな面がつねについて回る。大きな流れに身を任せるのか、自分のポリシーを貫くのか。
読むことは消費することではなく、自分の中に蓄積するものだと思う。同時に本も消費物ではない。手元に置いて折につけ読み返す、宝物のような存在ではないだろうか。この作品はそんな根源の部分を改めて感じさせてくれる。「本」に対する情熱と、「物語」への深い愛情がぎっしりと詰まった作品である。

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